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🎬崖上のスパイ 感想
1934年、満州国ハルビンを舞台に、ソ連で訓練を受け密命をおび潜入した4人の共産党スパイと満州国特務機関との駆け引きを描く。
スパイ活劇と言いながら、展開は極めてリアルに徹していて硬質。
途中アクション活劇的な描写はあるのだが、中心になるのは4人のスパイを取り巻く人々たちの敵か味方かわからない予測不可能な駆け引きとなる。
二転三転する敵味方の構図は目まぐるしく、現状認識が着いていけないところも。
また、登場人物のファッションがスパイも特務機関もほとんどいっしょで、俳優にも馴染みがないため、特に前半部分ではどの人が誰だったかがわからなくなり少なからず混乱してしまった。
敵味方が入り乱れる展開ゆえあえてそのような描写にしたのか、あるいはリアリティにこだわったからなのかはわからないが、そこにはストレスを感じた。
しかし、スパイたちの目的の「ウートラ計画」と並行して、特務機関内に潜入している共産党の内通者があぶり出されそうになっていく後半部分は、キャラクターもわかりやすくなりヒリヒリとした緊張感が続いた。
最後まで結末の見えないストーリーはおもしろく、ラストギリギリで伏線として張られていた人間ドラマがちゃんと回収されるのは単なるスパイ映画としてだけでは終わらない、登場人物たちの濃密な人間ドラマとしての背景を匂わせる映画に仕上がっている。
映画として満州国の当時のハルビンの街を再現したセットや持ち物、衣装などが完全再現されているのは見事で、当時の満州国にタイムスリップしたかのような錯覚を覚えるほど。
そのあたりの時代考証へのこだわりは、あまりくわしくはないが、チャン・イーモウ監督らしさなのかもしれない。
やや人物の認識にわかりにくいストレスはあったものの、あまり描かれたことのない時代と都市が舞台になっていることが珍しい硬質なスパイスリラーとして満足のいく映画だった。