宗教や信仰についての雑記 #309
◯バランス
最近、「何事もバランスが大事」といった意味のことをしばしば耳にしました。
個人的には、「バランスをとる」ということから連想するのは、仏教の「中道」の思想です。
中道とは一般に、苦行に身を捧げる極端な生活や、享楽に溺れる極端な生活の両方を否定し、その中間にある穏やかな生活を指します。
その一方で、有と無の中道という考え方もあるそうです。
それは、物事は永遠不変に存在するという「有」の考え方と、物事は実体を持たず、空虚であるという「無」考え方との、どちらか一方に極端には偏らず、両者の間にある「真理」を探求するという考え方です。
この「真理」が所謂「空」ということなのだと思います。
しかしこの、「有」でも「無」でもない「非有非無」ということについて、また別の解釈をすると、「見えるもの」と「見えないもの」とのバランスをとる、とも捉えられるのではないでしょうか。
目に見える物質的な現象の世界の向こう側に、目に見えない世界があって、そのどちらか一方に偏らず、両方を視野に入れることも、バランスのとれた中道の姿勢ではないかとも思えます。
さらにそれは、言い方を変えれば、信仰と実践、智慧と慈悲、精神と身体といったことのバランスでもあると思います。
そして「空」ということは「縁起」によるものであり、「縁起」とは、全てのものは他のものと相互に関係して、あるいは相互に依存して存在しているということのようです。
ですから例えば、慈悲なき智慧も、智慧なき慈悲も、どちらも本来の在り方から外れた空虚なものなのだと思います。
こうして「バランスをとる」ということを、仏教の「中道」という観点から考えると、それは本来の在り方、即ち「真理」に立ち還ることであり、それ故「何事もバランスが大事」なのだと、そんなふうに思いました。
私たちがこの「真理」に立ち還るために、まずはじめに必要なことは、目に見えることが全てではない、ということを常に認識しておくこと、そして、目に見えることだけで物事を判断しないことなのではないでしょうか。
そのことを忘れずにいたいと思います。