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本の要約 発達障害「グレーゾーン」

はじめに

  • 『発達障がい』という言葉が広く知れ渡り、自分の生きづらさは発達障害が原因なのではないかと考え、受診や相談にくる人が増えた。

  • あっけないくらい簡単な問診とチェックリストによるスクリーニング検査だけで、ちゃんとした発達検査さえ行わず、診断が下され、薬まで出されているケースも珍しくない。

  • 一方で、診察、発達検査を受けてみたものの『グレーゾーン』つまり境界域だと判定されることもある。

グレーゾーン

『グレーゾーン』ってなに?障害レベル(はっきりと診断が下った)の発達障害より症状が軽いから安心していいの?
→グレーゾーンの人は診断障害レベルの人と比べて生きづらさが弱まるどころか、ときには、より深刻な困難を抱えやすい。
→グレーゾーン特有の生きづらさが生じ、障害レベルの状態とは質的に異なる困難さが生まれる。
○愛着心や心の傷が絡んでいることが少なくない。
○特別な治療アプローチやサポート、幅広い知識や様々なケースに対応できる実践的な経験、ノウハウが必要。

Ⅰ.「グレーゾーン」は症状が軽いから問題ない?

グレーゾーンと診断された場合に、よく医師や専門家から言われる「様子をみましょう」は「障害ではないので安心していい、今は何もしなくていい」という意味ではない。
→何の働きかけもせずに、自然の成り行きに任せていると弱い部分はさらに弱くなって、ある時期から急に深刻な問題として表面化するということになりやすい。

☆グレーゾーンは決して様子を見ればいい状態ではなく細やかな注意と適切なサポートが必要な状態。

グレーゾーンの背景

グレーゾーンと呼ばれる状態には、愛着障害や過去の心の傷が影響している場合が多い。
☆生育歴やこれまでの人生で印象的だった出来事等の情報収集が大切。
☆一概に「グレーゾーン」と言っても、ケースによってバリエーションが大きく、全く別の障がいと言っていいほど状態や困難の中身も違ってくる。
→その中身を理解することが大事。

Ⅱ.同じ行動を繰り返す人たち

○一つの行動パターンへの執着やこだわり
自閉症スペクトラム(ASD)の特性の一つだが、その症状だけでは、発達障がい(ASD)の診断には至らない→ASDグレーゾーン?
○同じ行動パターンへのとらわれだけで診断できる障害がある。
常同運動障害:同じ単純な行動を繰り返し続けることが特徴。

常同運動が生じるメカニズム

・神経細胞の興奮を抑制するGABAという神経伝達物質の働きが弱い。
・ビタミンDの不足により生じる(らしい)。
・ストレスや孤立といった環境要因も悪化にかかわっている。

特定の行動・思考パターンへのこだわり

単なる行動パターンに留まらず、柔軟性を欠いた同じ考えや視点、融通の効かない思考にとらわれることも含む。
☆自分のスタイルを大事にするということは、高い創造性や生産性に繋がると言えるが、自分のスタイルや価値観を周囲にまで求めすぎると、周囲の人間が少しでも違ったことをするのが許せず指摘してしまう。
→トラブルや生きづらさに繋がる。

執着気質と強迫性パーソナリティ障害

執着気質:「仕事熱心、凝り性、徹底的、正直、几帳面、強い正義感、ずぼらができない」ことを特徴とする正確 →気持ちの切り替えができない
強迫性パーソナリティ障害:責任感が強く「〜すべきである」という自分の規範に囚われ、それを柔軟に変更したり、緩めたりすることができないタイプ。
☆自分の特性と上手く付き合って、メリットの部分を活かし、デメリットの部分を最小化するためには、まず自身の特性を自覚することが大切。
→記録、カウンセリング、認知行動療法等で自分の特性を客観視する。

トラウマに起因するとらわれ

固着:脳が敏感な特別な時期に、何らかの強い興奮や印象を受けることで生じるとされる執着減少。
↓ネガティブな場合
いわゆるトラウマ
→近年注目されているのは、比較的軽度なトラウマが続くことによって生じる複雑性と呼ばれるタイプ。
①フラッシュバックの症状
②トラウマになっていることで心的エネルギーをすり減らしてしまう。
※②は持続的なダメージが生じる大きな要因になっている。

強迫性障害

強迫性障害:手を洗い続けたり、鍵やガス栓を何度も確認したり、自分でもあり得ないと思っている考えや心配にとらわれたりすることで、日常生活に支障が出る。
→根底には不安や恐怖があり、同じ行動を繰り返すことによって安心感を得ようとしている。
☆認知行動療法や薬物療法が有効

Ⅲ.空気が読めない人たち

社会的コミュニケーション障害:言葉のやりとりや非言語的なサインを通して、言外の意味やニュアンスを察しながら、その場にふさわしい会話を交わし、気持ちや意図や情報を共有することがスムーズにできない状態。
※ASDと診断されるには、これらに加え「限局された反復的な行動」というもう一つの症状に該当する必要がある。→ASDグレーゾーン?

コミュニケーションの能力はあるのに人付き合いを避けてしまう人

人と親しめない「非社会タイプ」「回避性タイプ」
非社会タイプ:対人交流よりも孤独を好むという傾向があり、それは人と交わることに喜びを感じ難いためだと考えられる。
回避性タイプ:本当は社交や親密な関係を求めているけれども、笑われたり拒絶されたりするのが怖くて、対人関係の構築ができないタイプ。

Ⅲ.イメージできない人たち

ウェクスラー式の発達検査における知覚統合
・図形や地図を理解したり、パズルを組み合わせたり、規則性を見つけたりする能力に関係。
・視覚的な情報と意味を結びつける能力。
・目の前にないものをイメージ化、図式化し、それによって推論や思考を行う能力。

知覚統合が低いと…

  • 周囲の状況が言外の意味を汲み取ったり語られない意図を察知したり、状況判断したりすることが難しくなる。

  • 聴き取りやコミュニケーションの能力にも関与している。

☆知覚統合を鍛えるには
幼いころから、ブロック玩具やパズルに親しむことが有効。将棋やオセロ、ボードゲーム、パズルゲームも知覚統合を駆使する遊び。

Ⅳ.共感するのが苦手な人たち

知覚統合が突出して強いタイプ

客観視ばかりで、共感や関与が不足しており、分析して説明してくれるものの突き放した姿勢があり、優しさが欠けていたりする。
自閉症研究の第一人者、バロン・コーエンによると、人間の脳には、共感を得意とするEタイプとシステム思考を得意とするSタイプがある。
ASDは極端なSタイプ

  • 知覚統合が優れていても、脳における社会性・共感性の働きが弱いと対人関係やコミュニケーションは円滑にはいかなくなる。

  • ASDと診断されないレベルであっても、共感や情緒的な繋がりを大事にすることに関心が乏しくなりがちなので、日頃からとくに注意を払って、周囲の人のへの気持ちを理解するよう努力する必要がある。

☆カウンセリングや共感力を高めるトレーニングが有効

Ⅵ.ひといちばい過敏な人たち

・感覚過敏に苦しむ人は近年とても増えている。
・代表的なものとして、HSP(子どもの場合はHSC)がある。
・感覚過敏は、ASDの診断基準の一部を満たすが、それだけでは診断に至ら  ない→グレーゾーンという判定になりやすい。

過敏で傷つきやすい2つのタイプ

①HSPタイプ:人の顔色や反応にも敏感で過度に気を使うタイプ
②ASDタイプ:音や光の刺激などへの感覚過敏が強い一方で、周囲の反応には無頓着で気遣いはあまり無いタイプ

①:生得的な要因+養育環境からくる要因→不安型愛着スタイル

感覚過敏がある人では、当然ながらストレスを感じることが多くなり、不安や緊張も強まりやすく、肩こりや頭痛、めまい、腹痛や下痢といった症状がよく見られる。
☆感覚過敏改善と克服のためには
認知行動療法・マインドフルネス・ポジティブ心理学におけるアプローチ・家族との関係や接し方の改善・ほどよく忙しくする・SSP・薬物療法 など。

Ⅶ.生活が混乱しやすい人たち

ADHD急増の謎

○疑似ADHDの増加
→症状がADHDと似ているものの、原因が他の精神疾患、うつや不安障害、依存症、愛着障害などによって引き起こされるもの。
→大人のADHD(大人になってから診断を受けたADHD)は疑似ADHDである可能性が高い。

ADHDと疑似ADHDの見分け方

  • 不注意の症状が12歳までに始まっていて、年齢とともに少しずつマシになる傾向があるのか、それとも12歳以降に目立つようになり、むしろ年齢とともにきつくなっているか。

  • うつなどの気分障害や不安症、何らかの依存、過食、解離などの症状をもっていないか。これらの症状がとくに複数ある場合は疑似ADHDの可能性が高い。

  • 親との離別や親からの虐待、支配など不安定な愛着の問題がある場合。

  • 前頭前野を事故などで損傷した結果、後遺症として行動のブレーキが利かず、不注意や多動、衝動性が目立つようになる。

不注意や衝動性等からくる生活の混乱を防ぐには

意思決定とプランニングの能力を高めることが大切。

  • マインドフルネス

  • メリット/デメリットの数値化

  • 何人かの意見を訊く

  • 自分で企画、計画し、それを実際にやってみて、上手くいかないところを修正するということを積み重ねていく。

  • 薬物療法に安易に頼らない。

Ⅷ.動きがぎこちない人たち

運動の苦手さや手先の不器用さだけでは、発達障害と診断されるケースは少なくないが、小さな子どもで不器用さが目立つ場合には「発達性強調運動障害」という診断を受けることがある。

○発達性強調運動障害
その人の年齢から期待されるよりも、協調運動(左右の手足を組み合わせて行う運動のこと)の進歩が遅く、練習してもなかなか身につかず、上達が遅いことで生活に支障がでる。→グレーゾーンが疑われる人が非常に多い

  • 手先や身のこなしの不器用さは、社会的な不器用さと連動しやすい。

  • 手先や身のこなしの不器用さは、早い段階から発達の課題に気付く重要なサイン。発達の課題を改善していく手がかりとなり、バロメーターにもなる。

☆改善のためには、脳の統合を助けるトレーニングが有効
・球技、体操、水泳、ピアノなど
・本人のモチベーションを保ちながら、根気強く取り組んでいくことが重要

Ⅸ.勉強が苦手な人たち

勉強が苦手になる5つの原因
①知的障害
②言語障害
③学習障害
④ADHD
⑤ASD

気づかれにくい知的障害のケース

○境界知能
知能指数が70〜80(85とする場合も)のレベルの知能をもつ場合をいう。一般人口の二割近い人が当てはまる。

学習障害とワーキングメモリ

  • 学習障害と関係が深いと考えられているのがワーキングメモリ(行動記憶)。

  • ワーキングメモリの低下があると、数字や言葉を頭に留めておくことのが、困難になるため、計算や文章の理解がスムーズにできないし、とくに何段階もの処理が必要な計算や長い文章の聴き取りや読解が難しくなる。

  • コミュニケーション力を高めるには、言語的な訓練ばかりでなく、ワーキングメモリを高めたり、視点の切り替えや変化を予測する力を磨き、知覚統合を高めることも有効。

ワーキングメモリを鍛えるには

暗唱訓練、ディケーション(聞きながら書きとる)、リピーティング(聞きとった文を繰り返す)、シャドーイング(聞き取りながら同時に声を出して繰り返す方法)が有効。

☆一番大切なことは、本人が好きなことや得意なことに取り組ませ、そこで成果や達成感を味わわせること。

Ⅹ.グレーゾーンで大切なのは、「診断」よりも「特性」の理解

診断名だけで、その子、その人の特性を理解した気になって、画一的な対応をすると、的外れなことも起きてしまう。
診断名以上に、それぞれの人のベースにある特性を把握することが大切。

☆大事なのは障がいか、障がいでないかを区別することではなく、その人の強みと弱点とをきちんときちんと理解し、適切なサポートやトレーニングにつなげていくこと。


以上、お読み頂き、ありがとうございました。


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