帰国まであと85→79日!―今年度1回目の農村調査
7/9~7/12の4日間は久しぶりの農村調査でした。
現地調査は7/8~12の5日間の予定だったのですが、7/8,9は調査許可申請手続きが間に合わず、泣く泣く7/10~12の3日間に短縮することに。7/8は大学で諸々の部局訪問に費やし、7/9は公式の調査ではなくレンタカーをして調査地周辺の土地利用観察をすることにして、少しでも時間を有意義に使えるようにしました。
調査地に行く道は国道が1本のみがあるのみで、これまで道のあるルート周辺の土地利用しか知らなかったので、少し足を延ばし、より広域でアクセスしづらいところまで知ることができるのは貴重な機会になりました。Can Tho市→Hau Giang省→Kien Giang省→Bac Lieu省→Ca Mau省→Kien Giang省→Hau Giang省→Can Tho市というルートで、移動距離は365kmにもなりました。安全運転で朝から夕方まで頑張ってくれた運転手さんに感謝です。
筆者の調査地は、メコンデルタの中でも特に標高が低く、海抜標高以下の地域が分布しています。標高が海抜以下ということは、何もしなくても海水が内陸に入ってくるということであり、塩分浸潤の影響を非常に受けやすい地域です。1990年代までは、政策で稲作が推し進められていましたが、2000年に稲作不適地を水田以外の土地にしてもよい、という政策が出されました。1990年代末から、Kien Giang省の沿岸部で海や水路から流入する天然のエビや魚の養殖が始まりました。
現在では、調査地のほぼ全域に、稲作とエビやカニの養殖を交互に行うイネエビローテーションという農業システムが普及しています。2015~2016年に発生したエルニーニョ現象の影響で、乾期が長引いて水不足になり、水稲二期作のうちの夏秋作がほぼ枯れてしまう事態が起きました。それ以降、政策の変更もあり、水稲二期作からイネエビローテーションへの転換が急速に進み、現在まで続いています。
イネエビローテーションとは、乾期の半ばである旧正月ごろから養殖を始め、最も降水量の多い8月いっぱいまでが養殖期間、雨期の終わりの10月頭頃~乾期の始めの12月頃まで水稲一期作をする農業システムです。このシステム、とてもよくできていて、現地の環境によく適応しています。調査地は、水路の水が6か月は塩水、残りの6か月は淡水で、塩分濃度が劇的に変化する地域です。養殖の期間は水路の水が塩水になる期間に該当し、雨期の雨で塩分を洗い流して水稲一期作ができます。養殖によって出る、エビ、カニの糞などの有機物はイネにとっての有機肥料になり、イネを植えることで、養殖環境も整う。エビ、カニを飼うために、稲作では必然的に減農薬になり、エビカニが食べてくれるので、薬を撒いてタニシを駆除する必要もありません。現地の水環境に適応的で、かつ環境負荷も低いこのシステム、面白くありませんか?
7/9の広域土地利用観察では、このイネエビローテーションはどのあたりまで広がっているのかを調べることが目的でした。衛星画像解析や、Google mapの衛星画像から、ある程度検討はつくのですが、衛星画像解析では、撮影時期によってはイネエビローテーションが稲作地or養殖池のどちらかに分類されてしまい、ローテーションシステムのある地域を特定することができません。(稲作の時期、養殖の時期それぞれに撮影した衛星画像の土地利用を解析し、重ね合わせて土地利用が変わっている地域がローテーションシステムに該当するはずではあるのですが。)また、衛星画像だけを見ても、それが、ローテーションシステムの中の養殖時期なのか、それとも通年の養殖なのか、判断がつきません。なので、現地に行って見て、実際の圃場を観察することは必須です。
今回分かったのは、通年養殖とローテーションシステムでは畔のようすが違うこと、土地利用は川を挟んで劇的に変わっていることでした。養殖をしている地域は、おそらく川からの水をそのまま養殖池に取り入れられるようになっていて、川を挟んで養殖をしていない地域は、輪中になっていて、水路から水が入るのを制限orコントロールしていると考えられます。
以下、写真とともに調査地の様子を少しご紹介。
このエビたちはどこから来ているのでしょうか?だめもとで話しかけたのですが、集荷場のボスが快く質問に答えてくれました。オニテナガエビたちは、Kien Giang省と隣接するBac Lieu省の省境の地域から集めているそうです。値段は養殖池ごとに違うから一概には言えんなぁとのこと。農家と仲買人の関係によってもきっと値段が違ってくるのでしょう。
Hau Giang省側までは、カユプテの植林地やパイナップル畑が広がっていました。酸性硫酸塩土壌が広く分布する地域にみられる典型的な土地利用です。フェリー乗り場はオニテナガエビの集荷場になっていたり、tepが売られていたり、その川がエビエリアとの境になっていることが分かりました。
Bac Lieu省の省境には通年の養殖池が広がっていました。水はイネエビローテーションの圃場より色が暗くて深そう。畔には植生がたくさんあり、少し崩れてごつごつしたような、年代物っぽい趣がありました。Bac Lieu側からCa Mauに入ると、Quạn Lộ Phụng Hiệp の道沿いは再び水稲地域になり、トウモロコシなどの畑作地域を越え、コアシを植えている池ゾーンと水稲ゾーンを越え、さらにカマウ市に近づくと、通年の養殖池地帯になりました。このあたりはもうイネエビローテーションはなさそうです。
カマウ市から北上し、再びKien Giang省に入りました。Kien Giang省に入るときも川を渡るのですが(ここには橋があった)それを越えると、ぽつぽつとイネエビローテーションのような見た目の圃場や、イネの刈り株が残った圃場が出てきました。
Ca Mau省とKien Giang省の省境の地域はおそらく、気候やそれぞれの農家の決定によってイネエビローテーションにしたり、通年の養殖にしたり、土地利用を柔軟にコントロールしているのでしょう。そのため、境の地域でははっきりイネエビローテーションと通年の養殖で分かれていなかったのだと思います。
調査地を縦断し、Cai Lon川を渡り、Cai Lon水門の見学に来ました。2019年に着工し、2021年に完成した水門で、2022年から運用されています。乾期の大潮の期間など、塩分浸潤が深刻になる時期に全て水門を閉めることで内陸への塩分浸潤を防ぐ役割を期待されています。この水門建設事業は、ODAではなく、建設計画から完成までベトナム独自で実施したそうです。
Cai Lon川のお隣のCai Be川にも水門があり、そちらは毎月複数回閉めているそうです。また、放水の役割も果たしており、雨期に水位が増えると水門を開けて放水する役割も果たしているそうです。
水門の内側には塩分濃度や水質を24時間計測する機械も設置されています。
広域土地利用観察の後、3日間で予備調査を実施しました。
今回の記事はここまで!月末からは本格的に調査が始まるので、予備調査の質問表の分析、調査地の歴史資料の読解、博論のお手本にしたい本を読み進めたり、ベトナム語を勉強したり、次の2週間は準備に充てます。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。😊
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