誰にも話せなかったこと 3
通報した数日後の日曜日の朝9時過ぎ。
家の電話が鳴った。家族は誰もいないようでずっと鳴りっぱなし。
寝てたので無視してたけどずっと鳴っている。
根負けして出ると警察だった。
Mを逮捕した。
話を訊きたいので警察署まで来て欲しいと。
寝起きで何の用意もしていなかったので1時間後に行くと言うと、
「かかりすぎるな。30分。そっからなら自転車でも30分で来れるから。30分後ね」
一方的に言われて電話を切られた。
今なら文句を言ったろうけど、19歳だった僕は警察が言う以上、従うしかないと急いで用意して自転車を立ちこぎして警察署まで急いだ。
人生初の警察署は感じ悪かった。
建物に入ると受付を隔てて10人くらいの制服警官が雑談している。
2階に来るよう言われてたので階段を上がろうとすると、
「ちょっと、そこの。どこ行くの」
雑談していた警官の1人に声を掛けられた。
電話があったことと電話をしてきた人の名前を伝えると、声を掛けてきた警官は別の警官を見た。見られた警官が頷くと、
「いって、よし」
そう言うと、また雑談に戻った。
何様?と思いながら2階に上がり指定された部署に行き声を掛けると、
「ユリアン君?さっき電話した〇〇ね。ほら30分で来れたでしょ?」
声を掛けた人が電話をしてきた刑事さんだった。
取調室に案内され「時間内に来れたご褒美」と麦茶を出され飲み終えると今回のこととMとの関係を中学まで遡って話した。
「自分のことを知ってる君が通報しないよう口封じと因縁つけて金を取ろうとしたのか。クズだな」
刑事さんは言い切ると写真の束を出してきた。
「人違いの可能性も0じゃないからMを確認してもらえる」
写真の束から8枚。写真を机に並べてMを指差してと言われた。
Mを指差すと、もう1回、ランダムで選んだ8枚の写真からもう1回、Mを確認した。
確認を終えると刑事さんはMのことを教えてくれた。
Mがカツアゲしてた周辺では少し前から同じような被害が続き捜査をしていた。
Mは高校時代、小中学生を狙ってカツアゲをしていて場所も今回と同じ。
その時、逮捕されていて犯行内容が似てることから今回の容疑者として浮上。
僕に来るよう指定した場所に現れたところを逮捕。
Mは僕への脅迫と被害届が出ている件も認め、他にも複数やったと自供。
共犯も一緒に逮捕された。
高2の時に僕に殴りかかってきた時は証言、証拠が固まっていて逮捕寸前。
交番に連れていかれた時は出頭したに等しい状態で、そのまま逮捕され少年院に入り数カ月前に出てきたばかりだと。
暴行未遂については僕も被害者になるのに連絡が無かったと言うと、
「未成年で少年法があったから詳細については教えられないの。君から被害届も出てないし」
交番で被害届を出すかなんて訊かれなかったので不満はあったけど、納得するしかなかった。
「君のせいで人生、メチャクチャになったって?
君が罪悪感を感じて金出すとでも考えたんじゃない?バカなりに考えたんだろうけど、誰がそれで罪悪感を感じると思うんだか。バカはどこまで行ってもバカだ」
刑事さんはMを完全に見下す言い方をしていた。
少年院から出てすぐ同じ犯罪を繰り返したMは確実に刑務所行きだと教えられた。
出てきた時、逆恨みしてこないか不安だと言うと、
「それは絶対ない。真っ当な人から見たら犯罪者は皆、同じだろうけど、こいつは小中学生を狙ってカツアゲする卑怯な小物。
こんな小物が傷害や殺人に繋がるようなことはしない。やろうと思えばこないだ出来たんだから。
もう君には関わってこないよ。君の通報で逮捕されたし君を脅せば警察呼ばれるって流石に学習したろうし」
刑事さんはとことんMを見下す言い方をした。
不安が完全に無くなった訳じゃないけど信じることにした。
「現場検証行きたいんだけど日曜で警察も人いないのよ。また連絡するから、今度行こう」
そう言われ、その日は帰された。
数日後、刑事さんから連絡が来て警察のワゴンで現場検証に行った。
現場に着くと、どの辺に車があってMがどこにいたかを指差すよう言われ、鑑識の人に写真を撮られた。
現場になった道は普段は車の通りは少ないのに、この日は上下線どちらも渋滞。
車に乗っている人達が“ 何々? ”といった感じでこちらを見ていた。
僕が何かをやらかしたように見られている気がして辛かったが必要だからと1時間近く何度も間違いが無いか同じ質問を繰り返されながら、写真を撮られた。
現場検証を終え警察署に戻る車内で、
「これでウチは終わり。だけど、検察でも話してもらわないといけないんで、また連絡する」
終わりかと思ったら今度は検察。
面倒だけど仕方ない。
後日、刑事さんから連絡が来て検察に行くことになった。