誰にも話せなかったこと 4
刑事さんから電話が来て検察に行く日を伝えられた。
言われた日に警察署に行き覆面パトカーで検察に。
検察の受付で指定された階に行くと、
「俺はここで待ってるから。検事さんにちゃんと話してね」
廊下の長椅子に座る刑事さんに見送られ指定された部屋にノックして入ると正面に40代半ばくらいの小太りの男性。
左側の机に若い男性。
「検事の〇〇です」
と言われたと思う。検事さんの名前は忘れた。
左側に座っていた男性は紹介が無かったが検察事務官だと思う。
ものすごいイケメンだったのを覚えている。
挨拶を返すとお座りくださいと言われ、今回の事件の調書を検事さんが読み上げ、検事さんが話すことを事務官の男性がノートパソコンに入力する“ カタカタ ”という音が響いた。
警察で確認された内容と同じ調書を検事さんは読み上げながら、
「小学生からも金取ってたのか。こいつ、クズだな」
検事さんは刑事さんと同じ感想を言っていた。
検事さんが読み上げる調書を確認してたが、
「このようなことをしたMを私は許せません。極刑を持って罪を償ってほしいと思います。こちらでよろしいですね?」
検事さんは読み終えるまで調書に目を落としたままでこちらを一切、見ず事務的な対応だった。
スルーしとけば良かったけど、言ってもいない言葉が追加されてたのにムカッときて、
『違います。彼の犯した犯罪で極刑にならないことくらい僕でも分かります。彼が犯した罪で最も重い罰が下るよう望みます』
そう言うと、挨拶の時しかこちらを見なかった検事さんがこちらを見た。
“ カタカタ ”というキーボードを叩く音がしなくなったのも気付いた。
事務官さんの方を見ると“ 君、何、言ってるの? ”と驚いた表情でこちらを見ていた。
「分かりました。そのように訂正します」
検事さんは訂正を約束してくれた後、こちらを真っすぐ見て、
「君のような真面目な子があの辺で深夜に働くのはどうなのかな。
差し手がましいようだけど、ご家庭や学校の都合とかもあるのかもしれないけど可能だったら、もう少し早い時間帯で終われるアルバイトとかないのかな?」
予想外の言葉。心配して言ってくれていたのは分かったので考えますと返事した。
その後、警察でも言われたMが実刑確実なのか訊くと、
「それは確実です。小中学生相手の恐喝行為は悪質ですし、過去に同じことをして少年院に入り出てすぐに同じことをしている。
くわえて、あなたへの脅迫行為は完全に逆恨みで反省の欠片もない。裁判次第なので懲役期間はどのくらいとは言えませんが間違いなく実刑です」
検事さんから丁寧な口調で教えてもらった。
証人として裁判への出廷はあるのかも尋ねると、
「それはありません。あなたへの脅迫行為、他の人への恐喝行為。共に全て認め、余罪も自供しています。自供をひっくり返しでもしない限り裁判は事実確認で終わるはずです」
「こちらで以上となります。ご足労頂きましてありがとうございました」
検事さんは最後まで丁寧だった。
退室し、刑事さんの元へ行くと長椅子に座り腕を組み口を開けて爆睡していた。
肩をゆすって起こすと、
「あ、終わった?じゃあ、帰ろうか」
刑事さんって、接点がない職業だけど、こうして見ると普通の人なんだなと思った。
警察署まで帰る車内で、
「検事さんから聞いたかもしれないけど、あいつ、罪全部認めてるから裁判来いとかないから。あとは検事さんに任せればいいよ。これで終わり。変なのに絡まれて大変だったね」
刑事さんに言われ、警察署に着くとお礼を言って帰った。
刑事さん、検事さんが言うようにMは裁判では素直に罪を認めたようで証人として、出廷を求められるようなことはなかった。
そもそも、いつ裁判が行われたのかすら知らなかったし判決内容も知らない。
裁判前だと思うけどMから弁護士経由で手紙が届いた。
お詫びの言葉が綴られ、今後、一切、接触しない旨の内容だった。
思っていたよりキレイな字で書かれ、丁寧な言葉が並んでいたけど定型文の“ 日本太郎 ”の部分を僕の名前に書き換えただけで、
「彼は心から反省し被害者にもお詫びの手紙を綴っており…」
弁護士がこの言葉を裁判で言いたいために送ってきたようにしか感じなかった。
丁寧な言葉で綴られていたけど当たり障りのない言葉で事件の詳細について一切、触れておらず、全然、心に響かなかった。
この事件からかなりの時間が経過したが、いまだに事件のことを思い出す。
夜中に起きた事件なので夜、外にいるとフラッシュバックする時がある。
そういう時は闇に恐怖を感じるのは生物の本能と自分に言い聞かせている。
4回に分けて長々と書いたがこれが誰にも話せなかったこと。
ずっと心につかえていたので、書くことが出来てスッキリした。