サクラソウを見に行った話
世間はソメイヨシノや一部のシダレザクラを見に行くことを”花見”というらしい。確かに、私の住む埼玉県にも大宮公園をはじめとした一大花見スポットがある。ただ、その手の場所は、焼きそばの匂いや、酒臭さが付きまとう。桜の花を愛でながら、酒臭さを味わうあの感覚は個人的にあまり好きになれない。(コロナ禍はそういう意味ではよかったのかもしれない。)
一方で、埼玉県には、サクラソウという花の群生地がある。群生地自体はいくつかあるが、今回はもっとも有名な田島ヶ原サクラソウ自生地に足を運んだ。
サクラソウの紹介
サクラソウ(Plimula sieboldii)
県花にもなっているサクラソウは荒川の堤防の中、増水でもあれば水に浸かってしまいそうな場所に群生している。もともと、荒川周辺は江戸時代からの群生地らしく、現在に至るまで複数の群生地が残っている。
秋ヶ瀬橋にほど近い群生地には、(4月13日時点で)ピンク色の花がぽつぽつと咲いていた。他植物種とごちゃ混ぜになりながら咲いている様子は、一見窮屈に見えるが、凛としている。一本桜に似た"しなやかな強さ"を感じられる花である。
花を近接して撮ってみた写真。サクラソウというものの、サクラとは全くの別種であることが一目瞭然。サクラは離弁花だが、サクラソウ科は合弁花。
白いサクラソウもあった。突然変異か何かなのだろうか。江戸時代から園芸品種が多数作り上げられてきたサクラソウらしい光景ではある。
サクラソウ以外も見ていく
サクラソウ自生地というからには、サクラソウメインだが、保護区なだけあって、結構な種類の植物がみられる。その一例を紹介。
ノウルシ(Euphorbia adenochlora)
「まあ、見慣れている」で終わらせたかったが、そうもいかないらしい。環境省のRDB上では準絶滅危惧種。埼玉県でも絶滅危惧Ⅱ類。全然そんな感じはしないけれども、そういうやつって案外多い。無くなってから気付く。
アマドコロ(Polygonatum odoratum)
こちらは逆に開花前。部分的には密集していたりと優占種感があった。こちらもあまり珍しくはないが、とてもきれいな植物で個人的に大好き。ただ、ナルコユリと本種はどちらがどちらか一瞬わからなくなる時がある。(茎に稜があるかないかが大きな判別点だという)
ヒキノカサ(Ranunculus ternatus)
キンポウゲ科らしい艶がある黄色い花。サクラソウと同じく典型的な湿地植物である。一番テンションが上がり、この日、マクロレンズが一番活躍した瞬間。
あまり見たことが無かったが、まさか荒川に残っていたとは…徹底的に保護され、株数が回復しているサクラソウよりは確実に珍しい。埼玉県では絶滅危惧ⅠA類(まあ、サクラソウも同ランクではあるが・・・)、近隣の栃木県、群馬県、東京都では絶滅、野生絶滅となっており、関東で残っている数少ない群集の一つであることには変わりない。
その他
The 川の自然って感じのスイバ、スギナ、ヨシ、ムラサキケマン、ジロウボウエンゴサクなどなど。看板を見る限り、時期が時期ならもう少し違ったレパートリーがあったかもしれない。
まとめ
国の特別天然記念物となって久しい「田島ヶ原サクラソウ自生地」。虫媒花であるサクラソウは1種のみを保全することは不可能に近い。侵略的植物が広がらないようにだけ気をつけるだけで、他の植物ともども保全されてしまう。湿地の植物にとっては理想的な環境であり、3月~6月あたりまで定期的に通ってみても面白そうな場所である。秋ヶ瀬公園という野鳥の名所も近いし、自然観察勢には大穴スポットであることは間違いない。