JOPIAC インド芸術文化推進機構

インドを中心とする南アジアの時事問題や芸術文化に関する記事を公開しています。 ウェブサイト:https://www.jopiac.com

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最近の記事

バングラデシュ政変と植民地支配

2024年8月5日の報道によると、バングラデシュで20年以上に渡って首相を務めたシェイク・ハシナ氏がインドに国外脱出した。報道各社の論調では、1ヶ月前に公務員採用枠の割り当て制度をめぐる抗議デモの発生に原因があるとされているが、イギリスの植民統治に遡る歴史的視点はみられない。そこで本稿は、イギリス統治下で導入された民主主義がナショナリズムによって歪められたことを明らかにする。 インド亜大陸は1849年にイギリス東インド会社の統治下に入り、1858年のインド大反乱を契機にイン

    • カシミール州の自治権剥奪で思うこと

      インド最高裁判所は2023年12月11日付けでインド政府が2019年に公布したジャンムー・カシミール州の自治権を剥奪する大統領令を支持する判断を下した。カシミール紛争の舞台として知られる同州の歴史において、今回の最高裁の決定はどうのような意味を持っているのだろうか。その問いに答えるために、本稿はインドの言語州統治の限界が表れていることを明らかにする。 まず、英領植民地時代までのカシミール地方の状況について述べておこう。カシミール地方は1752年以降はアフガン帝国が支配してい

      • Bihar Business Connect 2023に参加しました!

        2023年11月24日(金)に大阪市の帝国ホテルでBihar Business Connect 2023が開催されました。北インドに位置するビハール州の政府関係者が大阪を訪れ、日本側からはインド進出を模索している企業が参加しました。 まず驚いたのは、会場となっている帝国ホテルの豪華さです。内装も普通のビジネスホテルとは段違いの格調高さでした。清掃も行き届いていて、塵一つ落ちていないとはまさにこのことです。 エレベーターを降りると何やら高そうな絵が飾ってあります。各階ごとに

        • 国立民族学博物館「交感する神と人ーヒンドゥー神像の世界」展レヴュー

          先日の10月21日(土)に国立民族学博物館で開催されている「交感する神と人ーヒンドゥー神像の世界」展を訪れた。2010年代に人間文化研究機構が行ってきた「現代インド地域研究」とその後継である「南アジア地域研究」の成果展としての意味合いがある同展は、これまでに民博によって収集されてきた膨大な数の作例が展示されている一方で、キュレーションに関しては文化人類学的な視点から行われていると言える。本稿では、展示構成や解説パネル、作品キャプションにおける課題を発見し、今後のインド美術の展

          ¥300

          インドはなぜイスラエルを支持するのか

          2023年秋にパレスチナを実効支配するハマスがイスラエルに攻撃を開始した。インドがイスラエルを支持している理由としては、覇権をめぐる米国と中国、中東におけるサウジアラビアとイランの対立、隣国パキスタンとの関係などが指摘されているが、インド国内の歴史的な視点からの考察はない。そこで本稿では、インドには古代からユダヤ人が居住していたので、パレスチナ問題においてはイスラエルを支持していることを明らかにする。 インドにユダヤ人がやってきたのは紀元前にまで遡る。彼らはイスラエルにあっ

          インドはなぜイスラエルを支持するのか

          現代インド社会における偶像崇拝論争

          今日、シク教開祖グル・ナーナクの肖像画はシク教徒たちの間で非常に人気があり、寺院や家屋、その他の公共の場所で壁に掛けられている。しかし、インターネット上の掲示板などでは、グル・ナーナクの肖像画は偶像崇拝を禁止するシク教の教義に違反しているのではないかという議論が盛んに行われている。そこで本稿では、印パの分離独立後に展開したシク教のナショナリズム(カーリスタン運動)に着目し、それによってグル・ナーナクの大衆宗教版画の図像がどのように変化したかを明らかにする。 シク教徒たちの分

          現代インド社会における偶像崇拝論争

          インドのアフガニスタン大使館閉鎖の意味

          10月1日のTBSの報道によると、インドのアフガニスタン大使館は同日を以って閉鎖をすると発表した。インド政府がタリバン暫定政権との関係構築を目指しており、大使館への支援を縮小したことで人員や資金が不足して適切な業務ができなくなったと報じられているが、その意義について論じられていない。本稿はインドのアフガニスタン大使館が閉鎖したことは、アフガニスタンが南アジアから中東へと帰属が変わりつつあることを示していることを明らかにする。 現在のアフガニスタン国家の原型は1747年に建国

          インドのアフガニスタン大使館閉鎖の意味

          カナダのシク教指導者はなぜ殺害されたのか

          シク教指導者の殺害をめぐって、カナダとインドが双方の外交官を国外追放にしたことが各メディアで報道されている。G20で議長国を務めたインドが国際的に注目されている中での衝撃的な出来事である。しかし、米国主導の民主主義陣営の結束に綻びが生じるという指摘があるが、そもそもインド政府がシク教指導者を殺害したと仮定した場合、その動機に関する報道はない。そこで本稿はインドが国境紛争を抱える隣国パキスタンとの関係に対して非常に敏感になっていることを明らかにする。 まず、シク教の独立運動は

          カナダのシク教指導者はなぜ殺害されたのか

          現役インド外相による『インド外交の流儀』を専門家が斬る

          インドの現外務大臣であるジャイシャンカル氏が上梓したThe India Way: Strategies for an Uncertain Worldが 2022年11月に邦訳出版された。最近インドがG20の議長国を務め、国名変更を模索するなど世界から注目を集めており、テレビ東京の豊島晋作氏がYoutubeで解説動画を流すなど、日本でも話題となっている。著作の中でジャイシャンカル氏は「インドは実利主義の中道路線を取ってきた」と主張している。しかし、インドは実際には西側の価値観を

          現役インド外相による『インド外交の流儀』を専門家が斬る

          インドの国名変更問題を歴史と現在から紐解く

          2023年のG20はインドを議長国として開催された。そのタイミングでインドのモディ首相が国名をバーラトとして表記したことが議論を呼んでおり、様々なメディアが報じている。イギリスによる植民地支配を受けた歴史的背景や選挙が迫る中で国内政治をモディ首相が意識しているとの見方も出たが、インド国内の言語状況を踏まえた考察はない。インドの国名変更問題は日本を英語でジャパンと呼ぶのとは本質的に異なることを明らかにする。 まず、インドという呼称はどのようにして使用されるようになったのだろう

          インドの国名変更問題を歴史と現在から紐解く

          (後編)アジア美術史からアジア間美術史へ

          これまでの記事で「アジア美術」という用語が日本特有の問題を孕んでいることが明らかになりました。今回は現状の課題を克服する解決策について考えてみます。 ここで一つ筆者が提案できるとすれば、「アジア美術史(Asian Art History)」を超えた「アジア間美術史(Intra-Asian Art History)」を構想することができるのではないでしょうか。つまり、東アジア美術、南アジア美術、東南アジア美術、そして西アジア美術や中央アジア美術のそれぞれの影響関係を議論したり

          (後編)アジア美術史からアジア間美術史へ

          (前編)日本の「アジア美術」概念を問い直す

          今日は日本の美術業界で頻繁に用いられている「アジア美術」という語について考えてみましょう。筆者がこのトピックに関心を持ったのは、5年間のイギリス留学の経験から、世界(特に欧米)と日本では「アジア美術」という用語の定義が若干異なっていると感じたからです。本稿の執筆を通じて自分の頭を整理するとともに、これまでは自明の概念として使用されてきた「アジア美術」という用語を定義することで、今後のアジア美術史研究の方向性を模索してきたいと思います。 21世紀はアジアの時代であると言われま

          (前編)日本の「アジア美術」概念を問い直す

          インド美術とは何か

          今日はインド美術のお話です。美術というと西洋美術とか、私たち日本人ならば日本美術とかが思い浮かぶと思います。それではインド美術とはいったいどのようなものなのでしょうか。一言で言うならば、インド美術とは日本とは全く異なる自然環境や社会・文化環境で制作された美術です。それぞれについて詳しく見ていきましょう。 インド、というよりももっと広義に南アジアは熱帯に属していて、気候的には非常に温暖で湿潤になります。これは美術作品の保存に大きな影響を与えました。古代には、紙芝居のように絵画