むかしむかし、ある所に
でもないか。
年取ったお爺さんとお婆さんがいました。
『年取ってるから、爺さん婆さんちゃう?』
『外野うるさいな』
『でも、おかしいやろ』
『エエから黙って聞かんかい、これ聞いて早よ寝や』
綺麗好きなお爺さんは、たっかい掃除機で、毎日せっせと掃除をしていました。
若かった頃は?頃も?綺麗?だったお婆さんは、いつものようにソファーで韓国映画を観ていました。
誰や、
こんなもんもろうて!
ウチにはダ◯ソーじゃない、たっかいダ◯ソンの掃除機がもうあるやないかい。
しかし、もろうたもんは、どんなんか一度は使ってみいひんと。
円盤の形をした自動で動くロボット掃除機や。
どうせ、オモチャやろうし、よう見とかんと直ぐに階段落ちたり、狭い所に入ってウンウン言って動かんようなるんやろ。
何が自動お掃除ロボットや、勝手に動くから、ずっと見とかんといかんやんか。
絶対自分で掃除機持った方が早いで。
四角い箱から丸い本体を取り出す。
最初は充電か。
まあ、電気無いと何でも動かんわな。
見とっても仕方ないので、セットしてそのままほっておく。
「充電が完了しました」
と喋って教えてくれる。
掃除方法がなんかぎょうさん書いてあるが、字が小そうてようわからん。ええから、動いてみいとスイッチのボタンを押す。
「只今からお掃除を開始します」
えらい丁寧にしゃべらんでもええねん。ちゃちゃと掃除せえ。
こっちも忙しいねん。いつ動かんようになるか、お前の後を見とかんといけんやないかい。
ウイーン
体格に似合わず、意外とおっきな音を出しながら動き出す。
吸い忘れの無いよう結構きっちりと几帳面に前後左右に動く。
掃除した後も重ならないように、ちゃんとずらして掃除をしている。
ほ〜やっぱ機械やなあ。測ったように動いてるで。
障害物に当たる度に、ガン!ガン音をたててぶつかる。
まあ、よう避けんわな。
しかし、ぶつかった後もうまいこと方向を変える。
平生、ソファーの下までは掃除できひんが、丁度その隙間に入いって行く。
ま、ええ事もあるわいな。
袋小路の台所に入る。
ここに入ったら、もう出て来れんやろうと、掃除機を持ち上げる準備をする。
が、こちらが手を差し出す事もなく、ちゃんと自分一人で出てくるやないか。
今度は目の前にカーペットがある、が難なく乗り越える。
その先はドアの敷居や。
高さ1センチはあろうか。こりゃあいくら何でも無理やろう。
ガンと当たって戻るわな。
え!?乗り越えた!?
!!戻ってこんのかい!!
リビングから出て玄関に行ってもうたがな。
玄関は段になってるし、タタキの靴の上に落ちるで、と急いで先回りする。
やっぱ見とかんといけんやないか。玄関の上がり口の前で落ちんよう手を差し伸べる。
すると、その手をあざ笑うかのように、なんと落ちる前にバックするではないか。
はあ〜?
見えとるんとちゃうか?
なんやねん。こっちをおちょくってるんか?
玄関が終わると次の和室に勝手に入って行く。物にぶつかる度に、相変わらずガンガンと音を立てるが、方向をちゃんと変えている。
そして、掃除が終わると自分で勝手にハウス、じゃない充電場所に戻ってくる。
なんとも。
いやはや。
長生きするもんや。
「あんた、掃除機の後をずっと追っかける姿が、まるで可愛いい孫を見守ってるみたいやったで」
と奥様が大笑いしながら言う。
「そりゃあ、落ちたり、ひっくり返ったりされたら困るしなあ。
でも、コレようできてるで。
こっちが手を差し出さんでも自分で勝手に動くし、途中で飽きて辞めることもせえへんし、腹空いたら最後はちゃんと戻るしな」
自力でちゃんと動く事を確認してからは、毎日スイッチを入れるだけとなった。
心配して後ろから追うことも無くなった。
ある日、いつものハウス、じゃない充電場所に姿が見えない。
「ソウちゃん、何処言った?ウチに帰ってないやないか。」
「誰?ソウちゃんって?」
「新しく貰った動くロボット掃除機のことや」
「何でソウちゃんなん?」
「掃除機やからや、今さら、変わった名前や字画を考えても仕方ないやろ。ジョニーなんかじゃおかしかろ」
「あんた、ほんまセンス無いなあ。
前に金魚三匹飼っていた時は、サル、イヌ、キジってつけたやろ。子供の友達の奥さんが、南江さんところはサル飼ってるって言われたことあるで」
そんな事は今どうでもええ。
どこ行ったんや。ソウちゃんは。
ほんま、遊んでおらんようになった子供を心配して探す感じや。
カーテンの隅に隠れて、バッテリーが切れて止まってた。
「可哀想に。直ぐ飯食わしたるさかい」
大事に抱き上げ、ハウスに持って行く。
「ソウちゃん、どうしてたん?」
「腹空かして、カーテンの下で動かんようになってたわ」
「もうちょっと、わかるようになるまで見とらんといかんかね」
「おまえも気いつけてみたれよ!まだ来たばっかりやし」
綺麗好きな年取ったお爺さんと、まだ綺麗なお婆さんの間に、若くて元気なソウちゃんが家族の一員として、やってきたお話しでした。
もちろんそれから、三人仲良く、毎日綺麗になったお家で暮らしたそうです。
めでたし、めでたし
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