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大人のオシャレを演出。真鍮のバングル #7

ファッションに無頓着なわたしはいつも同じ格好をしていた。たいていジーンズ&Tシャツ姿である。

そんな自分は今までアクセサリーを身につけたことがなかった。「アクセサリーなんてチャラチャラ男しか着けない」という、古臭い慣習に囚われていたのだ。

しかし会社のレジャーサイトにはバングル、リング、ペンダントなど、様々なアクセサリー作り体験がある。そろそろ古い考えから脱却して、新しいオシャレに目覚めるのも面白そうだ。

そこでわたしは彫金教室でバングル作りを体験することにした。

その教室は渋谷にあった。宮益坂の途中にあり、その立地の良さに驚く。

教室は20人くらい収容できる広さで、数人の女性がアクセサリー作りをしていた。

レッスンでは若い女性の先生が指導してくれた。

まずはバングルの素材を選ぶ。

素材はシルバーと真鍮があるが、わたしは真鍮を選んだ。シルバーは見た目が少し派手だし、追加料金がかかるためだ。

続いて先生からカットされた真鍮の棒を渡される。なんの変哲もないただの棒だ。

「バングルには好きな英字・数字を刻印できます。カップルだと、記念日を刻印するのが人気ですね」と先生は言った。

そこでわたしは「GOING SOLO(単独飛行)」という文字を入れることにした。特に意味はなく、おまじないのようなものだ。

アルファベットが刻まれた金具を真鍮に当てると、ハンマーでガン、と打ち付ける。すると文字が刻まれた。

しかし細い棒に刻印を入れるのは難しくて、文字がはみ出たり、文字の縦横の向きを間違えたり、何度も失敗してしまった。

「それなら刻印が入った面をバングルの内側にしましょうか。それなら文字が見えなくなりますよ」と先生はフォローしてくれた。

次はバングルの外側に「鎚目模様」を入れていく。鎚目模様とは文字通り、ハンマーで入れる模様のことだ。

鉄床の上に真鍮の棒を置くと、ハンマーでガンガン叩いた。
すると真鍮に凹凸模様ができあがった。そこに光が当たると、真鍮は淡く輝く。

模様を入れた後は、バーナーで真鍮を加熱してやわらかくする。この作業は講師の人が行ってくれる。

真鍮がやわらかくなると成形の作業。ペンチで曲げてバングルの形にした。

自分の手首に合ったフィット感を出すのはけっこう難しかった。あまりきつくするとつけ心地が悪いし、ゆるくすると外れてしまう。何度も試着を繰り返してはお気に入りのフィット感を目指した。

最後は研磨作業。ブラシをつけたリューターでバングルを隅々まで磨いていく。
リューターを当てた部分は摩擦熱で熱くなるため、触らないように注意する必要がある。しかしわたしは何度か摩擦した部分に触れてしまい、熱い思いをした。

磨いたバングルはいきいきと輝き出した。凹凸模様が光を反射して、ほのかに輝く。

こうしてオリジナルのバングルの完成。

真鍮のバングルは落ち着いた色合いで、静かな光を放っている。決してギラギラしないのが真鍮の良いところだ。

また、ただ棒を曲げただけというシンプルなデザインも良い。大人の渋さを醸し出してくれそうだ。

さっそく着けてみると、少しあか抜けたような気がした。

「真鍮は使えば使うほど味が出るので、長く使ってくださいね」

と先生は言った。

別の日、わたしはリング作りを体験することにした。向かったのは代々木上原にあるジュエリー教室。

そこは手づくりの結婚指輪を扱っているアトリエだった。入り口にはサンプルが陳列してあり、ゴールドやシルバーなど高級感あふれるリングが並んでいる。

教室に参加者が集まるとリング作りが始まった。まずは素材を真鍮かシルバーから選べるのだが、わたしはやはり真鍮を選んだ。

次は指輪のサンプルをはめて、指のサイズを採寸する。採寸が終わったら真鍮をペンチでカットする。
カットした真鍮は講師の方にバーナーで加熱してもらう。加熱された真鍮はハンマーで叩いて輪の形に加工した。

輪になった真鍮には、ロウの粉をまぶす。そこをさらにバーナーで加熱すると、ロウが溶けて接着剤の役割を果たすのだ。
加熱されたリングは焼け焦げた状態で真っ黒だ。しかしやすりで磨くと、みるみるうちに金色の輝きを放ち始めた。

最後に仕上げを行う。リングを鉄の棒にはめると、指のサイズに合うよう、ハンマーで叩いて調節する。それが終わるとリングの表面を叩いて鎚目模様を入れた。

講師の人が仕上げを行い、真鍮のリングが完成。

リングは小さいけれど存在感があった。幅は太くもなく細くもなくちょうどいいサイズだ。

そして真鍮の自己主張しすぎない輝き具合も良い。自分のような無骨な人間に合っていると感じる。

はめてみるとリングは指元でキラリと輝いた。普段使いからパーティーまで、様々なシーンで活躍してくれそうだ。

リング作りのあとは講師の人がお茶とケーキを出してくれた。ケーキは講師の方の手作りだという。

こうしてわたしはアクセサリーデビューを果たした。

自作のアクセサリーを着けて出かけると、それだけで気分が上がるから不思議だ。ほとんど人目につかないのに、自分はオシャレをしているのだという高揚感がある。まるで新しい服を買って出かけた時のような気分だ。

また、友人などの前で身に着けて、

「それどこで買ったの?」と聞かれた時も気分がいい。

「自分で作ったんだ」と答えると誰もが驚いた反応をし、そのクオリティを褒めてくれる。

わたしはアクセサリーの魅力が少しわかったような気がした。アクセサリーは着用者の見た目を彩るのではない。心を彩ってくれるのだ。


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