いつの間にこんなにシミやシワが?!
鏡に映っている自分の顔を見て、急に気づく。
アレ?こんなにシミがあったっけ?
女性のように、じっくりと鏡に向かい入念に化粧をするわけでもない。
が、毎日鏡はみていた、はずだった。
美男という大それた作りでもなければ、今更天下の一大事という顔でもない。
しかし、顔のシミが多くなっていない?
今まで、シミのひとつや二つ気にもかけなかったが、気になれば、なぜかますます増えていくようだ。
昨日より増えたんじゃない?
顔だけじゃない、よく見れば手の甲にもある。
あれ?
シミ以外にも、のどの皮膚のたるみというか、シワがこんなにあった?
一日二日で急になるわけでもないのに、気づいて初めて愕然とする。
まるで魔法使いのばあさんの杖の一振りで、あっという間に老化し、醜くされたような気がした。
テレビで放送しているシミを取る薬や、シミにならない防御法を、今さらながら急に関心を持つようになる。
紫外線、ビタミン、サプリメント。
なるほど、なるほど。
以前、奥様が必死になって見ていたのも、ようやくわかる気がした。
人間って我が身に降りかからないと感心がわかないもんだ。
いや降りかかっていても、さっぱり気づいてなかったわけだけど、、
直ぐに薬局に行き、とりあえずシミを取る塗り薬とビタミンを買う。
しかし、鉛筆の字を消す消しゴムのように、すぐに消せるわけでもなく、薄くもならない。
いつの間にか止めてしまっている。
やはり、直ぐに効果が現れないとやる気も失せるわけで。
「あれ、近頃、薬付けないの?」
と奥様。
今更この年でビタミンや薬飲んでも、もう手遅れだろう。
金をかけてレーザーで除去するほどの顔かと、お得意の言い訳を考え始める。
そういえば、以前、年老いた親父の首すじのしわや、筋肉の落ちた足を見て、たとえ身体を鍛えても、年を取るということは、こうなるもんだとながめていた。
若い頃は骨太の骨格、分厚い胸ぐら、隆々とした腕やふともも、そしてシャンとした姿勢。
やっぱり、煮干しを食っていた戦前生まれの者は、戦後、プリンを食べていたヤワな時代で育った我々とは作りが違うわと感じていた。
しかし、そんな羨ましい姿も、いずれは残念ながら衰えてしまうものだと、現実を目の前に少々寂しかったことを思い出す。
そして、今、プリンを食っていた自分も、いつの間にか筋肉が落ち、シワやシミの多い老人姿となっていることに気づかされる。
結局は、長い年月が経てば、誰でもいずれ、老いるということである。
鏡のむこうで、シワだらけの魔法使いのばあさんが笑ってた。
「だから、私のせいじゃないって」