掌編小説 スペアみんと SF ショートショート 文芸
「この星には、何もないんだよ。何も」
ジローハチローが言ったことの意味は分からなかった。
僕は今はわかる。僕たちが必要とされていると。
ぼくは、この星に生まれたのは、今から3年前のことだ。ぼくは隣のジローハチローとすぐに仲良しになった。
ハチローは、僕より半年も早く生まれて運動も得意だった。
ぼくは、まわりの誰よりもハチローとたくさんおしゃべりをした。
食事の時も僕はハチローと一緒にしたし、いつも楽しかった。食事は、いつも同じ栄養食で変わらないし、おいしくなかったけど。
春が来てハチローは、トレーニング室でランニングマシンで運動していた。僕たちは健康でないといけないんだ。
僕はもちろんハチローの隣のランニングマシンで運動を始めた。ハチローとおしゃべりしながらする運動は楽しい。ハチローは、もう目が見えなくなっていたけど、運動は全然、平気だった。
僕が夢中になって、食事のフレーバーが変わらないことの不満を話していると、ハチローは突然、走るのを止めて夜空の星を見あげた。
僕は不思議に思い、僕も走るのをゆっくりと止めた。
「クロー、僕は明日、ミントになるんだ。待ち望んでいた日が来たんだよ」
僕はもちろんハチローがミントになるのが嬉しかった。ハチローは地球に行けるんだ。憧れの地球に。この星で生まれた人はミントになるのが夢だ。ミントになるまでに死んじゃう人もいるし。ホントにすごいことだ。
「ハチロー、おめでとう。僕も嬉しいよ」
ハチローはなぜか黙っている。
しばらくしてハチローはこう言ったんだ。
「この星には何もないんだよ。何も」
ハチローが地球に行ってからはすごく寂しかった。話し相手がいなくなったからね。でも、ハチローの次は僕がミントになれるかもしれない。そのためには、体を健康にして、いつでも体を提供できないと駄目なんだ。この前、両足を提供したからもう走れないけど、運動はいくらでもできるから。
聞いてくれてありがとう。僕は明日、ミントになるんだ。地球に行けるんだよ。願いがかなったんだ。
地球に暮らすジローのスペアとして産まれた僕らは、ミントになればジローの一部になれるんだ。ほんとに幸せなことだ。
ありがとう。ジュウローもミントになれるといいね。