シェア
わたりどり通信
2024年10月22日 19:39
「返せんなら風呂沈めたるからな」 借金の保証人をしてあげた彼氏が行方不明になり 怖い人たちが家に押し掛けてきて言った。 「風呂に沈める」は風俗に売るという意味らしい。 膨れ上がった借金は1000万円。 一介のOLが返せる額ではなかった。 お金持ちの知り合いもおらず 実家にも迷惑を掛けたくないので 私は黙って彼らに従うことにした。 紹介されたのはいわゆる石鹸の国。 当然抵抗
2024年10月26日 17:45
爽やかな秋空だってのに私の胸は淀んだブルーだった。 気の重い仕事を任されたからだ。 担当を言い渡された日からずっと憂鬱である。「清野、お前来週から諏訪に行ってこい」 先週の金曜日突然編集長から命じられた。 いきなりのことに戸惑い「はい?」と変な声が出た。「諏訪って長野県の諏訪ですか?取材か何かですか?」「城戸崎先生の原稿が遅れてるんだよ。 あの人小説書く時は物語の舞台に
2024年10月20日 01:59
木の実と葉が敷き詰められた木々の間を僕らは歩いていた。 「すうと初めて出会ったのもこの森だったね」 恋人のすうは「そうね」と頷いた。とても可愛らしい声で。 踏みしめる枯れ葉がしゃりしゃり鳴る。 森の道は一面落ち葉のじゅうたん。黄色と赤のモザイク模様。 あちこちに転がってる木の実やどんぐり。 暑すぎた夏がやっと去って散歩にちょうどいい深秋の午後。 僕らの服装も落ち着いたテイスト。
2024年10月16日 18:46
日曜日のショッピングモールは人だらけ。螺旋状の真っ白な館内には200店舗以上が連なっている。ほとんどが若者向けの雑貨屋かアパレルショップ。綺麗な女性店員がこぞってタイムセールの呼び込みをしていた。本当は中を覗きたい。そろそろ秋冬物も揃ってきてるし。あっあのワインカラーのカーディガン可愛い。「ねえお腹空いたあ」そちらに顔を付き出していた時に聞こえた。五歳になる娘の花乃がショッ
2024年10月4日 00:54
小学生を中心に「紙」という都市伝説が話題になっていた。妖怪。幽霊。宇宙人。はたまた人間か。その正体は分からないが特性は詳細に知られていた。「紙」が現れるのは夜7時から深夜12時の人通りのない道。気配はなく背後から声を掛けてくる。ぼっちゃん。ぼっちゃん。とゆっくりした口調で二度。降り向くと「紙」が立っている。大きさはおよそ2メートル。鍔の広い黒い帽子を被っており笑ってる口元だけが見