【試訳】独島イン・ザ・ハーグ【29】

「ウンソン、何か言ってよ。このままじゃ韓国に帰れないわ」

ウンソンは、どうしたものかと困った表情をしていた。

裁判長が弁論を終えるために言った。

「それではこれにて弁論手続きを終了し、評議に移ります」

「少し待ってください」

ウンソンはそう言うと、席から立ち上がり、ジャケットの裾を整えて裁判官の前へと進むと、「果たして俺はうまくやれるだろう か?」という目つきでドハの方を振り返った。

ドハはウンソンに向かって頷いてみせた。

「落ち葉が散る季節に人々が心配するのは、既にやってきた秋ではなく、すぐそこに迫っている寒い冬のほうです。

20世紀初頭、日本は日露戦争を起こすために独島を編入し、それから5年も経たずして韓国全体を侵奪しました。

続いて東アジア全体が戦争の狂風に巻き込まれたのです。

日本の艦隊が今回独島を占領したのを見ている韓国を始めとする東アジア諸国の心情とは、まさに落ち葉が散るのを見て冬の到来を心配する心情のことです。

日本が軍艦で独島を強制的に占領したことだけでも衝撃ですが、その後ろに潜むより大きな野望が我が国の国民と東アジア諸国を不安にし、憤らせているのです。

今しがたアン課長が申し上げた不安感を、日本の代表は単なる精神的損害だとけなしましたが、それは日本が独島だけでなく、朝鮮半島全体を、他のアジア諸国を侵奪する危険性を指摘したものです。

国を根こそぎ奪われることよりも大きな取り返しのつかない損害がどこにあるというのでしょうか?」

その時、山座局長がウンソンの言葉を遮って割り込んだ。

「ご列席の裁判官の皆様、韓国側はあたかも日本が韓国全体を侵攻するかのように話しています。しかし、これは何の根拠もない主張です。

韓国側がこのような主張をするのは日本の国家としての品格とイメージを毀損し、裁判官の皆様に否定的な先入観を植え付けようという卑劣な手段です」

「今、根拠を申し上げたばかりなのですが、根拠がないとおっしゃったので、私は日本代表が果たして私の弁論に耳を傾けているのかと問いたく存じます。

その根拠とは、日本がわずか100年余り前に独島を編入し、続いて韓国全体を侵奪し、中国、ロシア等と戦争を起こし、東南アジア諸国を侵略したという歴史的事実です。

歴史は繰り返すものですので、未来の出来事に対する証拠として過去の歴史 ほど強い証明はありません。それも、わずか100年余り前の歴史です。

ドイツがポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が始まりまし た。万が一今日ドイツが再びポーランドに侵攻すれば、フランスを始めとする他の国々がどれほどの脅威を感じるでしょうか?」

山座局長が再び席から立ち上がった。

「日本が韓国に異議を唱える領土はただ一つ、竹島でございます。日本は竹島を除いた朝鮮半島全体と鬱陵島、巨文島、済州島等その他すべての島について、ただの一度も韓国領ではないと主張したことはございません。

これからもそのすべての領土を韓国領と認め ます。サンフランシスコ条約からも、認めないわけにはいかないのです。

日本は憲法上他国を侵攻することもできず、侵攻の意思もあ りません。

しかし、他国が日本の領土を侵略してきた場合には、必要最小限の防衛をすることができ、またそうせねばなりません。

韓国がまず竹島に軍隊を派遣すると言い、我が国の海上自衛隊をこれを阻止するためにそれに対応する必要最小限の措置を取っただけです。

朝鮮半島に向かって艦砲一発、銃一発も撃ったことがなく、ただ竹島を包囲しただけなのです。

それを巡って日本が韓国全体に侵攻しようとしていると軽はずみに言うことは、ICJ裁判官の判断力を見くびった、いわゆるハリウッド・アクションに過ぎません。

韓国側は漠然とした内容の小説の執筆を止め、具体的にどのような取り返しのつかない損害が発生したのか、はっきりと明らかにするようお願いします」

「良いでしょう。より具体的な話を申し上げます。

海上自衛隊の独島侵入以後、韓国では株価が暴落し、外国投資が取り消され、既存の投資金まで外国人が持ち去り、経済全体がよろめいています。

メディアでは今年の経済成長率が昨年比で2パーセントも低下すると報じられています。

このような損害を取り返すことができるでしょうか?

警察の戦闘艦が独島周辺に来ているせいで、黄海で不法漁業をする中国漁船が大挙して韓国水域に入り操業をしています。

中国に奪われる魚を日本が全て我が国の海に移してくれるとでも言うのでしょうか?

北朝鮮に対する防御を担う我が国海軍戦力の大部分が独島周辺に集められているため、もし今北朝鮮が挑発して韓国の国民と領土に被害が発生すれば、日本がその被害を全て賠償してくれるのでしょうか?

裁判を受けるということ は、武力を使用せずに平和的に問題を解決しようという意味ではないのですか?

しかし、裁判をしようと言いながら相手に対していまだに銃口を向けているのは、訴訟で自分が勝てば判決に従い、万一自分が負ければ銃を撃つという意味ではないのでしょう か?」

「裁判官の皆様、今、竹島には日本の軍人がただの一人もいません。その代わり、竹島には韓国の武装した兵力が今この瞬間も銃と迫撃砲を携えて日本人を狙っているのです。

一体誰が誰に対して武力を使うなという言葉を言うべきなのか、裁判官の皆様に問いたく存 じます」

「裁判官の皆様、私も問いたく存じます。警察と軍人は同じでしょうか? せいぜい30人の警察と、一隻あたり150人が搭乗した最新鋭の軍艦12隻は同じでしょうか? 

独島にいる警察は日本を攻撃するためではなく、独島の治安のため、そして独島が我が国 領土だという象徴的な意味で派遣されているのです」

「M16小銃と迫撃砲で重武装し、5000トン級の武装船を配備した兵力が、普通の警察と言うのでしょうか? 韓国の警察はソウル市内でもM16小銃と迫撃砲を持ち歩いているのか、尋ねてみたいものです。

それから繰り返しになりますが、日本は韓国政府が竹島に軍隊を駐屯させると挑発をしたために、我々の領土保全のために最小限の措置をしているに過ぎないのです」

「日本側の主張を聞いてみると、日本の立場を十分に理解できるように思います。我々が軍隊を派遣しようとするから日本政府の立 場からはそれを防ぐしかなかったということなのでしょう。

そうであれば、我々は本国に要請して、直ちに独島への軍隊派遣の決定を取り消すようにしましょう。韓国側が軍隊派遣の決定を取り消せば、日本側も軍隊を派遣する理由がなくなるのではないでしょう か?」

山座局長の顔から初めて、余裕の笑みが消えた。

日本が独島を包囲している最大の大義名分は韓国が独島に軍隊を派遣すると言ったからだが、韓国がその決定を取り消せば、その大義名分がなくなるためだった。

しかし、山座局長は一瞬にして反論を作り上げ た。

「現在竹島にも韓国の武装した兵力が駐屯しており、その周辺を韓国海軍と警察が囲んでいます。このような状況で日本だけが軍を撤収させるのは公平ではありません。

公平とするためには、両国が全ての軍や警察及び軍事施設を撤収しなければなりません。

しかし、韓国が竹島に設置した軍事施設を全て除去するには多くの時間を要し、この裁判が終わる時までに終わらない可能性もありま す。

判決が出れば、韓国が勝とうと日本が勝とうと再び軍事施設を設置しなければならないのですが、これは両国に大きな非効率を もたらすことになるでしょう。

したがって、このまま訴訟が終わるまで双方が現状をすべてそのままにしていることが公平かつ効率的だと考えます」

「日本側は裁判の本質を勘違いしているように思えます。裁判は何がより効率的で非効率的かを決める場所ではありません。何がより正しいかを決める場所です」

「我々が効率性に言及したのは、韓国が敢えて非効率的な暫定措置を要求する意図が何かを再考しなければならない、という意味です。

ご列席の裁判官の皆様、これから本裁判まで残りわずかであり、その準備にも時間が足りない韓国がなぜ敢えて暫定措置まで申請したのでしょうか? 

この点、我々は韓国の底意を疑わずにはいられません。

韓国の意図は専ら一度日本の艦隊を竹島から撤収させようということではないでしょうか?すなわち、本裁判の結果には関心がないということではないでしょうか? 

つまり、日本が本裁判で勝ったとしても、竹島を不法占拠し続けようということではないでしょうか? 

実に60年以上も韓国が竹島を不法占拠してきたという事実を考慮すれば、これは行き過ぎた憶測というわけでもございません」

「日本はこの法廷で、今この期に及んでも海上自衛隊を派遣した理由が韓国の軍隊派遣の決定のためだと話しています。

しかし、韓国が軍隊派遣決定を取り消そうと言っても、頑なに海上自衛隊を撤収しないと言います。一体誰の底意が疑わしいと言うのでしょうか?」

山座局長が反論しようとした時、裁判長が間に入って締めくくりに入った。

「時間となりました。双方の弁論は充分に聞きました。宣告は3日後、この場所で行います」

その時、山座局長が、席を離れた裁判官たちを突然呼び止めた。

「ご列席の裁判官の皆様、大変申し訳ございませんが、手続進行と関連して非常に重大な問題がございます」

突発的な事態に法廷が騒がしくなった。

「一体どのような問題なのでしょうか?」

「私は、今この場で韓国籍のパク・キヨン臨時裁判官の資格に対する問題を指摘しなければならなくなったことを非常に遺憾に思います。

韓国側の臨時裁判官であるパク裁判官は、選任直前に韓国の訴訟チームに国際法を指導した事実がございます。

これは『裁判官は一方の当事者の代理人、補佐人あるいは弁護人等の資格で事前に関与したことがあってはならない』という国際司法裁判所規程第17条に反するものです。これに関する証拠を提出したく存じます」

山座局長の発言に、ドハの胸がぎくりとした。

これまで臨時裁判官の資格が問題になったことはほとんどなかったため、裁判官たちも互いに顔を見合わせて驚いた。

裁判官席に座っていたパク裁判官の顔も青くなった。

裁判長が言った。

「もしパク・キヨン裁判官にそのような問題があれば、暫定措置の裁判結果よりも優先して判断しなければなりません。

我々は暫定措置の要否を判断するのに先立ち、まずパク裁判官の資格について協議し決定します。決定は明日宣告します」

【30】へつづく

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