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黄色い太陽。

写真や写真集は読むもので、見るものではない。

僕にとってはこの言葉が一番しっくりきている。

写真を読むとは、写真に写っているモノから何を感じ取るかで、なぜその表情(人に限らず風景でも)をしているのか、その前後では何が起きていたのかなど、そこにどんな背景、物語があるのかを読み取るというのが写真を読むという行為だ。写真集に関して言えば、なぜこのサイズの本なのか、なぜこの写真をセレクトし、このレイアウトなのか、なぜこの紙を使っているのかなどそれは多岐に渡る。もちろん全ての写真を読み取る必要もなく、読ませることを前提としていない写真もあり、それらを全て否定するつもりもない。ただ、僕にとって写真は読むことが大切で、何かしらの余韻や余白(実質的な構図の余白ではなく、人が考えられる余白や余地)が残っていない写真は、僕には立ち止まることもなく素通りしてしまう。

ずっと影響を受けている写真集の一つに小浪次郎さんの「黄色い太陽」という本がある。小浪次郎さんは現在はNYを拠点に活動し、多くのファッションブランドや著名人を撮影、世界中のクリエイターから注目されている写真家だ。その小浪次郎さんが出身地である八丈島と父親との日々を写真で綴っている。

2021年に写真集発売と同時に開催された写真展を今でも鮮明に覚えている。ひとつひとつの写真はもちろんのこと、様々な大きさや種類の違う額装による展示のレイアウトなど空間全てが素晴らしかった。

世にある写真集は、すぐに見終わってしまうものもあれば、何回読んでも読み切れない写真集がある。小浪さんの「黄色い太陽」は単純にページ数が多いからというわけではなく、写真集から小浪さんの感情や言葉を読み取るには、時間をかけて少しずつでしか読み取ることができない素晴らしい本だ。写真集の最後に載っているステートメントを除けば、それ以外に言葉はなく写真だけが304ページに及び、この多くの写真の中から作者の意図を読み取ろうとするにはとても時間がかかる。

でも、時間をかけて読めばいい。時に触れずともまた気が向いたときに手に取り、また読み返す。そうすることで今まであまり気に留めていなかった写真に新たに惹かれ、今までも惹かれていた写真は改めてその魅力に引き込まれながら、写真に写し出された言葉なき言葉を考えさせられる。僕は発売されてからこの3年でこの写真集を何度も読み返しては、ひとつひとつの写真に小浪さんの愛情や思慕、郷愁といった気持ちを少しずつ感じるようになった。

自分が好きな映画やドラマや漫画など何度読んでも楽しいものがあるように、一度しか読まれず、本棚にそっとしまわれている写真集ではなく、何度も読まれるような写真集は作者にとってこの上ない幸せではないだろうか。僕自身、2ヶ月後には2冊目の写真集を刊行するが、小浪さんの「黄色い太陽」のような素晴らしい本に程遠くとも、手に取った人が何度も読み返してくれるような写真集をいつか残せればと思っている。

僕にとって「黄色い太陽」という写真集はこれからもずっと読んでいきたい本。

あなたにも何度も読み返したいそんな本はありますか?

※ヘッダー写真は出版されたPARCO出版から拝借。


石橋純

東京を拠点に様々な国や地域の自然に触れながら登山や旅をする写真家。 東京・南青山にあるジャズクラブ BLUE NOTE TOKYO では国内外のトップアーティストを撮影し、ファッション雑誌やアルバムジャケットの撮影やコラム執筆など幅広い仕事を行っている。
またユネスコの無形文化遺産であるブラジルの伝統芸能「カポエイラ」を26年間学び、LAを本部に置くCapoeira Batuque カポエイラバトゥーキ日本支部代表、Contra Mestre(副師範) の位を持つ。20年近く子供から大人までを教えながらTVやCM、アーティストのMVや広告などでカポエイラの監修や指導をしながら自身もパフォーマー兼モデルとして活動する。
2022年に写真集「Life is Fleeting」を刊行。2024年12/7-12/22まで東京・学芸大学にあるBook and Sonsにて個展を開催予定、自身2冊目の写真集も発売する。

Jun Ishibashi is a Tokyo-based photographer. He travels around the globe, engaging in mountaineering and other nature-related activities. His wide range of work includes writing columns and photographing mountains, fashion, album covers, and top artists worldwide̶including ones in Japan’s BLUE NOTE TOKYO, a famous jazz club in Tokyo. He also studied Capoeira for 26 years, a traditional Brazilian art form that is listed in UNESCO’s Intangible Cultural Heritage. As a certified Contra Mestre in the LA- based group Capoeira Batuque, he has been teaching people of all ages for over 20 years. Furthermore, he is a performer and model, supervising and teaching Capoeira on TV, such as in commercials, music videos, and advertisements for artists.


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