カップの色や形、質感でコーヒーの味わいが変わっちゃうくらいだからフレンチより松屋の牛丼が好きでもしょうがないよねという話


元記事:How Cup Color, Shape And Texture Affect Perceptions of Coffee - Daily Coffee News [Howard Bryman | March 20, 2020]

ブラジル、サンパウロ大学哲学科の Fabiana Carvalho とイギリス、オックスフォード大学の Charles Spence は、科学雑誌 Food Quality and Preference に載った最近の3つの研究を元に、カップの形、色、質感が飲む前、飲んでいる時、飲み終わった後の飲み手のコーヒーの印象に与える影響について探っている。

・カップの「形」
・カップの「色」
・カップの「質感」

カップの「形」に関する研究は2019年の9月に発表されたもので、ブラジルで行われたスペシャルティコーヒーのイベントに参加した、コーヒーのプロフェッショナルと一般の参加者を合わせた276名に対して行われた。

被験者は
①チューリップカップ(注釈:飲み口から底にかけてすぼまっていくような形)
②より口の広いごく一般的なカップ
③下半分が膨らんでいて飲み口が開いているカップ(注釈:ワイングラスのような形)
に入ったコーヒーをそれぞれ飲み比べ、訓練を積んでいない一般人、コーヒーのプロフェッショナルはともに①のカップでより強くアロマを感じ、③のカップでスイートネス(甘さ)とアシディティ(酸)を一番強く感じると答えた。一般人は好みの点で③を低く評価した一方、プロは高く評価した。
著者は「カップの形が一般の消費者、コーヒーのプロの両方にスペシャルティコーヒーの味わい方に大きく影響することが初めて明らかになった」と述べた。

カップの「色」に関しては、2019年7月に発表された論文のなかで、酸味が穏やかなブラジルのコーヒーと、酸味の強いケニアのコーヒーをそれぞれピンク、黄色、緑、白のセラミックカップに入れ457名の消費者に飲ませるという実験が行われている。
研究者は「参加者はまず酸味と甘さへの期待値を評価し、その後実際飲んでみた結果と個人的な好みについて評価した。その結果、測定した全ての項目において、飲む前と飲んだ後の両方でカップの色によって評価が大きく分かれた。相容れない組み合わせのペアだと好感度は下がり、ピンクのカップから味わった時にケニアのコーヒーの酸味を「意外」だと感じる人が増えた。これらの結果で、カップの色がコーヒーの風味の感じ方や『快』を感じるかどうか、に大きな影響を与えることが分かった」とまとめている。

2020年4月発行の Food Quality and Preference に掲載されたカップの「質感」に関する研究では三つのテストが行われた。
まずロシアで行われたスペシャルティコーヒーイベントで行われた予備試験で、飲んでいる途中にカップの飲み口をサンドペーパーでこすると、コーヒーのボディとアフターテイスト(後味)の感じ方が変化することが示された。

さらに残り二つの研究はそれぞれ一般消費者、コーヒーのプロを対象にして行われ、スペシャルティコーヒーのサンプルを、飲み口が滑らかなカップとざらざらしたカップの二つに入れて提供した。Qグレーダーの認定を受けた被験者群は飲み口がざらざらしたカップから飲んだほうが酸味を強く感じると答え、一般消費者は飲み口が滑らかなカップから飲んだほうがコーヒーを甘く感じると答えた。両者ともに、飲み口がざらざらしたカップから飲むとアフターテイストが「ドライ」だと回答した。
「これらの結果は、プロ・一般問わず、カップの質感がスペシャルティコーヒーの基本的な味と、マウスフィールの感じ方に影響を与えるということを示している。この結果はコーヒーカップの新しいコーティングの開発に役立つし、より心地よいコーヒー体験を後押しするための機能を備えたカップを作ることの重要性が判明した」と研究者は記した。


Carvalho と Spence は2019年7月にこれら3つの研究の分析レビューを発行し、その中でメーカーはカップのデザインによって良くも悪くもなりうるコーヒーの「多感覚体験」よりも、カップの大きさ(サービングサイズ)を重要視することが多いと述べている。

さらに近年コーヒーカップ市場に登場したいくつかの新しい器について―ティム・ウェンデルボー Tim Wendelboe と Figgio のオスロ・セットLoveramics Brewers のテイスティングカップ、そして Kruve のEQグラスウェアなど、どれも伝統的なコーヒーカップとは異彩を放っており、すべてコーヒーの「多感覚体験」を一段上に上げるため他とは違う形を強調してはいるものの、カップの色や質感にはもっとこだわっても良かっただろう、とコメントしている。
「最近の研究で容器のあらゆる要素(色、重さ、大きさ、質感、形など)が、コーヒーを飲む際の体験に大きな影響を与えている可能性があり、これは一般・プロの両者に一貫した結果でもある。コーヒーそのものや淹れ方については様々な方法が考案されているが、コーヒーカップに関してはそうでもない。また、ワイングラスの世界では消費者が許容する「ワイングラスとしてあるべき姿」の範囲は比較的狭いが、コーヒーカップの世界でははるかに制約が少ないように感じられる」とまとめた。

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今回はざっくり翻訳でお伝えします(記事の元となった論文を読んでいないため)

カップの形で味の感じ方が違うっていうのは、ワイングラスで飲むと揮発する香りを閉じ込めることができ、より香りを味わえる…という考えや、バリスタチャンピオンシップの競技、特にシグネチャーべバレッジを提供する際にワイングラス&類似した型のグラスの使用率が高い傾向を見ているとなんとなくわかると思うのですが、近年のリサーチでそれに加えて色や質感(触り心地)も重要だよ、ということがわかってきているようです。

翻訳しつつ(あまのじゃくな私は)じゃあ
・飲み口のざらざらした変な色のカップに入れたスペシャルティコーヒー
・飲み口がつるつる滑らかなピンクのカップに入れたコモディティコーヒー
を比較すると実験結果はどうなるんだ?と勘ぐってしまうわけなのですが、色やカップの質感など、コーヒーそのものの品質とはまったく関係のないところでコーヒーの品質の感じ方に差が出てしまう…というコーヒーとその生産者にとってなんともはた迷惑な話だな、と思ってしまいました。

ということは、コーヒーの品質そのものよりも、それをおいしいと感じるためにはカップを含めた周囲の環境が最も重要なんじゃないのか?と思ってしまうわけです。心地よい空間、心地よい香り、音楽、接客、人…などなど。カフェに行ってコーヒーを飲む、という行動の原理はここにあるんだなと個人的に思いました(そこにカフェの存在意義があるともいえる)。逆説的に、たとえスペシャルティコーヒーを扱っていても、そのおいしさを最大限に増幅させるための環境が整っていないとスペシャルティのおいしさを伝えきれていないよということなのかもしれません。

しかし、それくらい人の味の感じ方というのは適当なものなんだなとしみじみ感じました。高いフレンチのお店で食べるより、疲れた時に食べる松屋の牛丼つゆだくが最高、みたいなことなんでしょうか…いやちょっと話が飛躍しすぎか?「多感覚体験」というのは今後のキーポイントになりそうです。

junko