
ぶどうの木の剪定から
カリフォルニアのナパ バレーでは2月は剪定の時期、僕は今年も行ってきました。ここはナパ バレーの最南端に位置する地区ロス カルネロス AVA。ここに4本(ぽっきり)のぶどうの木を持っています。というか、年間契約でリースしているのです。
畑の中でぶどうの木は整列して立っているだけに見えますが、常時仕事をしているのです。根から大地の栄養と水分を吸収して大きく育つこと、これが基本です。ぶどうの木は太くなりませんが、普通は 40~50年がその生命と言われています。しかし品種によっては100年近く、あるいはそれ以上も生きているものもあります。通常 50年以上生きているぶどうの木は Old Vine(古木=こぼく)と言われます。古木はもう成長の勢いがなく、ぶどうの実も多く産出することはありません。それでもぶどうの房が多いからいいというわけではなく、古木が付ける実にはまたそれなりの味わいがあるものです。
若い木は(4年目くらいからワイン用として使えるような実を付けるようになると言われていますが)成長の勢いがあるので、たくさんの実のなった房をつけることができます。しかし、数が多ければいいというわけではなく、むしろ結実の量を意識的に制限することによって、養分が凝縮された実が得られるということもあります。そのための作業が「剪定(せんてい)」です。
春の訪れの兆しとともにぶどうの成長のサイクルが始まります。が、その少し前に人はぶどうの木に語り掛けます。「今年も頼むよ、元気に成長してくれよな」という感じでしょうか。語り掛けながら、前年に元気に育った枝や蔓が方々に伸びているのをある程度刈り込む、これを Pre-Pruningと言い(上の写真の状態)、さらにこれからの成長に向けて、どの枝に実が付くようにするか、しっかり木全体の姿を見て判断しながら切り込んでいく、これを Pruningと言います。言ってみれば、長髪だった中学生の男の子の髪をまず短く刈り込んで、仕上げにテカテカの丸坊主にするという感じですね。^^
今回、畑に行って実施したのはプルーニング、僕はこれで4回目ですから要領はわかっています。プロフェッショナルな仕事ではないけれど、こうして自然と向き合うという機会はたいせつですね。そのために準備するのが、まずこれ、ゴム長ぐつ。畑に入るにはこれは必定です。
それから剪定ハサミ。これがないと剪定の仕事は始まらないですね。
これだけ揃えてぶどうの木の前に立つ。(さて、これをどう仕切っていくかな)と考えるところから始めます。剪定するのはぶどうの木のスタートですから、これから枝ぶりがどのように成長していくか、そのコースを決めるのが剪定です。まだこの時点では枯れた木のように、元気もなく萎れているように見えますが、実はもう小さな芽が付いているのです。
栽培の方法はいくつもありますが、上の写真で見られるのがナパ バレーでは一般的で、まず1本の幹(Trunkと言います)があって、それが左右に分かれて(Cordon)そのそれぞれに瘤(Node)がありますが、普通それは3〜5つ、そしてそのそれぞれの瘤から小枝(Cane)が何本か出ていますが(上の写真参照)、これが剪定前の状態。このケインを1つの瘤に2本になるように切除してしまいます。それぞれのケインには芽(Bud)が出ているわけですが、その芽を下から2つだけ残して、後は短く切り落としてしまいます。春になってせっかく出てきた芽をつけたケインを切ってしまう、ここが辛いところですね。文字通り、剪定は選定なのです。これからの成長を思い、残念ながら選定されなかったケインはここで切り落とされてしまう。人の教育では、こういうことは普通は決してやってはいけませんね。人はいろいろな側面があって、どういう才能が隠されているかわからないので、その才能を伸ばすように育てる。ところがワイン用のぶどうの場合はそうではありません。そのケインに付いた芽から、いよいよ小枝(shoot)が出てくるのですが、これにぶどうの房が付くことになります。ずいぶん複雑ですが、そういうことなどを考えながら剪定をやっていくのは大変です。しかし、その結果として美味しいワインがいただけるというわけです。
以上はあくまでも基本的な話で、実際にはこれよりも複雑です。自然は限りなく複雑ですからね。しかしまた限りなく単純であるとも言えます。ぶどうは毎年同じように房をつけて、人は毎年繰り返しその恩恵にあずかっています。
ふーむ、複雑にして単純か。そのようなことを考えながらワインを飲む、その日を夢見ながら剪定をした結果の写真を最後に掲げておきますね。