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短編小説

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2024年10月の記事一覧

短編小説/ドナドナDO

短編小説/ドナドナDO

「返せんなら風呂沈めたるからな」

 借金の保証人をしてあげた彼氏が行方不明になり
 怖い人たちが家に押し掛けてきて言った。

 「風呂に沈める」は風俗に売るという意味らしい。
 膨れ上がった借金は1000万円。
 一介のOLが返せる額ではなかった。
 お金持ちの知り合いもおらず
 実家にも迷惑を掛けたくないので
 私は黙って彼らに従うことにした。

 紹介されたのはいわゆる石鹸の国。
 当然抵抗

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シロクマ文芸部/文豪

シロクマ文芸部/文豪

 爽やかな秋空だってのに私の胸は淀んだブルーだった。
 気の重い仕事を任されたからだ。
 担当を言い渡された日からずっと憂鬱である。

「清野、お前来週から諏訪に行ってこい」
 
 先週の金曜日突然編集長から命じられた。
 いきなりのことに戸惑い「はい?」と変な声が出た。

「諏訪って長野県の諏訪ですか?取材か何かですか?」

「城戸崎先生の原稿が遅れてるんだよ。
 あの人小説書く時は物語の舞台に

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シロクマ文芸部/My  Little Lover

シロクマ文芸部/My Little Lover

 木の実と葉が敷き詰められた木々の間を僕らは歩いていた。
 
「すうと初めて出会ったのもこの森だったね」

 恋人のすうは「そうね」と頷いた。とても可愛らしい声で。
 踏みしめる枯れ葉がしゃりしゃり鳴る。
 森の道は一面落ち葉のじゅうたん。黄色と赤のモザイク模様。
 あちこちに転がってる木の実やどんぐり。
 暑すぎた夏がやっと去って散歩にちょうどいい深秋の午後。
 僕らの服装も落ち着いたテイスト。

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短編小説/フードコート

短編小説/フードコート

日曜日のショッピングモールは人だらけ。
螺旋状の真っ白な館内には200店舗以上が連なっている。
ほとんどが若者向けの雑貨屋かアパレルショップ。
綺麗な女性店員がこぞってタイムセールの呼び込みをしていた。

本当は中を覗きたい。
そろそろ秋冬物も揃ってきてるし。
あっあのワインカラーのカーディガン可愛い。

「ねえお腹空いたあ」

そちらに顔を付き出していた時に聞こえた。
五歳になる娘の花乃がショッ

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秋ピリカグランプリ応募作/短編小説/「紙」

秋ピリカグランプリ応募作/短編小説/「紙」

小学生を中心に「紙」という都市伝説が話題になっていた。
妖怪。幽霊。宇宙人。はたまた人間か。
その正体は分からないが特性は詳細に知られていた。

「紙」が現れるのは夜7時から深夜12時の人通りのない道。
気配はなく背後から声を掛けてくる。
ぼっちゃん。ぼっちゃん。とゆっくりした口調で二度。
降り向くと「紙」が立っている。大きさはおよそ2メートル。
鍔の広い黒い帽子を被っており
笑ってる口元だけが見

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