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精神論に振り切ってランニングテクニックを語る② 〜如何に楽に走るか〜

今回は前回の投稿で書き切れなかった、具体的なメンタルテクニックについてお話ししようと思います。

周回の分解

長距離の王道なメニューの一つであるペーラン(ペース走)は、一定のペースで決められた距離を走り続ける練習です。インターバルのように瞬間的に苦しくなることはないですが、地味に苦しい状態をひたすら継続する嫌らしいキツさがあります。
この練習をするときの思考について、16000mペーランを例に私自身の個人的な方法をお伝えしようと思います。

基本的な考え方として16000mを4つに分解して考えます。
入りの4000mはリズムを作る。ここで今日の身体の感覚を確かめながらペースを把握します。その日のリズムを作る重要な4000mです。
中盤の4000mが事実上の練習開始です。入りの4000mで作ったリズムを無心で繰り返します。ここでどれだけ呼吸を抑えて走れるかが重要です。
後半の4000mは最もキツイところですが、最も練習効果の得られるところでもあります。ここさえ乗り切ればクリアしたも同然です。
仕上げの4000mは後半崩れたフォームを見直しながらまとめるだけです。ここで"もがかずに"その先も走り続けるイメージで終わることが大切です。

4つに分けることで果てしなく感じられる16000mを、リアルに想像できる4000m×4として扱うことができます。

これだけで何が違うのかと思う人は一度試してみてください。
12000mペーランならクリアできるのに16000mペーランになると10000mの時点で離れてしまうことはありませんか?
よくよく考えてみれば12000mまでは行けるはずですよね。これは身体はまだ限界に達していないのに先を想像してキツくなってしまうために起こる現象です。なので4つに分解して"今"に集中することで、少なくとも12000mまではこなせるようになるはずです。
もっと言うと4000mをさらに4分割して1000m毎に考えると、より限界に近いところまで耐えられると思います。4000mというブロックでは12000m〜16000mまでは保たないけど、1000mというブロックで12000m〜13000mまでなら耐えられるということです。このとき頭では4-1、4-2とゲームのステージのように数えています。
もっと言うとこれを400mとか200mとか、細かく分解するほど先まで進むことができます。
だって200mだけなら行けそうじゃないですか?

さらに凄いのは、そうやってこの1周だけ、この1周だけと耐えていると、どこかのタイミングで楽になることがあります。これは心拍数が上がった瞬間が一番苦しく離れやすいからです。一定のペースで走り続けて、心拍数も一定に保たれると脳が「なんだ、このままでも行けるのか」と慣れてくるのです。

この方法は今に集中して、あえて未来を見ないやり方ですが、それには綿密なペース設定が必要です。自身の力量を超えるペースで先を考えずに走れば、当然失速することでしょう。
走り出す前にはペースを徹底的に頭に叩き込んで、スタートしたら先のことは考えずに自分を信じて走ることです。

集団の力を借りる

前回のテーマで取り上げた応援と同様、直接的な助力はないのになぜか楽に感じるのが人の後ろを走っている時です。
集団の中で走っていて楽に感じるのにはいくつかの要素がありますが、風除けや綺麗なイーブンペースで走ってくれるペースメーカーとしての役割とは別に、大きく3つの精神的要素があると思います。

1つ目は走るという動作に集中できるからです。
練習でも試合でもこのくらいのペースで走るという設定タイムや目標があります。そのペースを作るために時計を見ながらペースを上げたり下げたりすると、それだけで疲れてしまいます。でも人の後ろにいれば、前の人が作ってくれたペースに合わせるだけで良いです。そのため出力の微調整に無駄な労力を使わないだけでなく、ペース配分などを考えなくて済むので思考エネルギーを使わず走りに集中できるのです。


これは車に置き換えてみると分かりやすいと思います。高速道路で先頭を走っている時にスピード違反にならないようメーターを見ながらアクセルを踏んだり離したりしていると疲れますよね?
しかし前の車の速度に合わせて走っているときは、車間を見ていれば良いので神経を使わずリラックスして走れると思います。これと同様の現象が起きているわけです。

2つ目はフォームへの影響です。
(呼吸が苦しくなって顎が上がると、腰が反って腹圧が抜け、骨盤が前傾して大臀筋からハムストに力が入らなくなり推進力が失われます。)
難しい話は置いて、要するに目線は真正面よりも、5m前方の地面あたりに向けるのが良いです。
自分が先頭を走っていると前に人がいないので、進行方向に目線を向けがちですが、前に人がいるとその人を見るので自然と視線が下がり、結果的にフォーム維持できるのです。

3つ目はより精神的な問題です。
目の前すぐに人がいる時は良いですが、前の人と間が空いてしまうと集団の力を得られなくなります。例えばレース中、集団の中で走っている時は粘れていたのに少し遅れて孤立した途端一気にペースダウンしてしまうということがよくあります。
逆に駅伝などで前のチームが近づいてくると、どんどん元気になって勢いが増していくということもあります。
ここで興味深いのが集団から離れる時は3mも離れればもうキツくなりますが、前に追いつく時は30m以内に入れば力が湧いてきます。離れる時と追う時で前にいる人がプラスに働く効果範囲が異なるのです。


これは自分が上手く走れている遅れていると判断した脳に身体の動きが合わせようとしてしまうからです。「今は走れているんだ」と脳が思うと身体が走れている動きを再現し、「もうダメだ」と思えば崩れたフォームを再現してしまうのです。端的に言えばプラシーボ効果のようなものですが、これに上述の理由や風の影響も相まって集団から離れた瞬間に極端にペースダウンしてしまうということが起こるのです。

総じて言うとレースの序盤は余裕があっても前に出ず、そして後半キツくなっても集団から離れずに喰らいつくが勝負の鉄則です。

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