本の要約 支援のための認知行動療法
Ⅰ.認知行動療法の使い方
認知行動療法とは
認知とは、人間がもつ重要な高次脳機能のひとつ。目にしたこと、体験したことなどについて、理解・解釈する働き。
しかし、人によっては、認知が苦しみの源となることも。ものごとを適切に捉えるのは案外難しい。
認知行動療法では、偏りのある認知を、現実に即した認知(適応認知)に変えていく。
できそうな行動、楽しめそうな行動を促し、活動量を増やすことで、気分が徐々に改善したり、「不安な対象や場面を避ける」という行動パターンを変えると、不安が軽減したりする。
このように、認知や行動の変容を促すことで、つらい気分を改善するのが『認知行動療法(CBT)』。
実践法としては、1対1の心理療法面接を基本に、病気ではない人へのカウンセリング、SNSカウンセリングなどにも広く使える。
基本の認知行動療法
認知行動療法は、心理療法の一種に位置づけられる。
認知行動療法とそのバリエーションは、多くの疾患で推奨されており、相談者にも安心して推奨できる。
ただ、初心者にはややハードルが高い認知行動療法もあり、使える技法の幅を広げるには、より専門的なトレーニングが必要。
心理職として経験が浅く、使える技法が限定的なうちは、無理は禁物。
「自分には無理かも」と思ったら、より熟達した心理職や専門医にリファー(紹介)する。
希死念慮や自殺企図がある場合は、より万全の対策が必要。入院も含め、24時間体制で対応できる医療機関に繋げる。DVや虐待を受けている場合は、安全確保が最優先。心身の疲弊が著しい場合は、休養が必要。精神症状が強い場合にも専門医にリファーし、まずは薬物療法と休養で、心身を安定させることが優先。
心理療法において、治療構造は非常に重要。はじめて来訪した段階で、「1回50分の面接を週一回、計12回前後で」などと提案し、合意のうえで進める。
医療機関で、保険診療として医師が行う場合は、厚生労働省の治療マニュアルに沿って進める。⇒うつ病の場合は、30分以上の面接を週1回、計16回程度が基本。
心理職がおこなう場合は、とくに制約はないが、面接時間は45~50分程度が一般的。回数は10~20回程度が目安。
うつ病の場合は行動活性化法が推奨されている。
「気分がよくならないから、何もせず布団で過ごす」といった回避行動では、気分はよくならない。回避行動の代わりに別の対処行動を考え、実行してもらう⇒結果、自分の改善を実感できれば、より機能的で役立つ行動を選択できるようになる。
特定の状況や行動に強い不安があると、人はそれを避ける⇒身を守るための「安全確保行動」。
安全確保行動を続けると、不安な状況や行動はより恐ろしいものと認知され、動悸などの症状も出続ける。⇒これを変えるのが、不安症への行動的アプローチ。
不安や恐怖の克服は、ひとりでは困難なことも多い。支援者が刺激の強さを調整し、温かくサポートしながら行うと、無理なく進められる。
医療機関での認知行動療法
精神科メンタルクリニックでの認知行動療法は、保険診療の場合と、それ以外の場合に分けられる。
保険診療は、医師がおこなうほか、医師の指示のもと看護師がおこなうこともある。
保険診療以外では、医師のほか、心理職、看護職、精神保健福祉士などのスタッフが実施する。
がん患者については、初期から強い不安や恐怖が生じ、診断後1週間以内の自殺率は、健康な人の12.6倍という報告も。⇒これに対し、認知の変容や行動活性化などを行うと、有意に低減する。
慢性心不全のように、進行性で治癒困難な心疾患でも、認知行動療法がガイドラインで推奨されている。
企業での認知行動カウンセリング
メンタルヘルスの不調で休職、退職する人は、増加の一途をたどっている。
産業領域での認知行動療法で、まず考えるべきは一次予防。⇒ストレッサーをどのように「認知」し、どのように「対処(コーピング)」するかについて、健康なうちに理解を促す。
ストレスチェック制度で高ストレスと判定されたり、産業カウンセラーを訪ねてきた場合は、二次予防の対象。ストレスを抱えた人がうつ病などの心理的障害を発症するのを防ぐ。
心理的障害が疑われるなら、産業医や精神科医へのリファーが原則。産業カウンセラー自身が、治療としての認知行動療法をおこなうことはできない。まずは、診察が優先。
リワークについて、産業カウンセラーは、産業医や産業保健師らと連携し、事業者にも働きかけを行い、適切な受け入れかたについて理解を促し、環境調整を進める。
個人面接や集団認知行動療法などを用い、コミュニケーションや問題解決スキルを高め、復職後のストレスに上手に対処できるようにする。
学校での認知行動療法
子どもへの認知行動療法も、世界的に広く実践されている。
不登校に陥っている子どもでは、抑うつ得点が高い傾向にあり、診察を受けていないだけで、実際はうつ病である子も少なくない。
月一回程度でも、学級単位で集団プログラムを実施すると、ストレスへの対処スキルの向上が期待できる。
発達障害の可能性のある子どもは、小中学生全体の6.5%を占める。特性を理解したうえで、一人ひとりにあった支援と配慮をおこなう。⇒とくに推奨されているのは、ABA・行動分析学を応用し、望ましい行動を増やす支援法。
SNSカウンセリング
2017年以降、厚生労働省と文部科学省、内閣府が力を入れているのがSNSカウンセリング。テレサイコロジー(遠隔心理支援)の一種で、全国SNSカウンセリング協議会が中心となって進めている。
媒体としては、おもにLINEが使われている。
最大のメリットは敷居の低さで、精神科やカウンセリング機関に抵抗をもつ人、何らかの制約で来られない人にも支援ができる。
SNSカウンセリングは、通常の面接と治療構造に主に2つの違いがある。
①匿名性。名前は聞かず、年齢・性別・相談内容だけを確認して話を進める。
②時間。文字情報の伝達には、会話の2倍以上の時間がかかる。90~120分程度と、通常の倍くらいをめやすとする。
主訴の確認後は、受容・共感を示しつつ、情報収集とアセスメントを進める。
Ⅱ.認知行動療法の始め方 初期面接の流れ
インテーク
初回面接は『インテーク』とよばれ、信頼関係を築くための第一歩。
どの相談者も、苦しい思いを抱えて来訪する。まずはその思いに共感を示し、勇気を出して来てくれたことを労う。
次に、面接時間枠や進め方など、治療構造の説明を相談者に行う。秘密保持の原則についても伝える。
相談者が安心して心を開ける環境をつくる。
問題の構造理解には、その人をとりまく状況の理解も不可欠。必ず確認しておきたいのは以下の4つ。
職業・学校生活
対人関係
成育歴
生物学的要因
問題をどう改善したいのか「目標」を聴き、共有する。
相談者の多くは、心理的障害をかかえている。診断済の場合も、疑わしい場合も、心理検査は欠かせない。⇒検査はつねに一定の尺度を用いて経時的に確認していく。相談者にも、その都度フィードバックする。
治療同盟の構築
ひとりの人間として向き合い、ともに問題解決に取り組むこと自体に治療効果があり、この関係を『治療同盟』という。治療同盟の構築は重要な要素。
その基礎となるのが『クライエント・センタード・アプローチ(来談者中心療法)』。支援者は「受容」「共感」「自己一致」の姿勢で相談者に寄り添い、支える。
一方で、相談者の思いに共感し、傾聴しているだけでは、問題解決は困難なため、具体的技法を用いながら、「サポーティブ(支持的)」と「ディレクティブ(支持的)」の中間くらいの姿勢でかかわっていく。
step1. 具体的な質問
step2. 共感的な傾聴
step3. 要約
step4. 統合・分析のための質問
⇒背景にある認知が原因かもと気づかせる。
心理教育
認知行動療法の主役は、心のつらさに悩む相談者自身。支援者は、そのサポーターとして伴走し、現実に即した認知を見つけられるよう支援する。
重要なのは、主体的に参加し、現実に即した認知の見つけ方を学んでもらうこと。
「心のつらさはどこからくるのか」「なぜくりかえされるのか」を図のような認知モデルで説明する。相談者自身の問題に関連付けて説明すると、より理解しやすくなる。
そのうえで「変えることがえきるのは、認知と行動のふたつ」「まずは認知の偏りを探す作業に取り組んでみませんか?」とプロセスを説明する。
認知行動療法で重要なのは、客観的で、現実を偏りなく捉えること。根拠や実証性なしで、すべてを前向きに捉える「ポジティブシンキング」とは大きく異なる。
問題を正確に理解させることにより、相談者の動機付けを高めることに重きを置く。
ケース・フォーミュレーション
インテークでアセスメントと心理教育をおこなったら、次はケース・フォーミュレーション(事例定式化)。
問題が起きている具体的な状況と、そのときの認知や気分、行動から「なぜ問題が起きたか」「問題の維持要因は何か」などの構造をあきらかにする。
作成したケースフォーミュレーションは、支援者のためだけのものではない。必ず相談者に共有し、率直に意見を聞いてみる。この段階では、作業仮設と考え、必要に応じて随時つくり直す。
同意が得られれば、仮説をもとに治療プランを考える。同意が得られないときは、相談者に確認しながらその場で修正していく。
認知モデルでケース・フォーミュレーションをおこなうことは重要だが、断片的な情報を立て、それに固執するのは危険。⇒事実関係をきちんと確認し、内容によっては、ほかの職種と連携し、環境を改善したほうがいいこともある。
Ⅲ.認知行動療法の始め方 毎回の面接の流れ
チェックイン
2回目以降の面接では、前回の面接以降に、気分の変化や変わったことがなかったかを尋ねる。これが面接の導入にあたる『チェックイン』。
表情などの非言語情報も、入室時からよく見ておく。
前回の面接以降に、つらいできごとがあった場合は、内容を具体的に確認。ただし、チェックインにかけられるのは最初の2~5分程度。
アジェンダの設定
その日に話すテーマを『アジェンダ』という。
チェックイン後に5分ほど時間をとって、アジェンダを決める。数はできれば一つに。
アジェンダは相談者の意見を聞いたうえで、優先順位の高いものを選ぶ。
「希死念慮」「遅刻やドタキャンなどの治療妨害」「DVや失業などの危機的状況」があれば、アジェンダとして最優先で扱う。
認知・行動の修正
アジェンダが決まったら、問題解決のための話し合いとワークを進める。
通常は、認知再構成法から始め、行動的アプローチの順に進める。それでも改善しなければ、自動思考の背景にあたるスキーマの修正に取り組む。
問題の構造は一人ひとり異なるため、相談者の問題を確実に改善できるよう、優先順位を考えて進める。
できそうなことから柔軟に取り入れていく姿勢が重要。
多くの相談者は、自分に自信がもてず、自己効力を失っている。その修正のためにも、相談者の強みを積極的に見つける。
つらさに寄り添いながら、強みに気づかせる言葉かけをしていく。
問題解決のための案を出せたときにも、「具体的でいいアイデアですね!」などの言葉かけをし、さらに積極的にい案を出せるよう力づける。
ホームワーク
その日の面接でおこなったワーク、決めた行動などを次回までのホームワークとすることで、認知行動療法の効果は確実に高まる。
学んだことを現実場面で試すことで、成果を実感できる。対人関係スキルの向上にもつながる。
ホームワークは、実行可能性をよく考えて、相談者と話し合って決める。できなかったときのために、より簡単な別案を決めておく方法もある。
フィードバック
面接の最後の5分間は、その日の振り返りとフィードバックに使う。面接で得られたこと、相談者が感じたことなどを確かめる。
支援者が「~に気づけましたね」などと、成果を要約して伝えたり、「今日の面接でどんなことを感じましたか?」と尋ね、フィードバックしてもらう。疑問点もあわせて確認し解消する。
面接初期には「私の態度で、嫌なことはありませんでしたか?」という確認も役立つ。
最後に次回面接予約の確認を行い、面接を終了する。
Ⅳ.認知再構成法
気分と認知の評価
面接初期に相談者から出てくる言葉は「つらい」「もう無理」など漠然としている。自分の気分(感情)を捉え、言葉にすることが、認知行動療法のスタート。
「つらい気分が強いのですね。それは悲しみでしょうか、落ち込みでしょうか、それともほかの気分?」と気分の同定を促す。
気分を同定できたら、今度はその強さを評価する。「これまで感じたもっとも強い悲しみを100%として、いまの悲しみは何%でしょう?」と尋ね、数値で表してもらう。⇒これを習慣化すると、つらいときに浮かぶ認知にも気づきやすくなり、自分の心に起きていることを客観視する効果もある。
「やっぱり自分はダメ」といった思考と気分の違いについても説明しておく。
「悲しい」「つらい」⇒気分
「やっぱり自分はダメだ」「これからもうまくいかない」⇒思考
いやなできごとは誰にでも起こり、結果として起こる気分は人それぞれ。
⇩
できごとをどのように理解・解釈するかの「認知」のフィルターが人それ
ぞれ異なるため。⇒この原則を理解してもらう。
直近のつらいできごとをあげてもらい、「そのできごとが生じたとき、どんな自動思考が浮かびましたか?」「そのときの気分の種類と点数はどうですか?」と尋ねてみる。⇒相談者自身の脳内で生じた考え(自動思考)が、苦しみの原因。
心を苦しめる思考が自動的に頭に浮かぶ原因は、ベックの認知療法モデルによると、状況理解における情報処理に誤りがあると考え、これが 『推論の誤り』で、およそ10種類に分けられる。①全か無か思考②過度の一般化③心のフィルター④マイナス思考⑤結論の飛躍⑥拡大解釈と過小評価⑦感情的決めつけ⑧すべき思考⑨レッテル貼り⑩個人化
まずは10の推論の誤りを理解してもらい、「自分にもあてはまる」と気づくことが重要。⇒性格ではなく脳のクセであり、練習で変えられることを必ず伝える。
気分と自動思考の関係を理解できたら、現実場面でさっそくチェック。次回までのホームワークにする。⇒ホームワークには気楽に取り組めるよう支援する。
ホームワークを出した後の面接では、アジェンダに入る前に、そのフィードバックを。
フィードバックでは、支援者が一方的に解釈を加えるのではなく、相談者自身が気づき言語化するプロセスが重要。
気づきがあれば、問題の構造理解に役立てたり、その日のアジェンダにして認知再構成を図る。
自分では気づきが得られない場合は、ヒントを提示。別の視点から質問し、問題の構造理解を促すのもよい。
このワークは次回以降もおこない、気分と認知の評価を習慣に。今後の生活で、ストレスに自分で気づき、対処するためのスキルとなる。
認知再構成
面接場面や現実場面で、自動思考を見つけられたら、その変容に取り組む。
相談者の問題に強くかかわる「ホットな思考」に優先的に取り組むと、限られた時間で、最大の効果を得ることができる。
自動思考を見直すときには、客観的な検証が必要。その考えを裏づける「根拠」と、現実に即していないことを示す「反証」をできるだけ多く挙げてもらう。⇒ひとつでも反証をあげられたら「いい反証ですね」と褒めて力づけ、他の反証も引き出す。
反証のほうが多ければ、その認知は偏りのあるものとわかる。
相談者のホットな思考に、どんな推論の誤りが隠されているかを考えてもらう。
自動思考の偏り、推論の誤りに気づけたら、シートに書き出すなどして認知再構成を進める。
また、つらいできごとを乗り越えた過去の経験に焦点を当て、「それほどつらい状況をどうやって乗り越えられたのでしょうか?」などと質問することも有効。⇒自身の強みに気づき、ポジティブな面に目を向けられるようになる。
ひとつでも認知の再構成ができたら、別の認知でも試してみる。⇒再びつらいできごとがあっても「認知に偏りがあるかも」と気づき、変えることができる。
マインドフルネス&ACT
第三世代の認知行動療法として登場したのが、マインドフルネス認知療法とACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)
多くの相談者は、これまでの方法で、偏った自動思考を変えることができる。一方で「原因は何か」「この思考がよくないのか」と考え続け、苦痛が続く人もいる。⇒マインドフルネスではこの状態を『作業モード』と定義。
これを『存在モード』に変えるのが、マインドフルネスの効果。脳内の思考と闘うことをやめ、〝いま、ここ〟の体験や感覚に、心を集中させる。
マインドフルネスの考え方に、行動分析学にもとづく理論を加え、体系化したのがACT。
ACTでは、〝認知をそこにあるものとして受け入れ、とらわれない〟という心のありようを目指す。⇒最大のメリットは、つらい気分にのみこまれず、現実的な問題に対処しやすくなること。
ACTの行動的アプローチは、大きな視点で行動を変えるもの。診断のつく心理的障害だけでなく、心理的柔軟性が脆弱で、生きづらさに悩む全ての人に適している。
Ⅴ.行動的アプローチ
行動活性化法
行動活性化法は、うつ病に対する認知行動療法の中核的技法。
活動量減少という維持要因を変えることで、うつ症状の改善を図る。
まずは、ホームワークとして、シートに一週間分の活動と気分を記録してきてもらう。⇒記録から相談者の生活状況を把握。
つらい気分が低下している時間帯に注目し、次週はその行動を増やし、楽しみや達成感を得られるようにする。
気分を悪化させている行動を別の行動に置き換える。
「お酒を飲んでダラダラ過ごす」など、苦痛を先延ばしするだけの回避行動も見直す。
これらの新たな行動を次週の活動記録表に書き込み、その計画に沿って過ごし、前回同様、気分も記入してきてもらう。
新たな活動記録表の作成後は、次回面接でのフィードバックが重要。
実行できたことを称賛しながら、楽しめる活動をさらに増やせるよう支援する。⇒ひとりでできる活動を実行できたら、今度は人と会う活動も取り入れるなど、活動の幅を広げることも重要。
「気分→行動」ではなく「行動→気分」の関係であることを伝え、気分がよくなる行動をひとつでも試してもらう。
問題解決技法
認知の偏りを修正したうえで、現実の問題解決ができれば認知の確信度は深まる。そのために役立つのが『問題解決技法』。
【問題解決技法】
StepⅠ 問題の明確化:現実の困りごとで解決できそうなものを選ぶ。
☆ブレインストーミングで案をたくさん出してもらう。
☆出揃ったアイデアから「解決度」「感情的好ましさ」「時間・労力」「メリット/デメリットの比率」を基準にマイナス5~プラス5点で評価し、もっとも高いプランを採用する。
StepⅡ 解決策の検討:たくさんの案を出し、いちばんよさそうな方法を選択。
StepⅢ アクションプラン作成:5W1Hまで決めて確実に実行できるように。
☆結果の予測も重要。
☆対人関係の問題なら、事例のロールプレイも有効。
アクション
StepⅣ 結果の検証:どのような結果でも、次につながる有益な情報に。
☆新たな行動に取り組めたことを称賛し、ねぎらう。
☆望ましい結果に終わったら、今回身につけた問題解決スキルで別の問題にもチャレンジ。
☆期待した結果が得られなかった場合は、プランを修正して再チャレンジ。
対人関係解決技法
どの世代でも、悩みの上位に入るのが対人関係。この悩みの背景にも認知の偏りがある。⇒「結論の飛躍」「すべき思考」など推論の誤り。
まず認知を変えることからスタートし、そのうえで、適切なコミュニケーション法を学んでもらう。
コミュニケーションのスタイルは大きく3つに分けられる。
非主張的自己表現
攻撃的自己表現
アサーティブな自己表現⇒めざすべきコミュニケーションスタイル
アサーショントレーニングは、現実場面での対人関係に焦点をあてて進める。ロールプレイも試すと効果的。
面接でのトレーニング後は、現実場面で試してもらい、次回面接でそのときのフィードバックを得る。
怒りの感情が改善しない人には、アンガーマネージメントが有効。
行動変容も重要。怒りに任せて衝動的に行動しないよう「その場を離れ、水を飲む」などのコーピングスキルを覚えてもらう。
エクスポージャー法
日本の不安症の患者数は、推定1000万人以上。不安症は何らかの反応として生じた不安がきっかけで、不安がどんどん大きくなり、日常生活に支障をきたすのが特徴。
強い不安を改善するには、まず認知再構成から。
安全確保行動へのアプローチは『エクスポージャー(曝露療法)』が役立つ。
エクスポージャー(曝露療法):学習理論の「馴化(慣れ)」の原理の応用で、苦手とする場面や行動に少しずつ挑戦し、克服をめざす。
そのためエクスポージャー実施時には、相談者と話し合い、不安改階層表をつくる。
不安強度が低~中等度の行動から試し、ステップアップしていく。⇒日時と場所と行動内容を明確にして取り組んでもらう。
エクスポージャー実践の前に、必ず身につけておきたいのが、リラクゼーション法。⇒身体を意図的にリラックスさせると、不安が生じたり、大きくなるのを防ぐことができる。
馴化による不安低減効果は、特定の場面や状況に20~30分間以上身を置くことで得られる。「まず行動してみる」という意味で、初回は5分、10分の行動でもかまわないが、以降は長めの時間で。
必要なら同行し、見守りながらおこなう。主治医にも相談しておくと確実。
次回面接では、行動できたことを褒め労う。そのうえで、行動の結果気づいたことや認知の変容を確かめる。
Ⅵ.スキーマ修正法
スキーマの同定
自動思考を修正しても、またその思考に戻ってしまう人には、自動思考のおおもとにある『スキーマ』にアプローチする。
スキーマとは、ものごとの構造を示す図のこと。認知科学では、脳内での情報処理の仕組みをさす。
スキーマは、認知の構造や様式そのもの、自動思考と違い意識に上ることはない。そのルーツは、幼少期からいまに至るまでの経験。
偏りのあるスキーマでものを考えていると、思考が硬直し、ものごとを柔軟に捉えられなくなる。⇒スキーマの変容を図る。
スキーマは「自己」「他者」「将来」に関する3つに大別される。
これらのスキーマは、相談者にとって、人生の真実。⇒相談者ひとりの責任ではないことは必ず伝える。幼少期から養育環境も大きく影響している。
スキーマの同定にはいくつかの方法がある。①自動思考から共通点を見出す方法。②下向き矢印法
下向き矢印法:ワークシートを用い、自動思考が何を意味するかを繰り返し問い続けると、根本のスキーマにたどりつく。どんなに偏った自動思考でも、それが正しいと仮定して、その意味を問うのがポイント。
面接では、これまで築いてきた治療同盟のもと、より温かくサポーティブな姿勢を心がける。
自身の力量を超えるようなら、スキーマ療法を専門とする心理療法家にリファーする。
スキーマの修正
問題となるスキーマが同定できたら、その妥当性を検証する。
判断材料は、そのスキーマが相談者の利益になっているかどうか。⇒メリット・デメリットを挙げる。
デメリットがひとつでもあれば、不利益を被っているということ。⇒スキーマを修正する。
問題となるスキーマの多くは、特定の価値基準で自分を傷つけ、苦しめる物差しのようなもの。
ひとつの評価基準にこだわったり、特定の側面ばかり見ず、全体を捉えるようアドバイスしながら進める。
新たなスキーマをものにするため、毎日記録を行ってもらう。⇒思考ではなく事実を書き残すことが最大のポイント。
肯定的な事実が多く記録されるほど、新たなスキーマを心から信じられるようになる(最低3か月は続けてもらう)。
終結と再発予防
認知や行動の変化が認められ、目標達成に近づいたら、面接の終結を考える段階。
予定回数終了の2回前くらいには切り出し、心の準備とともに、今後のことを話せるようにする。
関係の消滅ではなく、治療同盟や学びは心のなかで生き続けることを伝える。
治療全体を振り返り、変化と成長に気づけるよう促す。
〝あなた自身が成し遂げた結果〟という点を強調し、心からのねぎらいと賛辞を贈る。
面接やワークで身につけたスキルをこの先も使ってもらう。
心理障害の診断がついている人では、再発の可能性を話し合っておく。⇒認知行動療法により再発率は減らせるがゼロにはできない。
重要なのは、再発のサインに早めに気づくこと。睡眠・食事・余暇活動などの生活管理も重要。
以上、本の要約になります。
めちゃくちゃ長くなってしまいました(^^;
お読み頂き、ありがとうございました。
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