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アメリカ文学初のSF小説について調べてみたら、意外と面白かった件

 どうも初めまして。上地王植琉ジョージ・オーウェルと申します。
 ……ええ、読みにくい名前で大変申し訳ありません。おそらく初見で読める人いないと思います。でもオーウェルいっぱいちゅき。
 とまあ、それはさておき、普段は小説を書いたり、YouTubeの動画を作成したり、最近では以前からのスチームパンク好きが高じて(?)、『私訳古典シリーズ』と称して、未邦訳の古典SF小説(19世紀末と言えば、ちょうどH.G.ウェルズなどが活躍していた時期です。当時はSFではなく『科学ロマンス』などと呼ばれていました)や侵略文学などをしこしこ訳したりしている者です。
 今回は第12弾の『大草原の蒸気男(The Huge Hunter; Or, The Steam Man of the Prairies)』に関連して、最近調べたアメリカSF文学の起源について、備忘録的にまとめたりしてみようと思います。


ちなみに、これです。うーん、これはスチームパンク…♥︎

20世紀は「アメリカSF」の世紀

 前提として、かつてアメリカはSF大国でした(今もそれは変わらないかもしれませんが、以前に比べて圧倒的な存在感はないような気がします)
 1940年代には、これまで荒唐無稽な三文小説として読み捨てられていたSFが次第に市民権を経て、「黄金時代(Golden Age)」と呼ばれる全盛期を迎えるまでになりました。
 また、50年代から70年代にかけて活躍し、『SF御三家ビッグ・スリー』と呼ばれたアイザック・アシモフ、ロバート・A・ハインライン、アーサー・C・クラークといった大御所たちが登場し、米ソ冷戦の煽りもあって、その想像力の翼をどしどし広げていきました。
 たとえば、1977年に公開され、世界的なSFブームを引き起こした『惑星大戦争』……(ああ、失礼、ジョージ・ルーカスが却下して『スター・ウォーズ』になったのでした!)
 現在、エピソード6までが公開されている『スター・ウォーズ・シリーズ』(エピソード7~9? そんなものはなかった)が大ヒットとなった背景にも、このような流れがあったのでした。

 では、そもそも、どのような過程を経て、新興国アメリカでSFが発達してきたのでしょうか。
 その歴史的な背景は、19世紀の西部開拓時代に遡ります。

ダイム・ノベルの登場

 いつの時代も人々は娯楽を求めます。それは西部開拓が始まり、広大なアメリカ大陸を開拓しようと、日夜、西に向かって開拓地を広げていたアメリカ人たちも変わりませんでした。

 そんな中、人々の限りある娯楽の一つが、「ダイム・ノベル」と呼ばれる大衆小説でした。

初期のダイム・ノベルの表紙(『蒸気男』の作者でもあるエドワード・S・エリス著『セス・ジョーンズ:あるいはフロンティアの囚われ人(Seth Jones, or the Captives of the Frontier)』。かの有名なリンカーン大統領のお気に入りの一冊だったとか)

 これは1830年代から40年代に新聞連載で発表されていた小説群を、まとめた小説雑誌として始まりました。当初はそれなりに高価だったものの、次第に安価でボリュームのある読み物として広がるようになり、1860年にニューヨークのビードル社から『ビードルズ・ダイム・ノベル』という、たった10セント(現在だと、まあ1~2000円ぐらいですかね)で読むことができる小説シリーズを刊行して、これが大ヒットし、「ダイム・ノベル(10セント小説)」の名前が世に知られるようになります。

 まあ、今でいうところの「ライトノベル」のような位置づけでしょうか。主要なターゲット層は10代から20代あたりの若年層でした。

人気を博した「エジソンもの」

 コメディ、復讐劇、西部劇、ロマンス、探偵ものなど、様々なジャンルの小説が書かれましたが、ダイム・ノベルの中でとくに人気を博したのが、『エジソンもの(Edisonade)』と呼ばれるジャンルでした。

 これは、発明王トーマス・エジソンに由来する造語で、少年・・発明家が発明した機械を用いて、未開の土地へ大冒険に出たり、日常生活のちょっとした事件を解決したり、逆に事件を引き起こしたりするといった内容になりました。
 発明家は発明家でも、この「少年」というのがミソになります。読者と年齢の近い少年たちが次々の新しいものを発明して冒険するという流れは、当時の少年たちの心をぐっと鷲掴みにして放しませんでした。

 今回取り上げる『蒸気男』の主人公も、15歳の少年発明家ジョニー・ブレナード君です。

天才少年発明家ブレナード君。せむしながら、町のみんなに好かれる人気者

 このジャンルが流行した背景には、当時、アメリカ人が抱えていた「明白な運命(Manifest Destiny)」の意識と、西部開拓が進んでいく中で、次々と新たな発明品が生み出されていったことがあります。
 まさにアメリカン・スピリットの体現と言えるでしょう。日進月歩で鉄道が引かれ、荒野が開拓され、町と人が増えて、加速度的に発展していくアメリカ大陸に、若い読者たちは希望を夢見ていたのでした。

著作権などおかまいなしな風潮

 そんな中で、「エジソンもの」の先駆けとして『大草原の蒸気男』は1868年に書かれ、拍手喝采を受けて大・大・大ヒットします。

普通ならば、一回出されて読み捨てられて終わりだが、なんと1904年までに版を変えて6度も刷られるほどのヒットだったそう。

 ヒット作が出れば、当然それにあやかろうとする者が出てきます。
 10年後の1876年には、ボーイズ・オブ・ニューヨーク誌に『大原の蒸気男(The Steam Man of the Plains)』という、そのままパクリの作品が登場。皮肉なことに、こちらも同じように大ヒットをかましたのでした。

蒸気ロボットいいよね……。

 展開は若干違うものの、舞台が「プレーリー」からお隣の「プレーンズ」に移っただけというね……。
 そんで、『大平原』の主人公は、フランク・リード少年だったのですが、その息子のフランク・リード・ジュニアが二代目として活躍するなど、シリーズは続いていきます。この『フランク・リード・ライブラリー』は、19世紀末の大量生産の流れでさらに発展して、1891年から98年の十年間で191作品も出版されたそう……。いや、いくらなんでも出し過ぎでは……。

この蒸気式人力車だけでなく、潜水艦からヘリコプター、空中軍艦などなんでも作ってやれな風潮

 ちなみに同時期には『トム・スウィフト』、『ジャック・ライト』など、続々と天才少年発明家が活躍するシリーズが登場し、どちらも人気になったのでした。残念ながら、日本未邦訳。

実際に発明されていた蒸気式人力車!

 そんなわけで、アメリカ最古のSF小説に登場するガジェットは、大砲でも潜水艦でもなく、じつにアメリカらしい「蒸気男」という「蒸気式人力車」だったわけですが、調べてみると、このアイディアのもとは実際の発明品から来ていたようです。
(以下、こちらのサイトから引用します)


◎ザドック・デディリックの「スティームマン」(1867年−)
「大草原の蒸気人間」が発表される前年1867年にニュージャージーの発明家ザドック・デディリック(Zadoc Dederick)がアイザック・グラスと共に「スティームマン」という蒸気機関で歩行するロボットを作製、1868年3月に特許を取得。

エリスさんもニュージャージーに在住していましたのでこの本物の「蒸気人間」が作品の発想の元になったのは間違いありません。
蒸気機関をビルドインしたスティームマンは身長は2m36cm、重量は227kg、3馬力のパワーがあったそうですが実際にどれくらいの速度が出せたかは不明。

◎イーノ&ワイナンズの「スティームキング」(1868年?−)

実は非常に謎の多い蒸気ロボットです。
デディリックさんの「スティームマン」とほぼ同時期、そして同じくニュージャージー州ニューアークで製造されたと言われています。身長は約2m。その他のスペックは不明です。

…etc.


 この他にも、様々な「蒸気男」が開発されていたことを見るに、当時の「乗り物」の形態として、このような蒸気人力車型は、「あり」だったのかもしれません。

 ちなみに、『大草原の蒸気男』の作者は続編を書きませんでしたが、『フランク・リード・ライブラリー』シリーズでは、改良型の「蒸気男第二号」として「蒸気馬(Steam horse)」が登場します。

『銀河鉄道999』の機械伯爵の馬を思い出します
松本零士氏も元ネタを知っていた可能性が微レ存?

 そんなわけで、西部開拓時代に流行した「エジソンもの」ですが、西部開拓が終わり、外国が近くになっていく中で、次第に読者の関心は宇宙に向けられることになるのです。
 ……とまあ、これはまた別のお話。今回はここまでです。ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
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 ……蒸気式人力車が普及したスチームパンク・アメリカな世界も見てみたいかもしれない。今度、小説で使おーっと。


以下、宣伝

(こんなスチパン小説も書いてます。もしよければ……)


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