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第7話 スカシとシノブの暮らしの始まり

スカシは手作りの家屋、トイレ、風呂場、畑をシノブに案内して回った。島の大草原の真っただ中に突然現れた、その光景にシノブは圧倒された。

シノブ
 「マジか!? これ全部、あんたが造ったのか?」

スカシ
 「そうだよ。 でも、俺一人じゃない。 ここにいるクレタや、
 島で出会った仲間、そして俺を迎え入れてくれたこの大自然が
 知恵をくれたり、手伝ってくれたりしたおかげなんだ。」

そのとき、シノブのお腹が「ぐぅ~」と鳴いた。

スカシ
 「お腹がすいてるんだね。 台所に雑穀米を炊いた残りもあるから、
 食べながら話そうか?」

スカシはシノブを囲炉裏のある部屋に案内して、雑穀米のご飯と
『ミックチュベジタブリュウ』とハーブ茶を用意した。
 シノブはよほどお腹が空いていたのか、夢中で食べていたが、ふと、囲炉裏に目がとまった。

シノブ
 「うん、おいひぃ~。 ところでこの囲炉裏の火って、もしかして
 焔硝を使って点けたの?」

スカシ
 「そうだよ。 なんか氣になることでも?」

シノブ
 「焔硝の作り方とかよく知ってたね。 忍者や薬草の知識があるようには 
 見えないのに・・・。」

スカシ
 「考えてみれば不思議だよね。 でも、ここで自然と共存した暮らしを
 するって決めた時から、この島で出会った動物たちや自然が、
 生きていくのに必要な知恵を教えてくれたり、意思(思考)の現実化を
 手伝ってくれてるような氣もするんだ。」

さらにスカシが続ける。
 「クレタ、あ、サルモノクレタも最初はお互い遠慮というか、
 なかなかなじめなかったけど、純粋に島の自然を受け入れて、
 仲良くみんなで暮らしたいという俺の心を感じてくれるように
 なったんだと思う。
  それからは、念話みたいな感じでお互いの意思疎通ができるように
 なった氣がする。クレタだけじゃなくて、モグラたちやクモの
 アムノアミエ、アリのアリンコチエ、越冬ツバメやワタリガラスたち
 とも。」

シノブ
 「あたいは、おとんやおかん、それに里の人たちから、島の動物たちは
 野蛮だから氣をつけろって、小さいころから言われ続けてきた。
  でも、この島で修業している時は、ちっとも危険を感じたことも
 なかったし、本当に野蛮なのかな?って疑問だったわ。 不思議だね。
 目の前でサルや他の動物たちと仲良くしてるスカシさんを見てると、
 野蛮どころか、あたいも友達になれそうな氣がしてくるし、この島の
 自然にも愛着を感じるわ~。」

スカシ
 「きっと、シノブさんのその思いも伝わると思うよ。 俺、ここで
 暮らしてて思うんだけど、どんなに綺麗事を並べてみたところで、
 自然は心を見透かしてる。 必要なのは正直さとか、受け入れる寛容さ、
 尊敬、感謝、そして調和とか共生なんだと思う。 そんな生き方や
 暮らし方をしようと決めた時から、島の自然が俺を迎え入れてくれた
 ような氣がする。 だから、きっとその思いがあれば、シノブさんも
 受け入れてもらえると思うよ。 ところで、シノブさんはこの島に
 どれくらい滞在するの?」

シノブ
 「う~ん。 予定では3日くらいかな? それ以上長くなると、
 おとんとおかんが心配して迎えに来るかも。」

スカシ
 「じゃあ、島にいる間は、ここに泊っていけばいい。 あ、寝室に
 ベッドを造らなきゃ。 あと、草むしろ布団をもう1セット、
 アムノアミエに頼んでくるね。」

シノブ
 「え?! 草むしろ布団って? スカシさん、作れるの?」

スカシ
 「俺が作ったんじゃなくて、クモのアムノアミエが作ってくれたんだ。
 もしかして、シノブさんは作れるの? それなら、俺はベッドを
 造るから、その間にシノブさんが布団を作ればいいのかな?」

スカシは早速、シノブのベッド造りに取り掛かった。倉庫から資材を
とりだしてきて、『ノミネート』、『ノッコニオマカセ』、『キアイダ
ハンマー』、『ヤスリキヨシ』、『ナイスナイフ』などの道具を巧みに
使って、あっという間にシノブのベッドを完成させた。
 そして、草むしろを器用に編んでるシノブの様子をうかがった。

スカシ
 「シノブさん、すごい器用だね。 俺も編んでみたい。」

シノブ
 「この家を建てたりベッドをあっという間に作っちゃうあんたの方が
 すごいと思うわ。 きっと草むしろの編み方もすぐ習得するんじゃ
 ないかしら。 いいわ。 一緒にやりましょう。」

二人は仲良く草を編んでいった。そしてあっという間にシノブの草むしろ
布団と枕が完成した。これでお泊まりも完璧?

スカシは思い出したように台所に向かった。

シノブ
 「どうしたの?」

スカシ
 「塩を作るために海水を汲んで来たのを忘れてた。 これから、
 初めての塩作りに取り掛かる。 テ~レレテレ~テテ テ~レレ
 テレ~ ♪」

シノブ
 「初めてのお使いか(笑) あたいも手伝う。 ご飯のお礼もかねてね。 
 ところで作り方わかるの? 手順はこんな感じよ。」

 ・海水を汲んで樹皮を使ってろ過し、鍋に入れて強火で煮詰める。
 ・煮詰まった海水をろ過(せっこうの除去)してさらに中火で煮詰める。
 ・結晶が出てきたら弱火にしてさらに煮詰める。
 ・食塩の結晶が出てきたら水分が残っているうちに火を止める。
 ・水分を切ったら食塩の出来上がり。
  (https://www.shiojigyo.com/siohyakka/experiment/exp12.html

スカシ
 「ありがとう。 シノブさんのおかげで塩ができた。 次は大豆と
 雑穀米で味噌作りに挑戦だ。 でも1日で完成ってわけにはいかない
 から、今日は麹を作る準備かな?」

スカシはアワ・ムギ・キビの雑穀米でお粥を炊いた。
 ・土鍋を使って、キビ・アワ・ムギの雑穀米でお粥を炊く。
 ・炊きあがったお粥を木桶に移して、木べらで混ぜながら温度を下げる。
 ・木蓋をして冷暗所で保管(発酵を待つ)。これが雑穀米麹になる・・・
  はず(笑)。 あとは島の微生物たちに委ねた。思考の現実化を。

スカシ
 「今日はここまでかな? 雑穀米麹ができるまで待つ。 その後は
 大豆を茹でる。 それは後日だね。」

シノブ
 「ちゃんとできるといいね。 楽しみ~。 なんか、不思議だけど、
 ここにいると落ち着くな。 薬草をとりに行くのは明日でいっか~。」

二人のほのぼのとした様子を静かに見守っていたサルモノクレタが、
スカシに念話で話しかけてきた。

サルモノクレタ
 「スカシ、良い感じじゃないか。 ヒューヒューだよ。ヒューヒュー。」

スカシ
 「あはは、なんか懐かしいな(笑) クレタもよく知ってるな(笑)」

シノブ
 「スカシさん、どうかしたの?」

スカシ
 「あ、なんでもない。 クレタと話していたところだ。」

シノブ
 「良いな~。 あたいもクレタと話せるようになりたいなぁ。」

スカシ
 「シノブさんなら、そのうち、話せるようになるよ。 裏表も
 なさそうだし、心に正直な感じが伝わってるから、島の自然とも
 打ち解けるようになると思うよ。 あとは里で教えられてきた偏見や
 固定概念を手放せたらいいかもね。」

シノブ
 「そしたら、あたいも、この島で暮らせるようになるかな?」

スカシ
 「え?!」

シノブ
 「冗談よ、冗談。 でもこの島も好きなんだよね・・・」

スカシ
 「じゃあさぁ、いっそのこと、ここに一緒に住んじゃおうよ。」

シノブが顔を赤くした
 「それって・・・ いきなりプロポーズかよ。 会ってすぐに?」

スカシも顔が赤くなる
 「そうか・・・ そう言う意味にもなるか?」

シノブ
 「違うんか~い!」

スカシ
 「いや、違わない。 では、改めて『ねるとん』の続きを・・・
 シノブさん、第一印象から決めてました。 俺と一緒にこの島で
 暮らしてください。」

シノブ
 「いきなりは・・・ 島に滞在する予定の3日一緒に暮らしてから
 返事します。 それで良いかしら? 返事はその時に・・・ね。」

こうしてスカシとシノブとクレタの無人島での暮らしが始まったのだった。

  この物語はフィクションであり、作者である私の妄想から
  産まれた空想物語です。したがって、登場する人物や名称などは
  実在のものとは異なりますので、ご注意願います。

        つづく

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