【新しい生産処理方法】マセラシオン・カルボニックとアナエロビック・ファーメンテーション
元記事:
A Guide to Carbonic Maceration and Anaerobic Fermentation in Coffee - Daily Coffee News
発酵の定義は学問によって異なりますが、食物と飲料の分野において、発酵とはバクテリアやイーストなどの微生物の働きによってエタノール(アルコール)、二酸化炭素、乳酸や酢酸などを発生させる過程のことをいいます。
じつはこの発酵プロセス、程度の大きさに差はあるもののコーヒーの生産処理過程においてほぼすべてのコーヒーに起こっています。
フリーウォッシュドFully Washedのコーヒーの場合、発酵は意図的に行われます。
これは、チェリーの収穫後パルプ(果肉)を剥ぎ取り一晩水に漬けて発酵させることで、パーチメントに付着する粘液質(ミューシレージ)を微生物によって分解させ取り除くことが目的です。その後洗浄・乾燥過程に進む間にも、微生物による発酵プロセスはコーヒーの表面(パーチメントの表面)でゆっくりと進んでいます。この発酵によってコーヒーの表面に酸が発生し、独特の風味と特徴的な酸味を持つコーヒーになるわけです。
ナチュラルプロセスNatural、ハニープロセスHoney Process、パルプトナチュラルPulped Naturalのコーヒーの場合、果肉や粘液質の周辺で発酵プロセスが起こります。微生物は果肉・粘液質に含まれる糖分を分解し、また乾燥に伴って様々な風味が発達していきます。
フレーバーのユニークさ、素晴らしさでここ数年急速に広がってきた生産処理方法で、嫌気性発酵を利用したもののひとつに「マセラシオン・カルボニック」というものがあります。
「アナエロビック」=酸素のない状況(これを「嫌気的」といいます)
「カルボニック」=二酸化炭素が豊富にある状況
「マセラシオン」=「発酵」よりも少し広い意味で、微生物の代謝がメイン
つまり「アナエロビック」と「カルボニック」はどちらも「酸素の量がどのくらいか?」ということに着目しています(酸素がない/少ない)。
しかし発酵というのはそもそも酸素がなくたって起こります。冒頭に書いたとおり、発酵とはバクテリアやイーストなど微生物の働きによってエタノール(アルコール)、二酸化炭素、乳酸や酢酸などが発生する過程のことであり、酸素がある/ないというのは、そもそも発酵には(ほぼ)関係ないのです。ここで重要なのは、発酵を起こす微生物の種類です。
【アナエロビック・ファーメンテーション】
ウォッシュトコーヒーの処理過程において発酵が行われるとき、大体はプールのような設備の中で、外気に直接触れる状態で行われます。それに対して、「アナエロビック」という言葉を使うとき、ほとんどの場合は「外気に直接触れない状況で」ということを意味します。
通常、コーヒーは果肉を剥がされた後、発酵で発生したガスを逃がすために空気弁が付いた密閉容器に移され、12〜36時間、場合によっては数日間発酵処理を施されます。嫌気的な状況(=酸素のない状況)でも生き延びられる微生物のみが発酵を進めることで、通常の発酵(=外気に直接触れる状態で行われる発酵)とは異なる風味を持つコーヒーができあがります。よく挙げられるフレーバープロファイルの例はシナモンやスパイスブレッド、風船ガムなどで、他の生産処理方法のコーヒーからはほとんど味わうことのできない特徴的なフレーバーであることが多いです。
【マセラシオン・カルボニック】
マセラシオン・カルボニックという言葉はそもそもワイン界の用語で、そもそもはワインを作る際、ブドウを粒ごと発酵させることでよりフレッシュ・フルーティなワインを作るために使われた手法です(注・マセラシオンはフランス語で、英語圏ではマセレーションと読みます)。
コーヒー界におけるマセラシオン・カルボニックは、密度の低いコーヒーチェリーをはじいた後、果肉がついたままのチェリーを空気弁付きの密閉容器に移し発酵を進めます。皮や果肉がついたままなので発酵は非常にゆっくりと進み(数日から数週間)さらに容器内に発生する圧力差によって発酵に利用される糖・多糖の種類が変わります。
例えば容器の下部では重力によってチェリーの果肉がゆっくりと押し絞られるため発酵は果汁や粘液質を主として起こり、容器の上部では果肉の形が保たれたまま皮の中で発酵が起こります。
こういった新しい手法でのコーヒー生産処理は、マーケットにおいて商品の差別化・コーヒーへの付加価値の付与という観点から多くの農園・農家が取り組みを進めています。しかし、これらの新しいプロセスは人件費がかかる、設備投資が必要などリスクが大きく結果の予測がつかないこともあり、出来上がり品質の良し悪しに関わらないバイヤー(エクスポーター・インポーター)の購入価格保証、また経済的な支援なしには実現しえないということを忘れずにおかねばなりません。
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今日の記事はここまでです。
Junko