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わたしが「再読」するとき。


今月は、「再読」が多かった。


読んだ本のタイトルを記録するといいと見かけてから、わたしもそうするようになった。
それ以降、月末の日記に「今月読んだ本たち」を載せている。

昨日投稿した「9月の日記」にも、いちばん最後に、本のタイトルを載せた。
それが、こちら。

・島田潤一郎「古くてあたらしい仕事」再読
・島田潤一郎「あしたから出版社」再読
・島田潤一郎「長い読書」再読
・村上春樹「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド(上)」
・カフカ「カフカ短編集」未読
・荒井裕樹「まとまらない言葉を生きる」未読
・東畑開人「なんでも見つかる夜に心だけが見つからない」再読
・くどうれいん「日記の練習」


こんなに「再読」したのは、初めてだった。

読み返したのは、島田潤一郎さんの本ばかり。
あと、月の後半には東畑開人さんも読み直した。

どの本も、わたしの荒んだ心に、安らぎの風を吹かせてくれた。







いつのまにか、「本」は、安らぎをくれる存在になった。

頭が重たくなって、心がささくれだって、口からは呪いの言葉しか吐き出せなくなってしまったとき。
本は、わたしを引き戻してくれた。
そっちに行ったって、ろくなことにならないよ、と呼びかけてくれた。


ここで間違って、Xなんか開いたらダメだ。
批判と苦しみしかないやりとりを垣間見て、世界のことが嫌いになる。
Yahooニュースを読めば暗い気持ちになるし、 noteですら時に刺激になる。

そんなときは、「本」しかない。


本にすがるしかない。
助けてくれ、本。
だれかの豊かな言葉で、心を落ちつかせたい。
静かな数分間の読書で、冷静な気持ちを取り戻したい。

6分間の読書は、ストレスを解消する。
どこかで聞いたそれを信じているので、とにかく6分は読もうと決めて、すべてを投げ出して、本を読む。


こういうとき、新しい作家の「未知」の本を読むと、ますます脳が混乱して、胸がいっぱいいっぱいになる。

だから、「再読」するのだ。

あの日、わたしの心に寄り添ってくれた本を、もう一度本棚から取り出す。
あの文章に、会いにいく。

それを手に取り、ひらく頃には、心はすでに嵐を抜けて、おだやかな波に乗ろうとしている。





9月のはじめは、次男のイヤイヤ期がひどかった。
そのおかげで、心身が疲弊していたからだろう。
とっておき」の本に、すがりたかった。
それが、島田潤一郎さんだった。


心を取り戻すために力を貸してくれるのは、「本」だけではない。
それは「音楽」だったり、「映画」だったり、「旅行」だったり、「美味しいもの」だったりもする。
「推し」でも、「流行りのドラマ」でもいいし、「友達」でも「彼氏」でもいい。

心が取り戻せるなら、それはなんだっていい。



少し前まで、わたしの心を落ち着かせてくれるのは「夫」だった。
夫に会って、話して、言葉をもらったら、心が救われて、優しい自分になれる。
そんな気がして、「夫」にすがっていたが、いつまでもそれではダメだと気づいた。

そうだ。
夫だって、自分の心を保つのに精一杯なのだ。
それに気づいてからは、ますます「本」の力を借りた。

そしてそれは、たぶん正解だった。
「本」は、その役割を、しっかりと果たしてくれたのだから。





島田潤一郎さんは、亡くなった従兄の両親のために『さよならのあとで』という一編の詩を「本」にした。
それを作るにあたって、島田さんは「本」を次のように語っている。

それは、なんというか、生活の小さな重心のようなものだった。
なにかいやなことがあっても、その本を見ればほんのちょっと気持ちが落ち着く。未来がまったく見えなくても、この本を読もうと思うことが、ほんの少しだけ未来を明るく照らす。

島田潤一郎『古くてあたらしい仕事』、p.51


わたしにとっても、「とっておきの本」は、このような存在になりつつある。
島田潤一郎さんとか、くどうれいんさんとか、東畑開人さんとか、ほかにもいくつか。

それらは、傷ついたり凹んだりした心を「安全地帯」へ連れていってくれる。
開いて、中を一つ読めば、たちまち心がすうっと澄んでいくような、そんな気持ちになれる存在。

迷ったら、あの本だ。
辛いなら、あの本だ。
ゆるやかに元気を取り戻したいなら、あの本だ。

そうやってわたしは、何度も何度もおなじ本を棚から取り出す。
枕元や、テーブルや、ソファーの上に置いておく。
それを見るだけで、安心する。
わたしには「本」があるから、と思える。


10月がはじまる。
また、本を読む。

読みかけの本も多いので、読み切りたいし、村上春樹の『世界の終りとハード・ボイルド・ワンダーランド』は、下巻に向かわなければ。
読みたい本もいくつかあって、注文する指が迷って震える。

でも、「とっておき」は、すぐそばにいる。
何度でも、読み直せる。

お気に入りと、読みかけと、未知の本に埋もれながら。
今日も寝る前にはまた、「とっておき」のページをひらいて覗くんだろう。




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