突然のさようなら
朝一で探してみるけれど見つけられず、フンの掃除をしながら探すけれど見つけられなかった。
れいの女子に見つけられないと話し、彼女も探してくれたけど、結局見つけられなかった。
鳥に食べられたのかな。
またお昼に見てみよう。
そして仕事をしていた午前中、社内に女の叫び声が響きわたった。
近くにいた男子社員にやや半狂乱に何かを訴えている様子。
ああ、これは、あれだな。
ぱたぱたと私が階段を降りてりていくと、玄関辺りで大騒ぎになっている。
見てみると、シモフリスズメの幼虫は、正面玄関の床にいた。
うかつだった!まさか建物の中に入っているとは!
シモフリさんはすっかり昨日の奇麗な緑から色を変えていた。
その暗い色合いが余計にその女子社員を怖がらせてしまったようだ。
私は彼女にこの幼虫の存在を知っていたことを告げ、ビックリしながらも面白がって中学生男子みたいにウヒャウヒャしている社員2人を、私がやるからここから立ち去るようにと追い払い、厚紙を取りに行きがてら、かの女子にも簡単に事情を説明して、シモフリさんのもとに戻った。
いつか、蛹になるための土を探しに行くだろう事は判っていたけれど、それが今日だとは思っていなかった。
昨日はあんな緑色で、色が変わったとたんに地面探しの旅に出るとは。
植木鉢の土が気に入らなければ、きっと植木鉢の外に出ていくだろうとは思っていたのだ。
だが、おそらく外に向かって出ていくのではないかと想像していた。
だから出勤するときに、歩道を歩いているかも知れないから踏まないように気を付けなければ、とは常々考えていたのだ。
それが、土なんかありもしないビルの中に入ってくるとは。
シマトネリコの植木鉢のそばには、かの部長が剪定をしていた小さな庭がある。
申し訳ないが、私はそこへシモフリさんを移動させた。
一番近い土の場所に移動してもらったのだけど、私も少々動揺していたので、もっと植栽の奥の方へ降ろせばよかったのに、石がゴロゴロしているところに降ろしてしまった。
ごめんなさい。
内側に進んでくれるように石を外側に除けたり、なかなかに力強いシモフリさんの俊敏な動きにアワワとなったりしながら、イモムシを怖がらない女子と一緒に、植栽の奥へ向かって歩いていく姿を見送ることが出来た。
この子が無事おとなになれるかは判らない。
この場の土が気に入らなければまたどこかへ歩いていくかもしれないし、この場にもぐって蛹になれたとしても、おそらく羽化するのは春だろう。
願わくば、無事、
越冬し、春を迎え、成虫になり、
美味しい花の蜜を吸うことができますように。