見出し画像

【心に刻む幸せのかけら:祖母からの最後の贈り物】 3話:心に残る贈り物

東京に戻った佐和子は、いつもの通勤電車に揺られながら、祖母の遺した「幸せノート」と懐中時計のことを思い出していた。見慣れた車窓の景色がどこか違って見える。それは祖母の言葉が、自分の心の中で新しい視点を与えてくれているからだろう。
「時間を大事にするか…」
祖母の遺した懐中時計を鞄からそっと取り出す。カチカチと小さく時を刻む音が、今までの忙しさの中では気づかなかった「今」という瞬間を静かに教えてくれているようだった。
仕事に戻ると、いつも通りの忙しい日々が待っていた。新しいプロジェクトが立ち上がり、上司からの指示も次から次へと飛んでくる。周囲の同僚たちも慌ただしく動き回り、オフィス全体がピリピリとした雰囲気に包まれている。
「佐和子、この資料、今日中にまとめてくれないか?」
上司からの急な依頼に一瞬戸惑ったが、「はい、分かりました」とすぐに返事をする。昔ならそのまま無理をしてでも完璧にこなそうと必死になっていただろう。しかし、今日は少し違った。
昼休みにふと手を止め、祖母の「幸せノート」をそっと開く。そこには、こんな言葉が書かれていた。
「大事なのは、自分を見失わないこと。人に優しくするためには、まず自分に優しくあることよ」
その言葉を読んだ瞬間、佐和子は心がすっと軽くなるのを感じた。「そうだ、無理をしすぎなくてもいいんだ。ちゃんと自分を大事にしながら仕事をすればいい」と思えるようになったのだ。
午後の業務は忙しかったが、適度に休憩を取りながら丁寧に仕事を進めた。すると不思議なことに、周囲の同僚とも少しずつコミュニケーションが増え、今まで気づかなかった「職場の温かさ」を感じられるようになった。
「最近、佐和子さん、雰囲気変わりましたね。なんか穏やかになったっていうか」
後輩からそんな言葉をかけられ、少し驚いた。けれど、それは祖母が教えてくれた「心の持ち方」が少しずつ自分の中に根付いてきたからなのだろうと感じた。
その日の帰り道、佐和子は会社の近くの小さなカフェに立ち寄った。祖母が生前よく言っていた「一日を振り返る時間を持ちなさい」という言葉を思い出し、少しだけ自分の時間を取ることにしたのだ。
温かいコーヒーを飲みながら、祖母の「幸せノート」の空白ページを開く。そして、ペンを手に取り、初めて自分の言葉をそこに書き足した。
「自分を大事にすることで、周りを大事にできる。その心を持って、私はこれからも生きていきたい」
書き終えた瞬間、不思議な達成感とともに、心がぽかぽかと温かくなるのを感じた。祖母が残してくれた言葉に、自分の思いを少しずつ重ねていく——それが、佐和子にとって新しい「幸せの形」になるような気がした。
家に帰ると、鞄の中から祖母の懐中時計を取り出し、そっと机に置いた。「おばあちゃん、ありがとう。私、少しずつだけど前に進めそうだよ」静かにそうつぶやきながら、佐和子は祖母への感謝の気持ちを胸に、穏やかな眠りについた。 


そんな穏やかな日々の中、ある日、母から再び一本の電話が入る。「佐和子、実はおばあちゃん、あなたに最後にもう一つだけ遺していたものがあったみたいなのよ」
突然の母の言葉に、佐和子は驚く。「もう一つの贈り物…?」それが何かを考えながら、佐和子は少し緊張した面持ちで次の話を思い描く。
次話へ続く

いいなと思ったら応援しよう!