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吉岡果音
2025年2月5日 16:41
第十章 空の窓、そしてそれぞれの朝へ― 第162話 絶対、また会おうねっ。 ― 翠……! キアランは息をのむ。 四天王青藍の、爆発のような衝撃波の影響が消え、雪の大地があらわになる。 つい先ほどまで、青藍の足にしがみついていた翠の姿は――、どこにもない。「翠―っ!」 空中に停止し続けるシトリンに、抱えられたキアラン。翠のいたはずの大地に向け、あらん限りの声を張り上げた。
2025年1月28日 21:34
第十章 空の窓、そしてそれぞれの朝へ― 第161話 絶対命令 ― 凄まじい音が鳴り響き、明滅する空。 翠……! 翠と四天王青藍が激突していた。地上のキアランは、どうすることもできない。 ただ空を見上げることしかできないキアランの耳に、翠の怒鳴り声が届く。「キアラン! 足を止めるな! お前は進め!」 キアランは、ハッとした。 翠が上空で戦っているのは、私を守るためでもある
2025年1月21日 14:35
第十章 空の窓、そしてそれぞれの朝へ― 第160話 友だちだから ― 意識が遠のいていく。「うっ……!」 シルガーは、うめき声を上げた。口から血があふれ出る。 シルガーは、岩に激突していた。 青藍の衝撃波によって、シルガーもシルガーの背後の木々も、それから近くの木々も吹き飛ばされていた。そのため、シルガーはずいぶん遠くの岩まで飛ばされていた。 青藍の攻撃を、まともにくらって
2025年1月15日 15:00
第十章 空の窓、そしてそれぞれの朝へ― 第159話 敗北と、希望と ― 風を切る。 急降下するシトリンの頬を、かすめてなにかが飛んで行った。「ふん。邪魔くさい」 シトリンは、動じることなく飛行を続ける。 ほどなく背後から爆発音が聞こえる。シトリンの頬をかすめた物体は、白銀によって弾かれた、黒裂丸の弾丸のような攻撃だった。「花紺青おにーちゃん、私は黒羽おねーちゃんのほうへ行く!
2025年1月6日 22:50
第十章 空の窓、そしてそれぞれの朝へ― 第158話 目の前のチャンスなら ― シルガーの眼前に立つ、新しい王。 それは、四天王青藍。 シルガーは、血に染まった青藍の六本の腕を見つめながら、叫んでいた。「逃げ切れないわけでも、危機的な状況でもなかった。それなのに、自ら主を殺すとは……! やはり貴様は、初めから――!」 青藍が、くっ、と笑う。「別に、珍しいことではないでしょう。我
2024年12月30日 18:08
第十章 空の窓、そしてそれぞれの朝へ― 第157話 闇より深い黒 ― 光が走る。 辺り一帯の空気が、熱を帯びる。吹雪の中、空は、恐ろしい戦いのエネルギーで燃えていた。 四天王シルガーと青い翼の従者、それから四天王レッドスピネル。三つの大きな破壊のエネルギーが入り乱れる。「……思いのほか、時間をかけていらっしゃるように見受けられます」 口を開いたのは、青い翼の従者。「……なんの
2024年12月25日 16:10
第十章 空の窓、そしてそれぞれの朝へ― 第156話 赤朽葉と、黒羽 ― 大きな音を響かせながら、大木が倒れる。衝撃で、辺り一面煙のように雪が舞い上がる。 赤朽葉の鋭い爪が、木をなぎ倒していた。 赤朽葉が切り裂くはずだった標的は、黒羽。黒羽は、爪が襲いかかる一瞬前にその場から飛び避けていたのだ。 黒羽の艶やかな赤い唇が動く。刃とも弾丸ともなる魔の力の加わった、呪文となる言葉を、生み出そう
2024年12月17日 22:54
第十章 空の窓、そしてそれぞれの朝へ― 第155話 黒裂丸と白銀 ― 押し寄せる、ひりひりとするような強い圧迫感。 キアランも、感じていた。激しい戦いの波動を。「翠、あれは――」 キアランは、自分を抱えて飛んでくれている翠に大声で尋ねていた。もしかしたら、人とは違い魔の者である翠たちは、どんな状況下でも問いかけを正確に理解できるのかもしれない。しかし、吹雪の空の中を移動しているため
2023年5月6日 22:19
第一章 運命の旅― 第1話 黒の剣士、キアラン ― 闇夜を切り裂く、光――。それは、鋭い剣の軌道だった。 ガアアアア……! 咆哮と共に、巨大な獣が音を立て大地に伏す。 天高く輝く三日月だけが、すべてを見ていた。 剣を振るったのは、すらりとした黒髪の男。 その男の瞳は、右目が金色、左目が黒色という不思議な輝きを放っていた。 男は、剣を大きく振り血を払うと鞘に収めた。「ふむ
2023年5月8日 10:32
第一章 運命の旅― 第2話 旅の始まり ― 冷たい風が吹きすさぶ。荒涼とした大地には、風の道を遮るものがなかった。 流れる黒い雲のすき間から、時折月が顔を覗かせる。月は、果てしない荒野の中にある、男と少年――キアランとルーイ――を静かに照らしていた。 キアランは、持っていたテントを設置していた。長年使いこまれ、すっかりくたびれてはいたが、持ち主の最低限の安全は守るという機能は果たしている
2023年5月10日 09:55
第一章 運命の旅― 第3話 魔法使いの少年、ルーイ ― キアランは、朝日に輝く雲を見ていた。それは、美しい金の色を宿していた。 頬に当たる冷たい風が心地よい。あれほど一晩中吹き荒れていた風も、今は穏やかになっていた。「おはよー、キアラン! 今日はいい天気になりそうだねっ」 うん、と伸びをしながら、ルーイが隣に並ぶ。ルーイが目覚めないようにそっとテントから出たつもりだったが、起こして
2023年5月12日 10:19
第一章 運命の旅― 第4話 「四聖」を守護する者 ― 闇の中にいた。 キアランの意識は、内奥深くにあった。 私は――。 外界と繋がる表層的な部分の感覚、肉体的感覚がなかった。ひどく負傷したはずの背中の、痛みもなかった。まるで、魂だけが宙に漂っているかのようだった。 もしかして、これが「死」というものなのか、キアランは恐怖も執着も後悔もなく――、感情を生み出すことなく、ただぼんや
2023年5月13日 23:06
第一章 運命の旅― 第5話 亜麻色の髪の、アマリア ― 突然、不気味な地鳴りがし、大地が揺れ始めた。 キアラン、アマリア、ルーイに緊張が走る。「新たな魔の者が……!」 アマリアがいち早く魔の気配を察知し、叫んだ。「なに……!?」 キアランは驚く。いくらここが危険な空気をはらんだ場所とはいえ、これほどたて続けに魔の者が出現するとは、通常考えられないことだった。 まさか、本
2023年5月15日 17:54
第一章 運命の旅― 第6話 地底からの使者 ― 轟音と共に、大地が激しく揺れた。 「あっ……!」 振り返るルーイの小さな体は、たちまち黒い影に覆われる。土埃を立て、地中から巨大な怪物が姿を現したのだ。「魔の者……!」 それは、異様な姿だった。 長い鎌首をもたげるように顔を出した怪物。外見といい質感といい、まるで巨大な芋虫だった。 地上に現れた部分だけでもキアランの背丈をゆ