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【試訳】独島イン・ザ・ハーグ【26】

紆余曲折がありましたが、ようやく裁判手続が始まります。

第8章

暫定措置

잠정조치 


独島訴訟に対する反対世論の炎はますます強さを増していた。

野党はコンプロミーの締結と批准の過程で政府が国会の同意を得なかったと言って、憲法裁判所に権限争議審判請求をした。

政府内部で反対世論の火消しの方法を模索していた中、ソン・チーム長がどこから聞きつけたのか、暫定措置裁判をしようと突然提案してきた。

暫定措置は、国内訴訟で言えば仮処分のようなものだ。

裁判が終わるまで現在の状況を放置した場合、取り返しのつかない損害が発生する恐れのある場合に、裁判所は暫定的に必要な措置を命令す ることができる。

「自衛隊(※1)を独島から直ぐに撤収させる暫定措置を手に入れれば、大きな成果になるではありませんか。反対世論も静まり、国際訴訟 の経験のない我々にとっては模擬試験を受ける効果もあります」  

※1 自衛隊・・・原文では「日本軍」ですが、これまでの文脈に従い「自衛隊」としました。

コンプロミーを締結した際、自衛隊の撤退を条件に掲げたものの空手形に終わったソン・チーム長が、自分の失敗を挽回するために案を出したわけだ。

だが、チーム・メンバーはおおかた反対した。

まずウンソンが意見を述べた。

「ここにいる人は皆、時間さえ充分にあれば、暫定措置を申請してでも1日も早く自衛隊を追い出したいと思っています。

ですが、 暫定措置裁判をするには、そのためだけの時間が追加でかかります。ハーグにも行ってこなければなければなりません。

ただでさえ本裁判の準備の時間が不足している中、暫定措置にまで時間を奪われれば、本裁判の準備に支障が生じる可能性があります。

更に、暫定措置裁判の争点は独島の領有権ではなく、今現在の状態が維持されれば回復不可能な損害が発生するかどうかです。

つまり、本裁判で我々が熾烈に立証しなければならない争点とはかけ離れたものだということです。

本裁判の準備にも時間が足りず忙殺されている状況で暫定措置裁判を行うのは、実益がなく、貴重な時間だけを浪費することになります」

ぺ次席も反対意見を述べた。

「もし暫定措置裁判で負ければ、訴訟反対の世論が今よりずっと強くなり、我々が本裁判を行うことができなくなるかもしれません。

逆に、我々が暫定措置裁判で勝ったとしても、本裁判で負けてしまえば、暫定措置裁判の後に力を抜いて本裁判で負けたと非難されることになります」

何名かの反対意見が続いたが、ソン・チーム長は結局暫定措置を押し通した。

突然の暫定措置決定で、実務チーム・メンバーたちは、1ヶ月間、オフィスでうつらうつらしながら準備をしなければならなくなった。

ついに訴訟チームは、海上自衛隊の独島沖からの撤退を求める内容の暫定措置申請書をICJ事務局に提出した。

ICJは暫定措置裁判の弁論期日を指定し、それから1ヶ月以内に全ての関連資料を提出するようにとの命令を両国政府に通報した。

次の訴訟戦略会議では、韓国籍の臨時裁判官の選定を議論した。

ICJ裁判官は全員で15名だ。慣行では大陸別の割り当て人数があ り、アフリカ3名、ラテンアメリカ2名、アジア3名、西欧等が5名、東欧が2名となっている。

国連安保理常任理事国(※2)であるアメリカ、イギ リス、フランス、ロシア、中国は継続的に裁判官を輩出しており、ICJに最も多くの拠出金を出している日本も、短期間を除いて継続的に自国籍の裁判官を置いている。

※2 常任理事国・・・第3章「四月の歌」冒頭で、日本が安保理常任理事国になったという記述がありましたが、ここから先は、日本は非常任理事国として描かれます。

韓国がICJに裁判官を出そうと思えば、アジアの割り当て人数の3名のうち、中国と日本を除いた残り一つの座を占めなければならないが、そうなるとアジア内で韓国、中国、日本の東アジア3カ国が全体を絞めることになり、 中央アジア、東南アジア等の他のアジア諸国の反発を受けるのは目に見えていた。

日本人裁判官がICJにいる一方で、韓国人裁判官は おらず、この点では裁判が韓国にとって不利になる。

したがって、国際司法裁判所規程第31条は、裁判官のうち訴訟当事国の国籍を持つ人がいる場合、別の当事国が自国籍の裁判官を臨時裁判官(ad hoc judge)として選任し、裁判に参加させることができるようにしている。

アン課長がチーム員に対して、臨時裁判官の資格要件について説明した。

「臨時裁判官の要件は、正規裁判官と同じで、その国で最高の裁判官になる資格を持つ人物であったり、著名な国際法学者でなけれ ばなりません」

すかさずソン・チーム長が意見を述べた。

「パク・キヨン教授はどうだろうか。我々と一緒にセミナーにも参加しているし、お互いにうまくやっていけるのではないかと思うが。 国際法の分野でもかなりの権威ではないかい?」

パク教授は研究よりも政治的、社会的地位に関心のある、退官した大御所教授だった。

退官後はもちろんのこと、40歳で博士号をとってからは、研究の成果は事実上ほぼなかった。

幾つかの、論文というよりエッセイのような文章を学会誌に発表してはいた が、大部分が弟子たちが代わりに書いたものだった。

その代わり、人脈が広く政治力があった。

外交部幹部たちもよく知っており、 研究費を多く受け取っていたが、その成果物は対外秘だという理由で公開されなかった。

その代わり、メディアでは自分が多くの経験をしてきたと触れて回り、多くの人々はパク教授が独島問題で深い研究を長期間してきたのだと考えていたが、実は、外交部にはパク教授の研究報告書があまり残っていなかった。

訴訟実務チームが結成しセミナーを開いた際には、パク教授が講師として招かれたこともあったが、講義の内容は、学部一年生の国際法講義よりも基礎的で、随分と昔の理論がごちゃまぜになった内容が半分、もう半分は自慢話だった。

話が長く、一度口を開けば1人で2、3時間休むことなく話すせいで、なかなか会議が進まなかった。

ソン・ チーム長を通じて積極的に臨時裁判官になろうとしているところを見ると、パク教授は最初から臨時であってもICJ裁判官の肩書きを持ちたかったらしい。

韓国に一票を投じれば任務を完遂するのだから、それほど難しくないだろうと判断したようだ。

ウンソンが反対して言った。

「パク教授は難しいと思います。国際法の知識が充分でなく、他の裁判官を充分に説得するレベルでないと思います」

ぺ次席も反対した。

「臨時裁判官は評議過程に継続的に参加し、評議過程は1、2回の会議で終わるものではなく、判決文草案を作成する過程で継続的にコミュニケーションが発生する作業ですので、役割さえしっかりと担えばカウンセルよりも効果的に他の裁判官の説得に寄与できます。

ただ、パク教授はあまり英語が流暢ではありません。もちろん、簡単な会話やあらかじめ準備した挨拶を英語ですることはできるでしょうが、法理に関する討論が行われる際には、内容も複雑ですし、議論が白熱すれば、時に応じて互いの発言を遮ることもあります。

このような過程で相手の発言を全て聞き取りながら自分の主張をしっかりと展開しようと思えば、非常に高いレベルの英語力が必要となります。

臨時裁判官は必ずしも我が国の国籍を持っている必要はないので、外国の著名な国際法の教授や弁護士を臨時裁判官に選任するのが良いかと思います」

しかし、今回もソン・チーム長は自分の考えを押し通した。

「その何が大事なんだ? どのみち韓国籍の裁判官は『独島が我が国の領土』だと判決するのだから、誰を選んだって構うものか。

それに、独島裁判で臨時裁判官に外国人を起用すれば格好がつかない。一番一生懸命にやってくれるのは、やはり我が国の人間だろう」

今回はドハも意見を述べた。

「国際司法裁判所規程上、臨時裁判官は当事国の代理人、補佐人、あるいは弁護人資格で活動したことがない人物でなければならないと規定されています。

ですが、パク教授はすでに私たちの代表団のセミナーに参加しているので、資格要件を満たしていないかと」

だが、ソン・チーム長は最後までパク教授を押し通した。

「パク教授はセミナーに参加はしたが、公式の肩書もなく、何度も参加したわけでもない。

その上、外部にこの事実が知られること もないのだから、我々が黙っていれば問題となる可能性はないだろう? 

時間がたくさんあればゆっくりと適任者を選ぶこともできるだろうが、今は時間が差し迫っているじゃないか。

早いところ、パク教授を裁判官に決めて、少しでも多く、訴訟準備に没頭する時間を確保しないとな。

さあさあ、満場一致でパク教授を裁判官にすることにしようじゃないか」

【27】へつづく

【画像】まぽさま【AC】

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