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そういう日常(小説)

今日も日が昇っては沈んでいく日々をただ浪費している。
いや、違う。私の生活にもう日が昇ることなどない。
「いってらっしゃい。」
「ん。」
挨拶も早々に夫は仕事へ向かう。新婚だった頃に戻りたい。もう30後半にもなるので、夫が私に魅力を感じないことは致し方のないことなのかもしれない。
私たちの間に子どもはできなかった。不妊の原因は夫の無精子症だった。夫の頃を本気で愛していたころには、そんなことは気にならなかった。
しかし時間がたつと思わぬところでそれが私の足を引っ張り始めた。
人間関係だ。
私は高校時代の同級生数人が交友関係のほとんどを占めていた。高校時代からずっと他愛のない話で盛り上がれた。
あるときクラスで憧れの存在であった真紀に子供ができると、それに続くかのように同級生たちにも子供ができていった。それがきっかけとなった。
当然、お茶会の話は可愛いわが子の話でもちきりになる。
次第に話がかみ合わなくなっていく。なぜか楽しくない。優しい同級生は私に気を使い話を合わせてくれようとするのだが、なんだか申し分けなくなってしまい、誘いを断るようになっていった。
バイトでも始めて、交友関係を作ろうと思ったのだが、夫のプライドはそれを許さなかった。
夫曰く、「交友関係のために仕事をするなんて迷惑だ。給料なら十分稼いでいるだろ。」と。
考え方が昭和なんだと思う。
1ヵ月後、夫が交通事故で死んだ。
私は実家に戻り実親との生活を始めた。なんというか、気を遣うストレスが少なくて済むのだ。
夫には申し訳ないが、今の方がずっと幸せだ。やはり血のつながりには理屈を超えた安心感があるのかもしれない。

***

「みたいな小説ってどうかな?」
自作の小説のを手元に置き、先輩に目をやると奇麗な横顔でうとうとしている、、、
「あ、ごめん途中から聞いてなかったわ」
「も~っ、ちゃんときいてくださいよ」
「ん、まあし強いていうなら、説明的な描写が多くて、読者を引き付ける魅力に乏しいっていうところかな。」
「ぐぬぬ、、じゃあどうしろっていうのさ、、、」
「「行ってらっしゃい」、「ん。」しか会話がないじゃん」
「ん。」
「オイこら!」
私は先輩に改まって向き直る。
「そういえば最近涼太くんからのLINEがしつこくって、どうすればいいですかね。」
「あー涼太君ね~。ちょっと怖いっていうか、たまに突拍子のないこという子だよね~、、、この前も、先輩ちょっとLINE見してみ?」
「でもそういうのって、プライバシーとか、、、」
「いいからいいから、」
先輩は半ば強引に私のLINEを見る。
「やばくね?今日は駅前にいないの?ってきてるけど毎日追い回されてるってこと?」
「、、、はい。正直あまりタイプじゃなくて、ごめんなさいしたんですけど、何回も会いたいって連絡が来てたの断って、もうめんどくさくなってしばらく無視してたらいつの間にかストーカーみたいになっちゃったんですよ。一人にさせてくれよっていっていうか。」
「うーん、もう少し様子見て、これ以上ひどくなったら先生とかに相談してみてもいいかもね~、ところで、一人になりたいのに一人で寂しい婦人の小説なんて考えてるの?」
「それはですね、涼太君の事を考えてみたらかわいそうだなって思って思いついたんですよ。私のこと追い回してるせいで、誰も友達いないのかわいそうだなって。」
「なになに、加害者の心配してんの?てかあんたは友達いるの?」
「別に心配じゃないですよ。皮肉ですよ、ひ、に、く。」
「と私には、先輩がいるじゃないですか。」
「え?」
「え?」
「もしかして、女の子好きになっちゃうタイプ?」
先輩は急真剣な表情になる。
「なわけななわけないじゃいですかですか~、ははは」
駄目だ、うまく伝えられんかった。
「だよね~」
先輩にはバレないように後ろで腕をつねった。
これ以上ここにいてはまずい気がする。
「あ、今日これからバイトなのでお先しつれいします。」
教室を出てげた箱へ行くと、なぜか涼太君がそこにいた。
駅から戻ってきたというのか、、、眩暈がする。
「一緒に帰ろ」声をかけてきた。
「今日これからバイトだからごめん」そう言おうとしたが、バイト先を知られるのはまずい。来られても困る。怖い。なんて言えばいいかわからない。
急いで靴を履き替え、逃げだした。気持ち悪い。
さすがに追ってはこない。
先輩と話していたら結構時間がたってしまった。電車の時間をスマホで確認しなけばならない。いやな予感がする。
LINEの通知が60件を超えている。今もラインは止まらない。
ぷつんと、糸が切れる音がした。
バイト先に、体調不良で休みますと何度もあやまった。
「みどり橋に来て。言いたいことがあるの。」
そう、送信した。
間を開けてもう一度送信した。今度は殺意をこめて。
みどりばしへ向かう。
みどりばしで、さっきの先輩にちゃんと告白した。
ふられた。女の子同士の恋愛はよくわからないんだと言っていた。
涙は何とかこらえらえた。
***
「みどり橋に来て」それを見て涼太は歓喜した。
ついに自分の思いが通じたのだと。
軽い足取りで現地につくと、先輩と話している姿が目に入った。先輩に断ってもらおうという魂胆なのだろうかと涼太は勘違いし訝しんだが、気づくと先輩はどこかに行ったので会いに行くことにした。
先輩にどう告白するか相談でもしていたのだろうかと的外れな思案をしながら駆け寄る。
こちらに気づいててを振っている。かわいいと思った。
「バイトさぼっちゃった。」
彼女はそういった。
彼女はいきなり僕を抱きしめた。
ふっと力が抜ける。今まで生きてきた中で、一番幸せだ。と思った。
幸せな気分だ。
次の瞬間、僕は宙を舞っていた。ここの橋は結構な高さの割に手すりが低い。
ごみを見るかのような顔をした彼女が一瞬視界にうつりこんだ。
混乱に頭が追い付かなかったが、間もなく命は尽きる。


この小説は、この記事でふくろう氏に「ストレスを抱えた人」リクエストをいただいて書きました。ふくろうさん、リクエストありがとうございました!
まだ募集しているので、よかったらどうぞ。








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