もしもの街
季節は今と同じ梅雨で、雲の切れ目で太陽の光がさして、庭にある知らない名前の植物に乗っかった雨水が光って。ドイツのローテンブルクみたいな可愛らしい家。隣の家は沖縄にあるような平家で、さらにその隣はモンゴルのゲルみたいなテントにしてみる。
平日なのに、スーツを着て急ぐ人はいなくて、みんな少しくたびれたシャツを着てる。ちょっとの雨なら傘なんてささないし、濡れてもイライラしない。なんなら雨水でシャツの色が少し濃くなって、すれ違った人が「水玉模様だね」って笑う。
色んな国の色んな家が並んだその通りを歩くといきなり映画館があって、入り口を入ってハンカチで雨水をはらう。もちろん“ナントカデー”とかの、特定の人だけ割引になる日はなくて、毎日同じ値段。外の雨の具合を知らないチケット売り場の人がレジスターからカチャカチャとお釣りを集めて渡してくれる。
映画が終わって余韻に浸りながら、またシャツを水玉模様にして帰る。隣の隣のゲルに雨が当たる音。お向かいさんは雨水を溜めていて、濾過をして生活に使うらしい。雨ソムリエ。近所に住む昆虫博士にヤゴを提供している。
べたっとした湿気のある日に布団を干してしまうような鈍感な人とか、水溜りをバシャバシャといつもより足を上げて歩く人とか、壊れた傘を集めている人とか、毎日日照りを願って祈りを捧げている人とか。みんな仲良しで、博士の育てたヤゴがトンボになると一緒に喜んでお祭りをする。
何でもないように見えて、そうでない。本当はどこの街だってそうなのに、そうでない。こんな街があったらいいなっていうお話。