リチャード・ブローディガン『芝生の復讐』
リチャード・ブローディガン著
藤本 和子訳
『芝生の復讐』Revenge of Lawn Stories1962-1970
リチャード・ブローディガンの『アメリカの鱒釣り』に続く超短編集です。ブローディガンはこの間に『ビッグ・サーの南軍将軍』『愛のゆくえ』『西瓜糖の日々』を書いています。
『アメリカの鱒釣り』ではごく普通の社会生活をおくっているコミュニティーから距離をとって生きているアメリカ人をかなり独特なジョークで表現していました。当時の普通の社会生活というのは支配するものとされるものがはっきり別れていて、しっかり消費をして資本主義のなかに組み込まれているという認識です。
それから8年経ってブローディガンの心境にも変化があったのがわかります。それが顕著に現れているのはお金とおっぱいについて多く書かれているところです。
『1/3 1/3 1/3』では小説家が本を書いて売上の1/3、女性がタイプして1/3そして主人公が編集して1/3を受け取るという話。「金も欲しかった。1/3だ。」なんてかいてある箇所もあります。
『ヘミングウェイのタイピスト』では時給15ドルでタイピストに仕事を依頼したとあります。
これらはすべて創作なのですが、ブローディガンが『アメリカの鱒釣り』で当時の若者に人気を得たことと関係してくるのでは思います。収入が大きくなれば、いやでも普通の社会と関係が近くなる、ブローディガンの苦悩が現れていると思います。
『きれいなオフィス』では「神秘的な小柄な娘はとても大きな乳房をして、タイプライターに紙を巻きこんでいる」。『ずっと昔、人々はアメリカに住むのだと決めた』では「その下の乳房は緊めつけられていないから、固く若々しい波を打って揺れる」。おっぱいというのは男女問わずアメリカ人にとって欲望の象徴、一番欲しいものと考えられます。人気作家になったブローディガンがひきこもってばかりではいられない、普通のアメリカ人の生活に染まってきているそんな感じがします。
ちょっと距離をとりながら、独特のユーモアでアメリカ人と彼らの生活を描いているのは変わりません。世の移り変わりと関わり方に悩みながら描いたこの短編集はとても愛らしい何度も読みたくなる本でした。