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移動とその先の体験をデザインする。モバイルチケット【第二回】 ブランドの設計

こんにちは、ジョルダン「乗換案内」です。

今回は、乗換案内アプリが乗車券になる?! 「ジョルダンモバイルチケット」についてご紹介。こだわりの機能や制作の裏話を数回に分けてお届けします。2回目は、ブランドの設計についてお話したいと思います。

書いた人:マーケティング部 納庄俊匡
モバイルチケットのブランド設計・デザインなどを担当しています。


ブランドとは?

まず、2回目を語っていくにあたって、お断りすることがあります。「長い」です。なるべくいろんな方に分かりやすく、平滑に語っていくと、どうしても文章量が多くなってしまいます。とはいえ、ビジネスでけっこう大事な観点・視点、ためになる解説もたくさん入れたつもりです。挫折せずに読んでもらえれば、とても嬉しいです。夏休みの読書気分で。

…いきなり大きな問いから初めてみましたが、「ブランド」ってなんでしょう? みなさんが感じていること、語れること、千差万別。いろいろあるかと思います。とはいえ「ブランド」はマーケティング用語ですので、商業活動の文脈から語るのことが、間違いないのかなと思います。

ブランドの定義としては、個人的にInterbrandっていう世界最大のブランドディングファームが提唱しているものが、しっくりくるかなと思います。

※引用元のコラムは、読みごたえがあるので、ぜひオリジナルに触れてみてください。

商品やサービスを売っていく、広めていくには「ブランドの設計」が大事です。設計とは、目的を具現化するために考えて、計画すること。「ジョルダン モバイルチケット」の例でいうと(目的=チケットを売って、お客さんに買ってもらう)方法を考えて表すこと。です。

目的である「買ってもらう」を実現するためには、いろいろ趣向を凝らさなくてはいけません。また、いろんなやり方があるのも事実です。そこで設計が大事になってきます。なんでも売れればいい。では売れません。そうでなく(商品を)どう見せて = 売って、(お客さんに)どう買って = どうなって、ほしいのか。プロジェクトが考えている・想っている方向に近い形で具体化していく。外からみて、お客さんにどう認識させて、理解してもらい、行動してもらうのか。会社やプロジェクトに関わるスタッフは腐心する必要があります。

バナナをブランディングしていくと…


作ったら、売れる。
のが一番ラクなんですが(ブルーオーシャンといいます)、世の中そうは甘くありません。なぜなら似たような商品 = サービスを展開している競合企業がいっぱいあるからです。市場のなかで私たちの商品を選んでもらわないといけない。なので各社いろいろ頑張ってブランドの設計をやっていくことになります。

商売をしている以上、ブランドについて考えることは、とっても大事です。そして真理・正解はありません。自分たちの身の回りにある環境(マーケット)を意識しながら、よりうまく行く方法を考え実行していくのです。


だいたいブランドはすでにある。どう味付けするかがキモ。

どう認識させて、どうサービスとして売っていくか…

さて、ジョルダン発の【デジタルチケット】サービスについて、最適なブランドの設計とは何かを考えていきましょう。まず前提として、乗換案内アプリの中で展開するサービスであることに注目します。乗換案内というサービスが既にあって、すでにかなりの数のお客さんに認知されています。30年以上の歴史があって、いろいろ苦心してユーザを獲得してきました。…と、いうことは。もう(熟成された、なかなか良い感じ?)のブランドが存在しているのですね。

実は、こういったケースは多いのです。まったく新しいサービスって、世の中にはなかなかありません。既存のサービスの拡張だったり、リニューアルだったり。いまある延長上で展開されるのが普通です。だから、ホルダー(持ってる人、使ってる人、関わっている人)が離れないように、「???」となるべく思わなれないように、上手に伝えていく必要があるわけです。思い切った改革をして、もはや別物。と思われるリニューアルをしたため、既存の顧客が離れてしまった。よくある話です。

企業の戦略として、市場を開拓するためにホルダーを構築しなおす!くらいの英断があれば仕方ないのですが、そうでなければ、ホルダーを手放すのはもったいない。

乗換案内はサービスの歴史も長いので、改革はしないほうが懸命です。さらに、新しいアプリを開発する時間やリソースも十分に割けない(新規プロジェクトで販売実績や売上見込がない)現状もありました。さらに、乗換案内のアプリと連携するサービスであることが求められています。

結果、モバイルチケットのサービスは、今ある乗換案内の土台に(乗せる)感じで、サービスのブランドを増築していくことにしました。これを【2階建車両方式】と個人的に呼ぶことにします(笑)。

2階建車両の成り立ちは…【乗客を増やしたい車両を増やそうホームの幅決まってる客車を縦に2倍にすればいけるさらに見晴らしがよくて楽しい】

みたいな発想で誕生しました。制約や条件、環境を加味していき、サービスを設計していくと、答えが定まってきます。


サービス名(ブランド名)を考える。

前提条件の確認や設計方針を決めたら、2階部分をどう作るのか、どう味付けをしていくかを考えましょう。

まずはこれから売っていく【サービス名称の決定】です。ブランド創出には、ブランド名が大事です。何かをプロジェクトとしてやるために、名前をつけましょう。

「呼称がなく、何やってるのかわからない」というのが、いちばんダメ(ですが、社内とかでけっこう見かけませんか?)表明しないと、物事を始めることはできません。生まれてきた子供も、名前がないと社会で生きていけません。社会活動をするなら、なんでも命名するクセをつけると良いです。名前ひとつでプロジェクトが動いた。なんてザラにあります。命名、だいじ。

というわけで、いろいろ考えた結果、「ジョルダン モバイルチケット」になりました。ここまでの過程で、3C分析(自社・市場顧客・競合)やペルソナを構築して、接点やヒントを得て開発していくのが基本です。※3C分析やペルソナは、話すとさらに長くなるので、調べてみてください。

サービス名は、こう考えた

実はモバイルチケットの場合は、あんまり3C分析やペルソナに傾倒していません。ほぼ思いつきで命名しました。思いつきといっても、さまざまな外的要因や指向性を考えた上で、決めています。ずっとサービスのことを考え続けていると、意外にぱっと出るもんで、出ない方は、思慮の深さが足りないのかもしれません。経験の足りなさもあると思います。命名理由は画像をご覧ください。ここで重要なのは(簡単に、わかりやすいネーミング)を心がけること。シンプルで理解の早いワードで構築されたブランド名は、吹聴コストがかからず、運用しやすい利点があります。


サービスの戦略を設計する。

では、このモバイルチケット(=電子乗車券)をどう売って行くかを考えましょう。サービスの戦略です。まず基本として、事業者がもっている乗車券を電子乗車券にしてデジタル化。【代売=代わりに売ること】でお客さんに売っていきます。ゆくゆくは、新しい乗車券を企画造成して、新商品として売ることも視野に入れることにしました(なぜか戦略実施において逆転がおきたのですが、またの機会にお話しします)

自動販売機モデル


で、このサービスは【プラットフォーム事業】として戦略を立てていくのが良いと考えました。自動販売機をイメージすると、分かりやすいです。自販機の機器をジョルダンが担い、いろんな事業者の商品を並べて売る。売上は販売手数料として事業者から徴収する。そうすれば、全国の商品を売れるし、なにより全国レベルで展開している乗換案内のネットワークが十分に活用できる(販売網にもなる)。

とはいえ、プラットフォーム事業は、運営知識が必要だったり、設備の初期投資にコストがかかるなど、大変な要素もたくさんあります。幸い、ウチの場合はITサービスでの運営知識はあって、自前の機器も必要なし。開発は自社でできる。どちらも賄える環境にあったので、その資産を活かすことができました。また、手数料ビジネスになるので、薄利多売は避けられません。よって、ブランドの設計は、とても重要なポイントになってきます。無形サービスなら、なおさらです。


ブランドのコンテクストを設計する。

次に、想定されるユーザーにブランドを認知、サービスも理解してもらうための【コンテクスト=文脈】を考える必要があります。サービスを使ってもらうにあたり、求める知識や経験が、企業とユーザーでは差があるためです。差が埋まって「あ、そういうことか」「なら使ってみようかな」とならないと、モノは売れません。差分をみつけて、対策していきます。

まず我々の目指すサービス、モバイルチケットは電子乗車券を販売していきます。そうすると、ユーザーは「電子乗車券って何?」ってなるはずです。世間で、まだまだ電子乗車券の認知は低いのです。SuicaICOCAなどのICカードも電子乗車券の類いで、そちらは超有名。知らない人はいないでしょう。ただICカードは有形の乗車券であって、無形の電子乗車券とは異なります。また、普及している場所も限られており、全国でかなり偏りがあります。そこでデザインの力を借りて、認識の差を埋められないかと考えました。

イタリアの乗車券
東京臨海新交通臨海線「ゆりかもめ」の乗車券

これは、イタリアの列車の古い乗車券です。鉄道の紙の乗車券の歴史は古く、1800年代初頭、イギリスの蒸気機関車の乗車券として使われたのが最初で、基本的な見た目や形式は、いまでもほぼ変わりありません。知らない人も、たぶんいませんよね。そこで、電子乗車券の券面も、紙に似たようなフォーマットで表示することを考えました。そうすれば、スマホの画面に入っていますが、形式が似ているので「乗車券だな」とお客さんに認識させることが容易になるはず。文脈の差、知識の差も縮まります。

日本の乗車券の例。モノグラムの台紙に、日付や使用期限が印刷されています。全国でだいたいフォーマットは同じなので、これに沿ったモノであれば「チケットかな」と思ってもらえるはず。

デジタル券面の開発

モバイルチケットの乗車券画面(例)です。紙の乗車券っぽいフォーマットにすることで、「紙をデジタルに置き換えたサービスなんだな」と思ってもらえるようにしています。紙の持つ乗車券の【特別感】っていうも、重要視しています。限定の乗車券とか、記念に保管しているユーザーも、いますよね。デジタルだからって、必要情報だけ表示させてればいいや。という考えもありますが、使うのは人間。感情に訴える要素をくみ取ってデザインすることが、コンテクストデザインの要であり、それが実装されていないサービスは、奮わない。けっこう大切だと考えています。

現段階では使った電子乗車券は、MYフォルダにストックされるだけですが、集めたり、コレクションできたり、自慢できたり。使用済みだけどモノとしての価値が生まれるような仕掛け【物語】も考えていければいいなと思っています。


ブランドの価値を視覚化する。

プラットフォームビジネスを始めるためには、商品を事業者から提供してもらう必要があります。先ほどの自動販売機でいうと、飲料を提供してもらわないと、商売できませんよね。飲料にあたる部分が、事業者の持っている乗車券です。なので、いかに事業者に「売ってみようかな」と思ってもらって、参加してもらわないといけません。

モバイルチケットでとった方法は【オリジナルを尊重すること】。自動販売機に並ぶ飲料は、ボトル形状、ロゴ、パッケージなど、視覚的に趣向を凝らして、莫大なリソースを費やして開発しています。試飲できない以上、見た目で勝負していく必要があるわけです。それに習って、乗車券もオリジナリティを高める工夫をしています。具体的には、商品ごとにマークをわざわざ作って、プラットフォーム内での差別が容易にできるようにデザインしました。

ENJOYとよたパス の例(販売は終了しています)


また、写真をたくさん使って、乗車券で行ける場所、乗れる乗り物、沿線の特徴などを楽しく伝える仕組みも取り入れました。

よーくみてくださいね

よーく観察すると、同じ乗車券というジャンルで、差別化されているのがわかると思います。飲料でいえば、コーラというジャンルがあって、そのなかでいろいろな フレーバーがある。そんなイメージです。

視覚的にわかりやすく楽しいと、ユーザーに手に取ってもらいやすくなりますし、商品を提供する事業者にとっても、「こんなにやってもらえるの?!」「じゃあ売ってもらおうかな」となりやすい。ただ、ウチにとっては個々にデザインしないといけないし…大変な戦術です。しかし市場をみると、ここまでやっている競合はいなかった。なのでやる価値がある。と判断しています。

コンテンツ産業だとありえない話ですが、デジタル乗車券販売の市場においては、あまり求められてこななかったんですね(アナログでは、企画乗車券とかは脈々とデザインされた切符があります)。ただ、我々はプラットフォームビジネスとして、戦略上どんな切符も扱えるようにしておく必要があり、電子乗車券を普及させるため(そうすればシェアが上がって、売上が伸びます)、乗車券に高付加要素を足せる設計にしました。「将来を見据えて、良し!」と考えています。

ステッカーもつくったりして、事業者にプレゼントしたり

このように、「ブランドの設計」は、多種多様な要素をまとめあげて、表現していくことになります。構築していった要素すべてが連携して、ひとつのブランドと認知されていきます。地道な積み重ねが、結果を産むもの。(こうやったから、こう!)みたいにはうまくいきません。

総和として醸成されるもので、継続的な運営、改善改良といった維持管理もブランドを成功に導くためには重要です。そのためには、まず土台の基礎設計に腐心するのが、とっても大事。知恵と工夫を総動員して、取り組むことが、ブランドの価値を決めていきます。


…そんな感じで、第2回目はブランドの設計についてお話してみました。とはいえ、ブランドの設計はまだまだやることがあって、コミュニケーション設計UX設計プロダクトデザインUI設計など、たくさんクリアするハードルがあります。次回は、そのあたりをお話していこうかなと思います。


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