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飴細工&瓦割りツアーと骨折 #17

SNSで新しい遊びを探していたら、「飴細工」と「瓦割り」を体験できるお店を発見した。どうもまだ会社では取り扱っていない遊びのようだ。

これはわたしたちで行くしかない。社内でメンバーを募集して、5人の男女で出かけた。

向かったのは飴細工の教室。隅田公園から少し歩いた場所にあった。

中に入るとうさぎや金魚など、手製の飴細工が展示されている。どれもガラス細工のように繊細で、とても飴で作ったとは思えない。

体験時間になると参加者がぞくぞくと集まり、教室は満員になった。どうやらかなり人気の体験のようだ。

そして飴細工体験が始まる。

飴細工体験で作るのは「うさぎ」である。まずは講師の人が作り方を実演してくれた。

棒に刺さった白くて丸い飴を、伸ばす、和ハサミで切る、整える。そんな作業を何度か繰り返すと、躍動感あふれるうさぎが完成した。あまりに手際の良さに、まるで手品でも見ているような気分だ。

そしてわたしたちの番になった。一人ずつ順番に溶けた飴を渡されるのだが、

「熱っ!」

飴からは火傷しそうなほどの熱が伝わってくる。

熱さにひるんでもたもた作業していたら、飴は冷えて固まってしまった。あとに残ったのは、耳はツンツン、手足はトゲトゲのクリーチャー。

他のメンバーもみんなトゲトゲしいうさぎになっていた。

2回目の練習を挟み、3回目はいよいよ本番。

講師の人が再びうさぎ作りを実演してくれたので、わたしたちはそれを穴が空くほど見つめた。

飴を渡されるなりすぐに作業を始める。

「まずは耳を作って、前足を伸ばして……しっぽを作ったら、後ろ足をちょん……」

わたしは周りの音が聞こえなくなるほど集中していた。

飴細工はスピードがすべてだ。うさぎがトゲトゲしくなってしまうのは、飴が冷え固まった状態で加工するから。飴が溶けかけのうちに加工すれば、丸みを演出できるはず……。

最終的に胴が長くて耳の丸い、なんとかうさぎに見える生き物が完成した。食紅で目に色を塗ると、さらにうさぎらしくなった。

わたしたちは作ったうさぎを並べると、品評会を開催。このうさぎが一番かわいい、このうさぎはここがおかしいと、ワイワイ盛り上がった。

飴細工は実に奥深い体験だった。飴の熱さを恐れない大胆さと、かわいいうさぎを作る繊細さ、相反するセンスを同時に発揮しなければならないのだ。

飴細工を堪能した一行は瓦割り体験に向かった。

瓦割りのお店はかなり人目を引く外観をしていた。店の壁は割れた瓦を積み重ねたものでできており、中央には瓦割りのセットが置いてあったのだ。

まずは代表の人に挨拶する。彼は平日は会社勤め、休日は瓦割りのお店を運営するという、二足の草鞋を履く生活を送っているのだそうだ。

わたしたちは誓約書にサインをした。そこには
「勝負は一回きり」
「瓦が割れたら自分を最大限褒めてあげる」など、ユニークな文言が描かれていた。
まずは女性メンバーが2枚の瓦割りにチャレンジした。彼女は半纏に着替えると、赤いグローブを着用して瓦と対峙する。

「それでは瓦割り2枚チャレンジ、いってみましょう!」

彼女は拳を振り上げると、えいやと瓦を叩く。瓦はパリンという音を立てて割れた。

続いて男性メンバーのチャレンジ。彼は10枚の瓦を豪快に叩き割ってみせた。

そしてわたしの番が来た。半纏とグローブを着用し、意気揚々と瓦の前に立つ。割る瓦の枚数は5枚だ。

瓦の割り方は正拳で瓦を貫く「正拳突き」と、手刀を振り下ろす「チョップ」の2種類がある。

わたしは「正拳突き」をチョイスした。この方が少年マンガらしくてカッコいいからだ。

「さぁそれでは瓦割り5枚、いってみましょう!」

拳を振り上げ、ありったけの力を込めて振り下ろすと――

ガンッ。

鈍い音と共にわたしは地面をのたうち回っていた。どうも瓦の外側を殴ってしまったようで、瓦は一枚も割れなかった。

ぶつけたのは人差し指の根本の部分。指が真っ赤に腫れてズキズキと痛む。

「大丈夫ですか?」

あわてた代表の人が傷口に湿布を貼ってくれた。

わたしは瓦が割れなかったショックでしばらく放心状態だったが、すぐに気を取り直すと

「すみません、今度はチョップでいかせてもらえませんか?」と代表の人に直訴した。

指が痛いのでもう正拳突きはできない。でも、手の腹を使うチョップならまだいける。

という訳で、特別にもう一度チャレンジさせてもらうことになった。

拳を握ると大きく息を吸う。そして地球を割るぐらいのつもりで拳を振り下ろした。

「ガシャン!」という快音と共に、5枚の瓦が真っ二つに割れる。手ごたえが気持ちいい!

瓦を叩いた衝撃は傷口にも伝わり、骨を針で刺されたように痛かった。しかし、今は瓦割りが成功した喜びにひたることにした。

休日明けのオフィス。

わたしは仕事中、キーボードを叩く手を止めては傷の痛みに悶絶した。指の痛みは次の日も、また次の日も続いた。

一週間後。ついに痛みに耐えかねたわたしは整形外科へ行くことにした。
受付をすると看護師さんが症状を聞きに来る。

「今日はどうされたんですか?」

「手をぶつけました」

「はい。ぶつけてしまった物は覚えていますか?」

「瓦です」

「えっ?」

「瓦割りに失敗して指をぶつけたんです」

それを聞いた看護師さんの肩がピクピクと震え始めた。

「か、瓦はこう、拳で割ったんですか? それともチョップで割ったんですか?」

そこまで聞かれるのかと驚愕しつつ

「拳です」と答えると、とうとう看護師さんは笑い出してしまった。わたしは耳まで赤くなるのを感じた。

レントゲン写真を撮ってもらった結果、医師から「第二指中骨骨折」と診断された。人差し指の根本の骨が少し割れているのだそうだ。

幸いギプスによる固定の必要はなかったし、怪我もすぐに治った。しかし会社の人に診断結果を伝えるのがとても恥ずかしかった。

熱や痛みを伴う体験はいつだって心に残るもの。あつあつの飴と格闘し、骨折しながらも瓦に挑んだこのツアーは、わたしにとってひりつく様な思い出となった。


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