ジョン・アーヴィング『あの川のほとりで』
保安官代理カールの恋人を殺害してしまったドミニクとダニエル父子の逃避行がメインテーマとして描かれている、そして父には子に母の死について真実を語ることができない理由があった。父子がどちらが死ぬまで仲良く生きていくにはこのぐらいの背景がないとだめなのかなあという物語でした。ジョン・アーヴィングの小説は『ガープの世界』や『ホテル・ニューハンプシャー』など有名なものがありますが、彼の小説はまだ読んだことはありませんでした。題名でなんとなく今作を選びましたが、ものすごく面白い小説で自分のセンスのよさにびっくりです。
なにが面白いかというと、まずはいろいろなエピソードのパンチのつよさが挙げられます。強烈なだけでなく、ちゃんとユーモアもあります。
たとえば、
父親と恋人であるインディアンの女性とのセックスをクマに襲われていると勘違いした少年のとった行動のエピソードになります。なぜフライパンなのかということが、それまでに語られてきておりこのエピソードに繋がっていきます。そしてこの事件が父子の逃避行の始まりであり重要な点となります。この物語の流れが完璧で、かつ笑っちゃいけないけど笑えてしまうユーモアをまとっているのがものすごいと感じました。
さらに私の好きなのは、
この魅力的なスカイダイバーはジョー坊やの「おばさんは天使なの?」の問いかけに「そうねえ、ときどきね」と答えます。この回答がダニエルの心に物語ラストまで残っていきます。このエイミーという名の女性は読む方にも強い印象をのこします。登場するのはわずかです、このシーンとラストに少しだけしか出てきません。父子は逃避行のあいだ中、とにかくモテて、ちんちんが乾く暇もない感じです。ですのでたくさんの女性が登場しますが、面白い人は魅力的にそうでない人はそれなりに、しっかりかき分けているのが面白いです。
その他にもベトナム戦争が終わった日のテレビ報道をベトナム人が経営するレストランで見るところやケッチャムがクマを殺して車の助手席に乗せて運ぶところなど選ぶのに困るほどのおもしろエピソードてんこ盛りです。で、そのケッチャムというかわった名の持ち主が登場人物の中でも一番魅力的な人物です。好きな人にも嫌いな人にもきたない言葉で罵倒するのですが、父子には愛情のつまった暴言を吐くてれやさんという感じの人物になります。ケッチャムがダニエルに言った最後の言葉がとにかくいいんです。
ケッチャムが地球上にいる数少ない愛する人間に対する最後の言葉、ダニエルのことを心底心配する気持ちが伝わってきます。
父子の逃避行の旅はニューハンプシャー州ーマサチューセッツ州ーヴァーモント州ーカナダのトロントと北米大陸北東部で進んでいきます。保安官代理に見つかったらすぐに逃げ出す必要があるので人間関係もドライに描かれています、これは人間関係だけでなく人の死についても同じです。ダニエルは息子ジョーと父ドミニクを看取ることになりますが、そこに悲しさはあるがウェットな表現はありません。そこは自分たちの追われているという状態もあるとおもいます。いつ死んでもおかしくない、死んだら死んだで仕方がない、そうゆう人生なんだという割り切りがそうさせているのでしょう。そのドライな感じは物語全体に漂っているので、読んでいていやな感情なく楽しめるのだと思います。
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