見出し画像

【試訳】独島イン・ザ・ハーグ【20】

コンプロミーは、第三国である米国・ハワイで締結された。

ホテルの大会議室の内外では、国内外のメディアの記者が代表団の一挙手一投足をカメラに収めていた。

両国の代表団は、太極旗と日の丸が斜めに差さった長いテーブルの上に置かれた自分の名札の席に着いた。

パク・キデ外交部長官は、木村雅夫外相とテーブルを挟んで握手をした形で取材陣に向かってポーズを取った。

双方の代表が順番に立ち上がり、簡単に肩書と名前を紹介した後、パク長官がまず挨拶を行い、会議が始まった。

「昨今、韓日両国間において大変不幸な出来事が発生し、北東アジアのみならず全世界が憂慮しています。今日、この場が両国間の揉め事を解決し、世界平和に寄与する一助となることを願っております」

「これまで日韓関係を困難なものにしてきた竹島問題が公正な形で解決されることにより、今後の日韓関係が一層親密になるものと信じております」

両国代表は挨拶を終えると、取材陣が退室するのを黙って待った。会議の冒頭と最後だけが取材陣に公開されることで双方が合意していたためだ。

取材陣が退場するや否や、最初に砲門を開いたのは木村外相だった。

「概して、好ましからぬことは早く終わらせた方が良いものです。竹島訴訟を可及的速やかに開始し、早期に終結させることが、両国関係、ひいては北東アジアの平和に資すると考えます」

「日本の軍艦による独島侵略によって北東アジアの平和が壊されたのです。真に平和をお望みなら、裁判とは別に、一日も早く独島沖から軍艦を撤収して頂くべきです」

「撤収は不可能です。海上自衛隊が撤退すれば、貴国が裁判をしないと言い出すかもしれないではありませんか。それに、裁判をしたとて、日本が勝訴すれば、貴国が判決を不服として海上自衛隊の再進入を防ぐ可能性もあります」

「我が国のことを、約束を守らぬ国と貶めるのはやめて頂きたく存じます」

「ならば、裁判と海上自衛隊の撤収を結びつけるのはやめて頂きたく存じます」

「とにかく、貴国の要求どおり裁判に同意したではありませんか。我が国が先に譲歩をしたのですから、 貴国も譲歩をするのが筋と言うものでしょう」

木村外相は呆れたと言わんばかりに笑った。

「貴国が譲歩を? これまで我々が何度も裁判を提案しては無視してきたというのに、海上自衛隊に竹島を包囲されて、致し方なく裁判に同意されたのではありませんか。

貴国が勝訴すれば、我が国は、たとえ貴国が『どうぞもう少し竹島に残ってください』と言ったとしても、自発的に退却しますよ。ですので、我々の艦の早期撤退を求めるのであれば、迅速に裁判を終わらせれば済む話です。

もしやそうおっしゃるのは、裁判で勝つ自信がおありでないからですか?」

「貴国に銃を向けられている状況で、我々がまともに裁判できるとおっしゃるつもりですか?

貴国が銃を向けていること、それ自体が、自信のなさの表れではないかと。『武力ではなく法廷で問題を解決しよう』と提案する側が、なぜ公判中ずっと我々に銃を向けるおつもりなのですか?」

「これまで六十年の間、貴国が竹島にて様々な挑発をし日本人を刺激してきたにもかかわらず、我が国政府は国民をなだめ落ち着かせつつ、ただぐっとこらえてきたのです。対する貴国は、訴訟が終わるまでさえも我慢できないと? 道理に合わないのは貴国の方ではありませんか。

貴国は勝訴する自信がおありなので、訴訟期間が短ければ短いほどより早く海上自衛隊を追い出せるでしょう。

それなら、訴訟の締め切りをいつにしましょうか? 我々としては、来月でも構いませんよ」

「もし貴国が撤退していただけるのであれば、訴訟を年末までに終わらせる所存です」

木村外相はにやりと笑って、首を左右に振った。

日本側も、ソン・チーム長が韓国メディアに対して年末までに訴訟を終わらせると豪語した事実を知っていた。

つまり、自分たちがわざわざ海上自衛隊を撤収せずとも、韓国側が訴訟を年末までに終わらねばならない立場にあることを十分承知しているわけだ。

結局、韓国は日本から艦隊の早期撤収の約束を得られないまま、コンプロミーの締結に合意してしまった。訴訟期限も年末と定められた。

外相同士が大きな争点を決定した後、ソン・チーム長と山座条約局長が詳細事項について議論に入った。

山座局長は、簡潔ながらも説得力のある弁論で議論をリードした。彼が様々な争点について提示した多様な根拠と代案に対し、韓国側はただ首肯せざるを得なかった。

その反面、基本的な内容さえも充分に熟知していないソン・チーム長は、再三再四、的外れな回答をしたのだった。

再び取材陣が入室し、カメラのフラッシュが光る中、パク長官と木村外相が次のようなコンプロミーの正本に署名をし終えた。

数日後、イ・スンチョル駐蘭大使が、駐蘭日本大使とともに直接ICJへ赴き、事務局長に共同でコンプロミーを提出した。

これにより、独島訴訟が法的に開始したのであった。

***

大韓民国と日本国間の独島/竹島領土紛争解決のための特別協定

大韓民国政府と日本国政府は、独島/竹島領土紛争の解決のため、当問題を国際司法裁判所に提訴することとし、以下の通り合意した。

第一条 合意  
両国は、上記紛争を国際司法裁判所規程第三十六条第一項に従い、国際司法裁判所に提訴することに合意した。

第二条 裁判対象
国際司法裁判所は、独島/竹島が大韓民国と日本国のうち、いずれの国の領土主権に属するかを決定する。

第三条 名称
特別協定で使用される「独島」と「竹島」または「竹島」と「独島」の名称の順序は、判決にいかなる影響も及ぼさない。

第四条 手続
一. 訴訟手続は書面手続と口述弁論手続から成る。
二. 書面手続に必要な書類は、コンプロミー提出後六箇月以内に国際司法裁判所事務局長に提出しなければならない。
三. 口述弁論手続きでの陳述順序は、両国間の合意により決定する。但し、その順序は立証責任に影響を与えない。
四. 判決宣告は口述弁論の終了後一箇月以内に為される。

第五条 判断根拠
国際司法裁判所は、国際司法裁判所規程第三十八条第一項に従い、国際条約、国際慣習法、文明国が認めた法の一般原則、司法判決、最も優秀な国際司法学者の学説等により本案件を裁判する。

第六条 異議の禁止
両国は、国際司法裁判所の判決に異議を提起せず、忠実に従うことに合意する。

第七条 効力
一. 本特別協定は批准文書の交換時に即時効力を発する。
二. 両国は国際連合憲章第一〇二号に従い、本特別協定を国際連合事務局に登録する。

以上の証拠として、両国代表はハワイにおいて署名する。

大韓民国代表           日本国代表
外交部長官            外務大臣
朴基大(パク・キデ)       木村雅夫


【21】へつづく

【画像】Gerd Altmannさま【Pixabay】