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『ハツカネズミと人間』を読んで


初めて読んだのは数十年前だ
以来、なんだか定期的に読みたくなる

それがスタインベックの
『ハツカネズミと人間』である

ざらざらと乾いたカッコいい小説
アメリカン・ハードボイルド

流れ者の労働者の物語で
バディ物っすわ

日雇い現場とかで汗をかいた経験のあるブルーカラー野郎が読めば胸にガッツリと刺さる

そんな小説なんである

非常に詩的で戯曲的
セリフ回しとかがカッコいいんよな、、
そして大浦暁生さんの翻訳が良い


凸凹コンビとか
不幸を運んでくる悪女とか
心優しき怪物とか


悪く言えばステレオタイプのオンパレードだし、伏線張りまくりのどんでん返しまくりの現代のお話に慣れた今の若者が読めば『なんかよくある物語だなぁ』と感じるかもしれない


だがそこも含めて良いんよなぁ、、、


ペペロンチーノ食いたい時は
シンプルな只のペペロンチーノを食いたい

オールドファッション食いたい時は
チョコもクリームも要らない

そんな風な
シンプルなアメリカの古い名作です




おれたちみてえに、農場で働くやつらは、この世の中でいちばんさびしい男たちさ。家族もねえ。住む土地もねえ。農場へ来て働いちゃ、小金をかせいで町へ行き、きれいさっぱり使ってしまう。それが終わると、また別の農場へ行って、汗を流しながら働く渡り者だ。先にはなんの望みもねえ


金をかせぐまでは、ここでがまんしなきゃなんねえ。しょうがねえんだレニー。なるたけ早くここから出て行こう。おれだって気持ちはおめえと同じだ。ここは気にいらねえよ


そこは十エーカー、小さな風車がある。そこに小さな家がたち、ニワトリ小屋もある。炊事場も果樹園もある。サクランボ、リンゴ、モモ、アンズ、クルミ、それにイチゴも少しはとれる。ムラサキウマゴヤシの牧草地が広がって、水がゆたかにそれをうるおす。それにおれたち、ブタも二、三頭飼える。じいさんが持ってたみてえな燻製場を建てて、ブタを殺すとベーコンやハムを燻製で作ったり、ソーセージやなんかもみんな作れる。サケが川をさかのぼって来ると、何百匹もとって、塩づけにしたり燻製にしたりできる。朝めしに食うんだ。サケの燻製くれえうめえものはねえ。くだもののとれる季節になると、缶詰にして-ーそれにトマト、これは缶詰にしやすい。日曜日ごとに、ニワトリかウサギをつぶそう。たぶん、メウシかヤギを一頭手に入れ、しぼった乳のクリームがものすごく分厚いんで、ナイフで切りスプーンで取り出さなきゃならねえ


それに、これは自分の土地だから、だれもおれたちを追い出せねえ。いやなやつがいたら、〈出て行きやがれ〉と言やあ、それでもう、そいつは追い出せるんだ。友だちがやって来たら、そう、余分の寝床を作っておいて、〈まあ一晩泊まってゆけや〉と言やあ、どうだい、そいつは泊まってゆく。セッター種の猟犬を一匹と、まだらのネコを一つがい飼うが、おめえ、ネコにウサギの子をとられねえように見張ってるんだぞ


町に見せ物やサーカスが来たり、野球やフットボールの試合があったりしたら、おれたちゃ、そいつを見に行くんだ。
行っていいか、なんてだれにもきかねえ。〈見に行こう〉と言って行くだけさ。ウシの乳をしぼり、ニワトリにエサをやっておいて、町へ見に行くんだ


何百人という男たちが、背中には毛布の包みを背負い、頭にはそれと同じくだらねえ考えを抱いて、農場から農場へと渡り歩くのを、おれは見てきたがね。何百人という男たちがだよ。この連中はやって来て働いちゃ、やめて次へ移って行く。その一人一人が、みんな頭の中に小さな土地を持っている。でもだれ一人、その土地をほんとうに手に入れた者はいねえ。まるで天国みてえなもんだ。みんなが小さな土地をほしがっている


あたし、サリーナスに住んでいたの。子どものころ、引っ越して来たのよ。あるとき、旅まわりの劇団がやって来てね、あたしは役者の一人と知り合いになった。劇団といっしょに来ていい、ってその人は言ってくれたの。でも、かあさんが許さなかった。あたしがまだ十五歳だから、って言うのね。だけど、その人は来ていいと言ったのよ。行ってりゃ、こんな暮らしはしてないわ。ほんとよ


また、別のときにはね、映画の仕事をしてる人に会ったの。その人といっしょに、リヴァーサイド・ダンスパレスへ行ったわ。その人、あたしを映画に出そうって言うのよ。生まれつきの才能があるんですって。ハリウッドに帰ったらすぐ手紙をよこすと言った


映画に出て、すてきな着物を着ることもできたーーあの人たちが着るようなすてきな着物をみんなね。ああいう大きなホテルの中にすわって、あたしの写真をとらせることだって。試写会のときにはあたしも行って、ラジオで話すんだけど、映画に出ているから、お金なんか一セントも払わなくていい。あの人たちが着るようなすてきな着物をみんな着るの。だって、あたしには生まれつきの才能がある、ってその人に言われたんだもの


笑わせないでよ。あたし、おまえたちのような者を見すぎるほど見てるの。おまえたちはね、それこそ二十五セントでも手にはいろうものなら、それで安物ウイスキーの二杯も飲んで、グラスの底までなめるじゃないか。おまえたちのことは知ってるよ


ーー初めの初めからわかってたんだよ。
けっしてできないとわかってたような気がする。あいつがあんまりその話を聞きたがるもんだから、できるような気におれもなっていたんだ


ひと月働いて五十ドルかせいだら、おれはどこか女のいるけちな家で夜どおしすごすよ。それか、店じまいの時間まで玉突き屋にいるだろう。そうして帰って来ると、またひと月働いて、もう五十ドルかせぐさ



「さあ、行こう、ジョージ。おまえと二人で一杯飲みに行こう」ジョージは助け起こされるままに身をまかせた。「ああ、飲もう」


スリムが言う。「飲まずにおれんだろう、ジョージ。きっと飲まずにはおれんだろうよ。さあ、おれといっしょに行こう」



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