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人間を看取る
ドラマでよく見るシーン
医者が「ご臨終です」といい、家族が泣き出す
今回は「ご臨終です」、と宣告する側の話である。
医者になった手前、人が死ぬ場面に遭遇することは避けられない。
たとえ、患者さんを直接診察しない科に進む予定であっても、研修医期間中に必ず遭遇するであろう。
そして家族の前でその人はもう死んでしまったと言う宣告、責任重大な宣告
それを自分でしなくてはならない場面、それは突然やってくる。
研修医2年目の時だった。
癌でもう余命いくばくもない患者さんを担当していた。
その方はもうできる治療は全てやったため、もし呼吸停止・心停止になっても、それ以上の治療はしないことで家族も同意していた。
そしてその日はやってきた。
もう息も絶え絶えで血圧も下がってきていた。きっと今日中にお亡くなりになるだろう。今夜がヤマだと言ったりもするが、末期癌の場合、ヤマを超えることはそうそうない。
そしてそんな日に限って、指導医の外勤日だった。
私は一応指導医の先生に電話してみた。
マイナーの科であったため、チームは私と50歳くらいの指導医の先生のみ、中堅の先生はいなかった。
「あ、先生、外勤中にすみません。今日〇〇さん、亡くなりそうなんですよ。」
「そうそう、僕一応外勤くる前みにいったんだけど、そうだね。もう厳しそうだね。」
「もう家族の方も来られてて、その点は問題ないんですけど。」
「先生、死亡宣告できる?できるよね、やっといて。」
指導医はさらっと答えた。
ええー私がやるの?
確かにもう研修医2年目ももうすぐ終わり。独り立ちももうすぐだし、できません、とか言うのもおかしい。
「わかりました。」そう答えるしかない。
それから私はそれまで遭遇したご臨終の場面を一生懸命思い出した。他人の人生最期の瞬間の走馬灯バージョン。あの時あの先生はなんと言っていたか、必死で思い出した。
その頃は今のようにスマートフォンは普及していなかった。私のメモは全て白衣のポケットに入る小さなノートに殴り書き。そしてあとで見返しても大体解読不能だ。余裕のある時には他の場所にきれいに書き直したりしたこともあるが、余裕はいつもない。
そしてご臨終のセリフをメモしたことはない。
唯一覚えているのはご臨終です、と言うのは厳密には正しくないということだけだった。
そして、ご臨終シーンの心配をする時間はさほどない。その日は外勤で指導医がいないため、チームは私1人、大忙しだ。
そしてその時はやってきた。看護婦さんに呼ばれる。
家族は集まり、もう泣いている人もいる。
呼吸が止まった。
心電図の波形もフラットになった。
ベテラン看護婦さんは私に目配せした。
聴診器で心臓、呼吸が止まっていることを確認。頸動脈に指をあて、脈拍がないことを確認。ペンライトで対光反射がないことを確認。
そしてご家族にその旨を伝え、「◯時◯分、お亡くなりになりました。」と
私は死亡宣告した。その後、頑張られましたね、と言うかどうか迷った。私には言えなかった。私はその患者さんを診てまだ2週間目くらいだった。最期の宣告をすることになったが、少ししか診てない若僧にそんな評価はできない。家族はそう言われた方がよかったかもしれない。でも家族も私が研修医だと言うことは重々承知だし、逆に気に触るかもしれない。私はご家族に会釈をして、その場を去った。
研修医のぎこちない、物足りない宣告だったと思う。でも私にとっては予期しない、初めての宣告だった。
あんなんでよかったかな?ちょっとしょんぼりしていた。
でも落ち込んでる暇はない、死亡診断書を書いたり、退院の手続きをとったりしなければならない。
ナースステーションの片隅で私は事務仕事をしていた。
そしたら肩をぽんっと叩かれた。指導医の先生が外勤を終えて一目散に大学病院に戻ってきてくれたのである。
「先生、お疲れ様。今◯◯さんの部屋行ってきたけど、死亡宣告やってくれたみたいだね」
私は心の内をばーっと喋った。指導医の先生はふんふん、と傾聴してくれた。
「大変だったけど、やってくれてありがとう。まーあれだ、みんないつかは通る道だ、先生も一つ成長したね。じゃあ、一緒に死亡診断書書こっか。」
その間、看護婦さんが患者さんをきれいにしてくれて、葬儀屋さんが迎えにきた。
指導医の先生と共に患者さんを送り出した。指導医の先生と一緒は本当に心強かった。
その日は私にとって忘れられない日となった。
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