教師の心得 第3条 「教えない」
○ 教えない
先生の仕事は、「教える」ことだと思っていませんか?
それは半分正解で、半分勘違いです。
先生の仕事は、「教える」前に、「気づかせる」ことが大切です。
そして、「考える」ことと「挑戦する」ことを準備することが仕事です。
教えてはいけません。
以前、小学部低学年の子どもたちに、「ボールの投げ方」を教える授業をしている先生がいました。
子どもたちは、真面目に、一所懸命、教えてもらった通りに「投げ方」を練習していました。
しかし、ボールを持つ手、重心を移動する脚、目標までの距離と力加減、などを、教えてもらった通りにやろうとすると、身体中バラバラになってしまいました。
教えなくても投げられていた子どもまで、先生が教えた通りに投げようとして、投げられなくなっていました。
では、教えないためにはどうしたらよいでしょう。
○ くつ下のはかせ方
「くつ下のはかせ方」という指導方法があります。
くつ下を一人で履けない子どもに、はじめは、大人が最後まで履かせてあげます。
次に、上まで履かせてから、少しずらして戻します。
せっかく上まで履いたのに、ズルッとなると気持ち悪いですよね。
そこから、上まで子どもに自分で上げさせます。
きれいに履けている状態を見せてから、その状態にするように、少しだけ挑戦させます。
子どもたちは、不思議と「気持ちのいい」状態を目指して、自分でやってみます。
さらに、もっと下に戻してみます。
子どもの指先の力や集中力の持続をモニタして、一人でできるのはどこまでかな、と探りながら、少しずつ戻す量を増やしていきます。
つまり、「くつ下のはき方」を教えて、はじめからやらせるのではありません。
できあがりの状態から、逆算して、
少しずつチャレンジさせて、小さな「できる」を積み重ねることが大切です。
全く知らないこと、できないことを、「自分でやりなさい」「一人で考えなさい」ということでありません。
考えさせるためには、知っておく必要がある知識は、教えることか必要です。
また、場合によっては、答えではなく、やり方を教えることも大切です。
まずやり方が分かってから、次は一人でできるように、やり方を振り返って考える、という順番の場合もあります。
その時に大切なことは、何をどこまで知っているのか、考える力があるのか、という現在の状態を確認することです。
これをアセスメントと言います。
○ 「ボールの投げ方」のヒント
「ボールの投げ方」も、より強く、より遠くに投げるために、適切なアドバイスを教えることで、できるようになる段階の子どももいます。
小学部低学年の段階で、ボールを投げることを身につけてほしい時、目的はなんでしょうか。
それは、自分で思ったところにより正確に投げることです。
そのためには、投げ方を教えるのではなく、投げ方を「引き出す」と考えると課題の設定が変わってきます。
的に正確に当てるのには、上投げより下投げの方がコントロールがしやすいです。
先生自身がまず、自分でやってみましょう。
丸めた紙クズをゴミ箱に投げ入れる時、上投げと下投げと、どちらが入りやすいですか?
正確に投げることが目的なのであれば、下投げの方が合理的です。
しかし、少し遠くから的に当てようとすると、下投げでは届かなくなります。
そこで初めて上投げの意味が出てきます。
そこで、的までの間についたてのような障害物を置いて、下投げでは届かない場面を設定をしてみましょう。
または、バスケットボールのゴールのように、少し高い位置に的を置いたり、入り口の角度を変えたりします。
このように、子どもたちの動きを「引き出す」ために、上から投げる「必然性」のある状況を設定することが先生の仕事です。
教えるのではなく、どうすれば引き出せるかを考えましょう。
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