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【心に刻む幸せのかけら:祖母からの最後の贈り物】 2話:写真に刻まれた想い出
翌朝、佐和子は早く目を覚ました。昨夜見たアルバムの最後の白紙ページが、どうしても頭から離れなかった。祖母が自分に何かを残してくれている——母のその言葉が心の中で繰り返されていた。
朝食を終えると、家族みんなで祖母の遺品を少しずつ整理し始めた。タンスの奥からは祖母が愛用していた着物や、手作りの小物が次々と出てくる。どれも丁寧に使われていたことが伝わってきて、佐和子は祖母の几帳面で優しい人柄を改めて感じた。
「これ、懐かしいわね…」
母が手に取ったのは、昔祖母が使っていた古い手提げかばん。祖母はいつもこれを持って買い物に出かけていたのを佐和子も覚えていた。その中には、古びたノートと数枚の写真が入っていた。
「これ、私だ…」
写真には幼い佐和子が写っていた。祖母の庭で花を摘んでいる様子や、一緒に手をつないで歩いている姿。その全てに、祖母の優しいまなざしが写っているように感じられた。
佐和子は思わず写真を抱きしめた。「おばあちゃん、私のことをこんなに大切に思ってくれてたんだね…」
ふと気づくと、ノートの表紙には「幸せノート」と書かれていた。ページを開くと、祖母の丸みを帯びた優しい字でこう書かれていた。
「幸せとは、自分の心を穏やかにしてくれるもの。人とのつながりを大切にすること。大切な人が笑顔でいてくれること——佐和子にも、そんな幸せを見つけてほしい」
佐和子は涙が止まらなかった。忙しい日々の中で、仕事に追われ、自分を見失いかけていた最近の自分に、この言葉は静かに寄り添ってくれるようだった。「おばあちゃん、私にこれを残してくれたんだ…」その瞬間、祖母の思いを自分が受け継いでいかなければならないと強く感じた。
母がそっと佐和子の肩に手を置く。「おばあちゃん、あなたのことが大好きだったのよ。だから、いつもこうやってあなたを気にかけていたのね」
佐和子は頷きながら、「私、もっと自分を大事にするね」と小さくつぶやいた。それは祖母への約束でもあり、自分自身への誓いでもあった。
その日の夕方、佐和子は一人で祖母の家の庭に出た。祖母と一緒に花を摘んだ記憶が鮮明によみがえる。「ここでおばあちゃんとたくさん話したよね…」つぶやきながら見上げた空は、優しい夕焼け色に染まっていた。
祖母が残してくれた「幸せノート」と写真。それは佐和子にとって、忙しい日常の中で見失いかけていた大切なものを思い出させてくれる宝物となった。
その夜、佐和子は「幸せノート」の空白のページを見つめながら、思った。「私もここに、自分だけの幸せを重ねていこう。おばあちゃんみたいに、大切な人たちに笑顔を渡せる人になりたいな」
次の日、東京に戻る準備をしていた佐和子に母が声をかけた。「あ、佐和子、これも持って行きなさい」
母が手渡したのは、祖母が愛用していた懐中時計。どこかレトロで、見ただけで祖母の温かい手の感触を思い出させるものだった。「おばあちゃん、これを持っていつも時間を大事にしてたのよ」
その言葉を聞いた佐和子は、「時間を大事にする」その意味を考えながら懐中時計をそっと握りしめた。「私も、もっと丁寧に生きていきたいな」と静かに思うのだった。
次話へ続く