映画感想「６５８km、陽子の旅」

アマプラにて視聴
劇場で観たかったけど観れなかったのでこちらで
では感想を書いていきたと思います
ネタバレもあるかと思うので、これから視聴予定の方はお気をつけください

まずはあらすじ
公式から引用

42歳独身青森県弘前市出身。
夢破れ人生を諦め惰性で日々を過ごしていた就職氷河期世代のフリーター陽子（菊地凛子）は、かつて夢への挑戦を反対され20年以上断絶していた父が突然亡くなった知らせを受ける。
従兄・茂の一家が葬儀のため弘前へ帰る車に無理やり乗せられ、しぶしぶ一緒に帰ることに。
しかし、途中のサービスエリアでトラブルを起こした子どもに気を取られた茂の一家に置き去りにされてしまう。
陽子は弘前に向かうことを逡巡しながらも、所持金がない故にヒッチハイクをすることに。
しかし、出棺は明日。それまでに実家にたどり着けるのか。
北上する一夜の旅で出会う人々・・・シングルマザー、人懐こい女の子、怪しいライター、心暖かい夫婦、そして若かりし父の幻・・・様々な人々との出会いにより、時を止めていた陽子の心が動きだす。

・現代版社不のロードムービー

社不という表現が良いのかはわかりませんが、社会不適合者の略ですね
あらすじではフリーターとしか書かれていませんが、実際は挨拶もまともにできず人とのコミュニケーションを取ることすら難しい、コミュ障を極めしものみたいな状態です

そんな陽子がヒッチハイクをしながら青森を目指す
最初はかなり無茶に思えます
車に乗せてくれる人や一緒にいてくれる人たちに対してまともにお礼もいえないので、正直イライラします

そんな状態でも人々との交流を通して陽子は成長、というか人間性を取り戻していきます
特に福島で出会った老夫婦との出会いは陽子にとって大きかったように描かれます
親切な奥さんにはもちろん、寡黙でも優しい旦那さんとの交流から父への想いに向き合います
それが後述する独白のシーンに繋がり、ラストへと向かっていく
その頃には冒頭から序盤の陽子からは見違えるようになっていました

決して派手じゃない、現代社会の難しい問題への問いかけ的な側面もありますが、これはロードムービーと言っていいんじゃないでしょうか

・菊地凛子さんの名演
主人公・陽子を演じるのは菊地凛子さん
冒頭からだんだん成長していく様を丁寧に演じ切ったのは素晴らしかったです
根っこの気質は変えずに、胸の内を絞り出したり、行動的になっていく陽子を自然なグラディえーションで演じてられたと思います
序盤にイライラさせられたのも菊池さんの演技力あってこそでしょう

・あえて喋らせないというオダギリジョーの使い方と存在感
旅中で度々現れる陽子の記憶の中の父親
陽子が語りかける一方で父親は一言も喋りません
基本的に陽子から父親へは否定的な事しか語りかけません
それを笑っていなしたり、時には悪い行いをした陽子を叩いたり
実在はしていない存在、陽子の心の中を表しているに近い表現ですが、それをあえて喋らせずに
しかもオダギリジョーという誰もが知る名優とその飄々とした存在感で際立たせた手法は素晴らしかったです

・陽子に対する人々の優しさとその向け方
陽子がヒッチハイクをしていた中で出会った人々は親切な人が多かったです
まぁそうでもない人もいましたが

ただその人たちも優しさに一線を引いているというか
乗せてくれたにも乗せた側のメリットがあったり、陽子の一歩踏み込んだお願いは断って去って行ったり
これは当然なことで、否定されることはもちろんないです

これは真理だと思うのですが、人は自分の余裕のある中での優しさのみを他人に配れるものだと思います
自分の身を削ってまで渡す優しさはいつか破綻します
冷たく聞こえるかもしれませんが、そういうものだと思います
少なくとも受け取る側はそう思っておくべきです

それでも多くの人の渡せる分の優しさに多く触れ、陽子は人間性を取り戻すことが出来、青森に無事到着して父親と最後の別れをするという目的も果たせています

なので優しさを渡す側の考え方として、相手にとって十分な優しさを渡せなかったなと思い悩むことはなくて
自分の中で渡せる分の優しさを渡せる自分であれば良いんじゃないかなと思います
それが積もり積もって。巡り巡って。
誰かの助けになると思います
もしかしたら自分を助けてくれることもあるかもしれません
まぁこれは期待しない方が賢明ですけどね
そういう人でありたいとは思えました

・車中での陽子の独白シーンとラストの泣きの長回しがすごい
具体的なシーンを言っちゃいますと
福島での老夫婦との交流で父親への思いを自覚した陽子
次に乗せてくれた父子にその想いを独白します

これが長回しワンカットで素晴らしいですね
陽子の葛藤と今気づいた想いを言葉にして紡ぎ出す名演でした
聞いている父子があんまり反応がないのも逆に良かったですね
陽子が取るに足らない話と前置きをして、話すだけ話させてくださいと言ったからですが
こういう前置きが言えるのも成長と感じました

ラスト、父親の出棺に間に合い涙を流すシーン
言葉も相手もなく、ただ涙と慟哭のみで構成されるこのシーンも凄い
今までの人生と、父親への想いと、これからのことだったり
色んな思いからの涙だったのかなと推察できるシーンでした

今回思ったこととしては
・大切な人とは話せるうちにしっかりコミュニケーションを取る必要がある
・優しさはまず自分に。そして配れるものは誰かに
・一人で生きるのはやっぱりリスク高いので人間関係を今一度見つめ直さないと

今回はこの辺りで
ここまで読んでいただき有難うございました