闘志を燃やせ!バブルサッカー #8
会社のイベントでバブルサッカーを体験することになった。当時、会社ではバブルサッカーの体験予約を扱っており、社員たちから「自分もやってみたい」という声が上がったのだ。
バブルサッカーはノルウェーで生まれた遊びだ。空気の入ったボールに入り、ぶつかりあいやサッカーをする。テレビのバラエティ番組で見たことがある人もいるだろう。
バブルサッカーを体験するにはフットサル場などのコートを事前に予約する必要がある。そちらは経理の人がしてくれた。
平日の夜。
「夜間に天気が崩れそうだ」という予報を受けたわたしたちは、仕事を早めに切り上げると東陽町のフットサル場に向かった。
バブルサッカーの参加者は20人ほどおり、学生インターンからママさんアルバイトまで、年齢も立場もバラバラだ。ただ、みんな「若くて血気盛んである」という共通点があった。
更衣室で運動着に着替えると、インストラクターの指示で準備運動。それが終わるとバブルボールに入る時が来た。
バブルボールは縦に穴が空いており、下の穴から中に潜り込む。背中側にあるベルトに腕を通し、正面側の取っ手を持って立ち上がれば、バブル人間の出来上がりである。
バブルの重さは15kg。全身がずっしりと重く、まるで上から体を押さえつけられているような感覚だ。(※現在は10kgほどに軽量化されているらしい)
どんよりとくもった空の下、バブルボール体験が始まった。
まずは「バブル相撲」を体験。ルールは「8人でぶつかりあって、ひっくり返った人の負け」というシンプルなものだ。
「男女で遊ぶ場合、男性は片足で立つ」というハンディキャップがあるため、わたしは片足立ちで相撲に参加した。けんけんで移動するその姿は、まるで唐傘おばけのようだった。
インストラクターが試合開始の笛を鳴らす。
いきなり正面からバブル人間(バブルに包まれているので、相手が誰かもわからない)がこちらに突進してきた。身を低くして構えたが、踏ん張りが足りなかった。
ボンッという音とともに体が後ろに吹き飛ばされる。まずい、これは頭を打つ転び方だ!
しかしそうはならなかった。ボールに包まれた体は地面をゴロンと転がっただけで、まったく無傷だった。
地面に横たわったまま、わたしはしばらくボーっとしていた。
なんだろうこの感覚。今の自分は無敵で、何者にも傷つけられることがない。同時に、他人を傷つけることもできないのだ。
バブル相撲はなかなか愉快だった。自分の体を他人にぶつけ合うなんて、まるでおしくらまんじゅうのようだ。わたしたちは童心に還った気分でフィールドを駆け回った。
他人のプレイを見ていると、相撲ひとつでもその人の性格が出るのが面白かった。まっすぐな性格をしている人は、何もためらわずに正面から突っ込んでいく。受け身な人はフィールドを逃げ回りながら敵の様子をうかがう。中には「誰かが体当たりした瞬間、そのスキを狙って攻撃する」という狡猾な人もいた。
続いて4対4のチームに分かれてバブルサッカーをした。
ルールは通常のサッカーと同じだが「敵のディフェンスに体当たりしてOK」という点が荒々しい。試合開始と同時に、あちこちでぶつかりあいが巻き起こった。
バブルサッカーは想像以上の重労働だった。15kgのバブルを抱えて走って、ボールを蹴って、邪魔なディフェンスは吹き飛ばす。あまりの負荷に全身の筋肉が悲鳴を上げた。
試合時間はたったの3分だが、その3分が永遠と思えるほど長かった。
バブルボール内部は通気性が悪く呼吸がしづらい。だんだん息が上がっていき、視界がぼやけていくのを感じた。
わたしは2試合で1ゴールを決め、2試合とも勝利した。命を削る気持ちでプレイしたからか、バブルサッカーもかなり楽しめた。
最後は男性と女性に分かれてバブル相撲をすることになった。
同性相手なら「片足で立つ」というハンディキャップがない。そのことを知った男性陣はいきり立った。フィールドは「もう遠慮はいらない、全員ぶっ倒してやる」という闘志に包まれた。
実際、男同士のバブル相撲は勇ましさにあふれていた。力のある人はバブルを抱えた状態で、とてつもないスピードで走る。それが衝突し合い、ボスン、ドスン、という鈍い音が響く。
男たちはいつの間にか突進を防御する方法を身につけていた。
まず相手が向かってきたのを見たら、ボールを低く構えて防御態勢を取る。そして衝突の瞬間にボールをかちあげることで、体当たりの衝撃を殺すのだ。まるで雄牛同士の戦いのようだった。
残り人数が二人になり、それでも決着がつかない場合は「サドンデス」が行われた。
サドンデスではお互いがコートの端に立ち、猛ダッシュでぶつかり合って勝敗を決める。その勝負は迫力満点で、負けた方は1メートルぐらい吹き飛ばされていた。
体験が終わり、最後はみんなで記念撮影。この時ついに雨が降り始めた。わたしたちは最後までもってくれた空に感謝した。
翌日、SNSに「バブルサッカーを体験した!」という投稿が次々とアップされた。どの投稿も感動にあふれていて、すべての投稿が
「次の日、全身筋肉痛になりました」の一言で結ばれているのが面白かった。
わたしも同じような投稿をアップした。つまりバブルサッカーの感動と、翌日全身筋肉痛になったことを報告したのだ。
今までわたしは、バブルサッカーはテレビタレントが遊ぶものだと思っていた。しかし、人数と場所さえ確保できれば一般人でもバブルサッカーはできるのだ。
こうしてユニークな体験をするたび、わたしは「自分は何でもできるんだ」という自信が湧いてくるのを感じた。