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自分の人間関係を見つめたら、AIの未来を当ててしまった映画の話

こんにちは。あつこです。
「AIの未来を予測していた」と最近話題になった映画その制作背景についてお話したいと思います。


少し前に米OpenAI社が生成AI「GPT」の最新モデル「GPT-4o」が発表されました。人と音声で自然に対話する様子は衝撃的で、その様子や声がSF映画『her/世界でひとつの彼女』に出てくる対話型人工知能OS「サマンサ」とそっくりだと話題になりました。(※1)

その後、映画の中で「サマンサ」の声を演じたハリウッド女優、スカーレット・ヨハンソンさんが「自分に許可なくそっくりなものを提供された」と激怒、彼女の申し立てにより最新モデルは利用停止となりました。(※2)


この一連の騒動を見て、映画『her/世界でひとつの彼女』の影響力の大きさを実感しました。実際、2023年時点で、OpenAIのCEOサム・アルトマン氏は好きな映画として『her/世界でひとつの彼女』を挙げていました。(※3)


この映画を見て彼が同じようなものを開発しようと目指したのかどうかはわかりませんが、鑑賞者にAIの未来の一つの形態を示していたのは確かでしょう。
最新モデル発表後、「この映画は、AIとの関係が人間関係の代わりになる未来を正しく予見していた」と言う人もいます。(※4)


ちなみに、SF映画と紹介しましたが、内容は対話型AIと人間とのラブストーリーで、鑑賞してみると恋愛ファンタジーとも受け取れる映画です。簡単に説明すると、離婚した主人公が対話型AIに恋することで自分や人間関係を見つめ直していく、という物語です。
未来のロサンゼルスが舞台で、街やそこに暮らす人の暮らしぶりは今と大きくは変わらないように見え、未来を感じさせる主な仕掛けとして「サマンサ」の存在があります。

では『her』はどのような思いでこの映画を制作されたのでしょうか。 『her』を制作した側は技術進化を予見してこの映画を作ったのでしょうか。
この映画の監督であり脚本も執筆したスパイク・ジョーンズは、2014年時点のインタビューでこう答えています。

「最初のひらめきは多分、10年前くらいに人工知能とインスタントメッセージをやり取りできるサービスのことをインターネットの記事で見たときです。そこにアクセスして、「ハロー」と言ったら「ハロー」と返ってきて、「調子はどう(How are you?)」には「いいよ。あなたは?(Good. How are you?)」となった。(中略)オウム返しをしているだけだとすぐに分かりますし、知性をもっているわけではありませんでしたが、賢いプログラムであったことは間違いありませんでした。そこから、完全な意識を持っているそういう(人工知能的な)存在と関係を築く男の話と、そこで何が起こりうるかを思いついて、それを使って今回のラブストーリーを作り上げたのです。」

スパイク・ジョーンズが語る「形は変わっても、どこにでも存在する恋愛のかたち」。 | Vogue Japan

「映画が完成すると、こうしたインタビューを受けるんだけど、どうしてもテクノロジーの進化みたいな話題になりがちで、そのたび僕はフリーズしちゃうわけ。なぜなら、セオドアとサマンサの物理的な関係はストーリーの“背景”でしかないからね。両者の愛や結びつきを多角的に描くことで、人間関係における願望や恐怖という普遍的なテーマに迫りたかった。」

her 世界でひとつの彼女 インタビュー: スパイク・ジョーンズ解体新書 アカデミー賞受賞した奇才の「現在・過去・未来」 - 映画.com (eiga.com)

「恋人の設定が人工知能なだけで、これは恋愛映画」

『her/世界でひとつの彼女』のスパイク・ジョーンズ監督にインタビュー|Music Sketch|madameFIGARO.jp(フィガロジャポン)



つまり、2000年代前半のAIチャットサービスの利用が発想の起点にはなっていたものの、スパイク・ジョーンズ自身は技術進化に着目したわけではなく、あくまでAIを含めた人間関係を多角的に描きたかった、ということのようです。
テクノロジーの進化の話になるとフリーズしてしまうとのこと、そこに何か語りたい要素があるわけではなさそう。
実際、この映画のAIと人間の関係性は未来予測的に見えますが、昨今AIの技術進化で毎回と言っていいほど指摘される人の雇用に与える影響については、映画の中では全く描かれていません


また、劇中に出てくる主人公の元妻も物語上重要な人物として描かれていますが、彼女は監督の元妻、ソフィア・コッポラがモデルなのではないかと言われています(実際、描かれた側のソフィア・コッポラも、「自分が演じられているのを見たくないから、この映画はみない」とインタビューで回答 )。(※8)


離婚した相手と離婚の事実と向き合うこともこの映画のテーマの一つですが、監督の実体験がクリエイションの起点になっているのかも、と映画ファンの間では噂されています。

☆☆☆



未来に関するアイディアを検討するとなると、技術進化や社会変化などに関する未来予測に着目して、その周辺でばかり考えてしまうかもしれません。

一方スパイク・ジョーンズ氏は、当時の最新技術をきっかけとしつつも、技術がどう発展するか、社会の中でどう活用されるかを個人的な体験に絡ませて具体的な未来の物語にしました。
結果、普遍的なテーマに関する近未来的な映画として、多くの人から共感を得ました。
その映画に近いサービスを現実にしようとする起業家まで現れました。

技術や社会変化などの未来予測に基づいて「当たりそうな」未来像を狙って描く方法もありますが、もしかしたら、個人的な体験や感情も含ませつつ未来のことを考えた方が、多くの人の共感を呼び、「これを実現したい」と思わせるようなエネルギーのこもった、豊かな未来像を描けるのかもしれません。


新しいChatGPTのニュースを見て、そんなことを考えたのでした。


映画『her/世界でひとつの彼女』を未見の方、是非ご覧になってみてください。

(参考)
閲覧日はすべて2024年9月9日
※1 「GPT-4o」はなんて読む? 女性の声はスカーレット・ヨハンソン(her)似? - ITmedia NEWS https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2405/14/news084.html 2024年5月14日
※2 新しいChatGPTの合成音声、「そっくり」と話題だったスカーレット・ヨハンソンの申し立てにより利用停止になる | WIRED.jp https://wired.jp/article/scarlett-johansson-says-openai-ripped-off-her-voice-for-chatgpt/ 2024年5月21日
※3 The Future of Trusted AI with Marc Benioff and Sam Altman | ASK MORE OF AI with Clara Shih (youtube.com) https://www.youtube.com/watch?v=uRVOeqSSZtQ 2023年9月15日
※4 OpenAIが示した「GPT-4o」の進化と、映画『her/世界でひとつの彼女』との共通項 https://wired.jp/article/openai-gpt-4o-chatgpt-artificial-intelligence-her-movie/ 2024年5月14日
※5 スパイク・ジョーンズが語る「形は変わっても、どこにでも存在する恋愛のかたち」。| Vogue Japan https://www.vogue.co.jp/celebrity/interview/2014-06-spike-jonze 2014年6月25日
※6 her 世界でひとつの彼女 インタビュー: スパイク・ジョーンズ解体新書 アカデミー賞受賞した奇才の「現在・過去・未来」 - 映画.com (eiga.com)
https://eiga.com/movie/79523/interview/ 2014年6月25日更新
※7 『her/世界でひとつの彼女』のスパイク・ジョーンズ監督にインタビュー|Music Sketch|madameFIGARO.jp(フィガロジャポン) https://madamefigaro.jp/series/music-sketch/her-1.html 2014年7月3日
※8v才能豊かなクリエーター同士だったソフィア・コッポラとスパイク・ジョーンズ【話題をさらった元セレブカップルvol.22】 | Vogue Japan https://www.vogue.co.jp/article/celeb-couples-from-past-sofia-coppola-spike-jonze 2023年10月27日


この記事を書いた人 あつこ

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