海外ニーズを満たした「輸出用の加工食品」を地方は作れる
今日は、地方の農水産品が、海外販路を獲得する一つの手段となる「加工食品」というオプションを持つと海外展開のチャンスが広がるという話題です。
◆「農林水産物・食品の年間輸出額1兆円突破」のニュースを見て
さる9/16、九州の農業関係者の間で話題になったニュースを見かけました。
▼「日本‶農産物〟輸出1兆円を手放しで喜べないのはなぜ?」
このニュースでは、いわゆる「爆買い」の絶頂期に、「抹茶KitKat」が外国人に大量に売れていた頃から、農業関係者の間で冷ややかに語られていた問題が指摘されています。
「スイス資本のネスレの日本子会社が、アフリカのカカオとアメリカの小麦で作り、日本で作っているのは抹茶粉末、包装用のアルミシート、そして箱だけだ」と。
ほかにも、マレーシア産のパーム油由来のショートニングを使用した菓子類、南米や東南アジアの果汁を使用した炭酸飲料、アメリカのトマトや中国の油脂を使った調味料等々。
これらがなぜ、「日本の農産物」の統計に入るのか、農水産品の生産者にとっては理解に苦しむ謎でした。
しかし、単純に考えると、このニュースは、
〇「日本の加工食品には、外国人の需要がある」
という、前向きに捉えてよい状況と、
▲「地方の食品生産者、製造者にはインバウンド需要、輸出売上の恩恵がまだ十分に及んでいない」
という改善すべき状況を示しているだけです。
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◆地方は、農水産加工品の輸出が一つのチャンスになる
そもそも、なぜ、「加工品の輸出」が地方の農水産分野の生産者、製造者にとって一つのチャンスなのでしょうか。
その主な理由は、
①加工すると生鮮より賞味期限が延長され、現在、生鮮の主要輸出先となっている東アジアより遠い国々にも販路を見込める
②加工プロセスにおいて付加価値が発生し、産地のより多くの事業者が潤う
③「顧客のニーズに合わせて細かく改良する」という、日本企業の得意技を発揮して、独自性の高い商品を企画できる
④調理法が難しい食材でも、日本で加工すれば、海外での使い勝手が良くなり、味、品質、利便性も向上する
という四点です。
現在、自社に加工品の輸出の意思や環境があるかどうかは別として、商圏とニーズへの対応力を同時に広げる加工品を持てれば、海外展開の選択肢が一つ増えることが想像できます。
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◆輸出用加工品の企画・開発に際しての、地方ならではの課題
ところが、この「現地化、個別化、最適化」という強みを発揮しようとすると、地方の小さな会社ならではの課題も顕在化します。
それは、
①地方の生産者、製造者には海外向けの加工品を企画し、輸出品として完成させるまでのコミュニケーションが外国語でできる人材、環境がほぼない
②地方には、食品の海外対応に必要な残留農薬、細菌、重金属、カビ毒等の検査機関がほぼなく、また、外国語での検査証明発行にも対応が難しい
③地方には、カット、搾汁、乾燥、粉末化などの一次加工、調理や品質検査を含む二次加工を地元だけで完結させられる施設、機器、環境が揃う場所がない場合が多い
④有望商品である「バルク商品」も、地方では個々の生産者の供給数量が小さく、また、同一商品を輸出用に取りまとめるリーダーもいないので数の力を発揮できず、「モノはあるのに商品はない」という状況になりやすい
という四つの障壁です。
私も熊本、佐賀、山口で、各地の①~④の不足を補うべく力を尽くしましたが、失敗、破談、停滞も多く経験しました。
また、関係者の協力で加工施設や機器を確保でき、検査証明や認証にもなんとか対応できても、事業者のマインドで成果が左右されることもあります。
地方には「海外」と聞くだけで警戒し、新規の販路開拓を願って海外市場に希望を託しながら、いざ海外からの引き合いが来たら、相手を疑ってかかる会社もまだ多くあります。
もちろん、やったことがないからこそ、不安になるのは分かりますが、「海外」「輸出」「海外販路」という言葉は使いながら、心の準備が実はできておらず、「本当に海外に売るぞ」という明確な意思と判断力がないので、素早い対応に繋がらず、いつの間にか海外バイヤーからの興味が失われていたということも少なくありません。
「初めてのことだから、まずやってみて、勉強しながら成功を目指そう」
と、柔軟かつ迅速に対応できるマインドを持った事業者が少ないのも課題です。
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◆現在、輸出用加工食品の企画に取り組み中
そうした事情をふまえたうえで、私は、地方の事業者に適した輸出用加工食品の成功モデルを模索しています。
現在取り組んでいるのは、九州の米粉調整品、根菜の粉末、山陰のリーフ製品の東南アジア、ヨーロッパ向け商品の企画・輸出です。
いずれの商品も、海外バイヤーからの味・色・形状・用途に関する大雑把なリクエストを私が受け取り、その要望を満たしそうな原料を持っている地方の生産者(事業者)を探しました。
彼らは、私からのリクエスト内容を受け取った瞬間に、生産者ならではの豊富な知識と経験から、海外バイヤーの要望以上の商品にするための提案を出してくれて、
「生産、栽培、製造の現場にしか存在しない一次情報の価値」
を改めて感じました。
そして、海外バイヤーのニーズを捉えた加工にも意欲的で協力的な姿勢に、地方にはまだまだ顕在化していないチャンスがあると実感しています。
私の仕事は、
「各国のバイヤーのニーズを的確に理解し、日本側の生産・製造環境を踏まえた必要な提案を日本の事業者に行い、売り手と買い手が合意する条件を満たす商品の企画から成約までの双方のコミュニケーションを導くこと」
です。
地方には、海外バイヤーのニーズを満たすような原料や製品を有する地域が、実は各所にあります。
しかし、事業者が、そのニーズを受けとるだけの情報環境を整えておらず、また、自らコミュニケーションを取って、契約成立まで取り組もうと考えるまでの意欲はないため、なかなかその価値に気づけないのが、現状だと言ってもよいでしょう。
だからこそ、私は、地方が持つその可能性とチャンスに気づいて行動を起こして欲しい一心で、現在の案件に取り組んでいます。
そして、地方からの輸出を行うなら、冒頭に記したニュースの実態ではなく、地方が持つ原料で、地方で加工を行う「輸出加工食品」を作るべきだと思っています。
ちなみに、この加工食品は、最終完成品まで作らなくても、いわゆる「バルク」でも可能です。(そのような海外ニーズも多いです)
そのようなことを知れば、対応可能な地方の事業者の幅も広がるはずです。
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私は今、
①産地、原料、製法に関する一次情報を保有している
②生産物の特徴、用途、調理法を知り尽くしている
③細かい要求への小回りが利く
という地方の事業者ならではの強みを輸出商品に反映させ、分野別の成功事例を作っていきたいと奮闘しているところです。
先月、現地の菓子用ニーズに合わせて、細かいグレード選別と粒度調整を終えた加工品がヨーロッパに旅立ち、山陰地方のリーフ製品も、東南アジアのサプリでの利用のための一次サンプル発送が済みました。
次なる成約を目指して取り組んでいるのは、九州の米粉調整品で、今週行うのは4回目の焙煎と粒度調整であり、海外バイヤーと産地の農家のキャッチボールが、一投目からお互いのグローブに収まるようになってきた感触が楽しいです。
輸出とは、一発逆転のようなギャンブルでもなく、「一発当たればいい」という類のものではありません。
双方で合意を形成するために、コミュニケーションを重ね、取引の成立までも、してからも、地道な作業の連続です。その作業の過程も、事業者と一緒に楽しみながら取り組みたいと思っています。
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▼既に、加工品をお持ちの会社で、「自社で輸出に取り組みたい」ということをお考えの方がいれば、そのプロセスを無料動画にて解説しているので、ぜひご参考にされてみてください。きっと、お役に立てるはずです。