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ドイツ語を選んだ理由、そしてそのちょっとした後悔

私は大学で4年間ドイツ語を学んでいました。ドイツ語を学ぶ選択をした背景には、ヨルダンでの体験がありました。メディアに支配されている情報の現実、そして「世界的なニュース」とされるものの大半がアメリカ主導であることへの気づきが、私の視野を大きく変えたのです。私たちは一方向の情報に依存しているのではないか、情報の持つ影響力と、それがもたらす偏見の重さを、初めて実感しました。


ヨルダン滞在を経て、情報源がいかに偏っているかを深く研究し、日本で受け取る「世界のニュース」が実はアメリカ経由である事実を文献からも知るに至りました。この経験を通じて、多面的な情報に触れることの重要性を感じ、私も他国の視点に立つことで、より立体的な理解を得たいと思うようになりました。たとえ実際に現地に行けなくとも、情報の収集と分析によって、より深い意見を持てる自分でありたい。そのためには英語だけでなく、他の言語で情報を追う必要があると痛感したのです。


ドイツ語の出会いとその魅力


他言語への興味が芽生えたものの、選択肢には悩みました。フランス語やスペイン語、イタリア語は美しい言語ですが、それぞれ特定の地域に限られており、全体的に広く使われるわけではありません。その点、ドイツ語は英語と同じゲルマン系言語で、単語や文法にも多くの共通点があります。このため、ドイツ語は他の言語に比べて学ぶ際のハードルが低く、ある程度学びやすい(かつ単位を取りやすい笑)かもしれないという期待も正直ありました。

さらに、ドイツ語を学ぶことで、単に言語を身につけるだけでなく、ヨーロッパ全域にアクセスできる視点を得られるのも大きな魅力です。フランス語やスペイン語、イタリア語では得られない、ドイツ語圏独自の文化や思考を理解することができ、より多面的な見解を持てるようになるのではないかと感じました。

ですが、ドイツ語に惹かれた理由はそれだけではありません。ドイツの歴史や文化、社会の姿勢、リーダーとしての影響力が、強く私の心を掴んで離しませんでした。


ナチスと歴史の教訓


ドイツといえば誰もが思い浮かべる歴史の一面、それがナチスの時代です。この暗黒の歴史は、現代のドイツでも決して忘れ去られることはありません。ドイツでは学校教育の中でナチスの歴史が徹底して教えられ、「許してはならない悪」として強く語られます。授業中の挙手の仕方ですら、日本のように手を高く上げるのはタブーとされており、ドイツ人は人差し指一本を挙げて合図します。それは、ナチス時代の敬礼と混同される恐れがあるためです。


歴史の捉え方に歪みを持たず、事実を受け入れ、それを未来への教訓とする姿勢。ドイツは自らの歴史を見つめ続け、決して再び過ちを繰り返さないよう行動に移してきました。その一貫した姿勢は、他国が追随できないほどの決意と重さがあり、私はこの誠実な文化に心を動かされました。


揃った手の動きが示すのは力か、それともただの従属か—歴史が問い続けるのは、私たち自身の姿勢かもしれない。


メルケル首相と女性リーダーシップ


また、アンゲラ・メルケル氏が首相を務めたことも、ドイツを知るきっかけの一つでした。2005年にメルケルが首相に就任した時、ヨーロッパにおいて大国の女性リーダーはまだ珍しく、特にドイツのような保守的な国で長期にわたり指導者の座にあることは非常に画期的でした。メルケル氏は16年間もの間、安定したリーダーシップでドイツだけでなくヨーロッパ全体を牽引し、多くの人々に希望と影響を与えました。女性として国家を導くその姿は、私にとって大きなインスピレーションとなりました。


静かな強さで、時代の風を読み取り続けた16年—その背中が語るのは、リーダーシップの新たな在り方。

持続可能な未来を見据えた取り組み


ドイツの「持続可能性」への取り組みも、私がドイツ語を学びたいと思った理由の一つです。1970年代から始まった環境問題への意識向上を皮切りに、再生可能エネルギーの導入やエコシティの設計、そして「エネルギー転換(Energiewende)」という再生可能エネルギーへの移行政策を進めてきたドイツ。エネルギー供給の約50%を再生可能エネルギーで賄うようになるまで、持続可能性を意識した社会づくりに真剣に取り組んできたのです。


特にフライブルクのような都市では、エネルギー効率の高い住宅や公共交通の充実など、環境に配慮した都市デザインが進められています。資本主義だけに傾倒せず、100年、200年先の未来を見据えた社会設計が行われていることに、深い尊敬の念を抱きました。


未来を織り込んだ街—フライブルク・ヴォーバン地区。自然と共生し、再生可能エネルギーで自立するこのエコシティは、持続可能な都市デザインの実験場とも言える場所です。ドイツの未来志向が形となったこの地区は、環境と人が共に生きる新しい暮らしのモデルを世界に示しています。


ヨーロッパ全域で使われるドイツ語の広がり


ドイツ語は、ドイツをはじめオーストリア、スイス、リヒテンシュタイン、ルクセンブルクなど、ヨーロッパ中で話されています。さらに、イタリアの南チロル地方や、ベルギー、デンマークの一部地域でも使われており、英語だけでは触れられない視点を得るためには、最適な言語だと感じました。特にドイツ語圏のメディアは、国際情勢の分析が豊富で、独自の視点を提供してくれます。このため、ドイツ語を学ぶことで多角的な視野が広がり、真のグローバルな理解へとつながるのではないかと考えました。情報の偏りを解消し、より多くの地域の声にアクセスするため、ドイツ語の学習は自分にとって重要なステップでした。


最後に


ドイツ語を学ぶことで得られたのは、確かに多面的な視点や豊かな文化理解でしたが…正直に言うと、日常生活でドイツ語が活躍する場面はほとんどありません。ビールの注文でちょっと役立つ程度、といったところでしょうか。

私自身、大学で4年かけてドイツ語力を磨きましたが、その後学んだフランス語の方が日本でも登場回数が多く身近に感じます。ドイツ語学習を振り返って「やってよかった!」とまでは言えないものの、少なくともヨーロッパの歴史や文化に深く触れる手段にはなりました。そんなわけで、ドイツ語を選ぶかは慎重に。ただし覚悟さえできていれば、ドイツ語の世界は、きっと予想外のユーモアも連れてきてくれるかなと思います。


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