明るく元気なランチョンセミナー
私は留学前にランチョンセミナーをする機会をもらった。
ランチョンセミナーとは企業がスポンサーになり、その企業の製品を使った経験や感想などを医師が講演し、聴衆はその間タダのお弁当を食べながらその話を聞く会である。
通常、発表は大御所の先生にしか回ってこない。
しかし、私のいた施設はその道では有名であったため、中堅の私に発表の機会がまわってきた。
私は3Dのマンモグラフィーガイド下の乳房吸引組織生検の発表を行った。
当然その企業から高い機械をタダ同然で貸してもらい、生検の症例を重ねた。
内容は好きにやってもいい、とのことだったので、その前に使ったことのある他2社の機械との比較も正直に述べ、難しかった症例の呈示やトラブルシューティングなどにも言及した。
自分としては、頑張って準備した力作だった。
当日、研究会に行ってプログラムを見てびっくりした。
研究会自体は2列(2部屋)で行っていたにも関わらず、なんとその日のランチョンセミナーは私のだけだったのだ。
ということはランチタイムに学会会場の外に出るのがめんどくさい人は全員私のセミナーを聞くことになる。
そして案の定、弁当欲しさに会場は人で溢れかえっていた。
当たり前のことだが、私は真剣に発表した。
でもなんかちょっとおかしかったらしく、何回か笑いがおきた。
終わるやいなや、けっこう大御所の先生がマイクに向かって歩いてきて
「先生の明るく元気な発表に元気をもらいました。」
と言ってくれたのだ。
私は35歳にして大勢の観衆の前で、元気で明るいことを褒められたのだ。
実際会ったことのある人は知っているが、私は昔から声が大きい。そして大きな声でハキハキと発表しようと心がけていた。そのせいできっと更に大きくなったのだろう。一番後ろで聞いていた先生が後で「先生の声が大きすぎて、音量調整の人が最初四苦八苦していたよ。」と教えてくれた笑
終わって、みんなの元に戻った。みんなすごく褒めてくれた。教授もニコニコ笑っていた。
一番嬉しかったのは、一緒に試行錯誤しながら生検をしてきた技師さんが「さとこパイセンは私たちの誇りです!」と言ってくれたことだった。
企業の人にもたいそうお礼を言われた。
そして数日後にアンケートを持ってきてくれた。
私は今までランチョンセミナーにごまんと参加したが、アンケートを記載したことは一度もなかった。私のランチョンセミナーの目的は弁当をゲットすることだったのだ。ごめんなさい。。
しかし、私のランチョンセミナーのアンケートを書いてくれた人はなんと100人近く。みんな褒めてくれていた。
「声が大きくてハキハキしててわかりやすかった」「勉強になった」とけっこう書かれていた。「よかったのは演者の先生」と書いてくれている人もいた。嬉しかった!
思えば、小学校の通信簿にいつも明るく元気と書かれていた私。
でも大人になると、明るいことだけではそうそう褒められない。
でもまた褒められたのだ!
そのアンケートは一生の宝物にしようと思い、留学先まで持って行った。
その紙を産後の落ち込んでいる時に見つけたのだ。
グリーンカードの申請で何かの書類を探している時に偶然出てきた。
更に落ち込んだ。
頑張って人から褒められる仕事ができるようになってきたところだったのに、留学して結婚して出産して。今は家に閉じこもって、授乳してオムツを変えているだけだ、と思った。
この紙は過去の栄光、今はもう違う、と思った。辛かった。
でも時は流れ、私は復活した。持ち前の明るさを取り戻したのだ。
また何か自分にもできることがあるだろう、人に元気になってもらうこともあるだろう、と思うようになった。
それが今すぐには何かはわからないが、また何か人の役に立つことがしたい。またできると強く信じている。
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