🎬プライベート・ライアン　今観ての感想

午前十時の映画祭14で、公開以来久しぶりに劇場で鑑賞しました。

公開当時は冒頭のオマハビーチのリアルで残酷な戦闘シーンに圧倒され、正直言うとその後の展開はあんまり印象に残っていなかったんです。
なので、この映画は自分にとっては、やはり「オマハビーチ」のリアルを描いた作品、戦争の残酷さを描いた作品であり続け、その後のストーリーに思いをはせることはありませんでした。

今回鑑賞して、特にハッとしたのは、ラストの年老いたジェームズ・ライアンがミラー(トム・ハンクス)の墓前で、寄り添ってきた妻に「自分はいい人間か？」と問うシーンの持つ大切な意味でした。
日本語吹替版では「自分はがんばったかな？」というセリフになっていて、この映画を単なる美談として終わらせていますが、私は字幕版のセリフの深さに驚きました。

公開時にすでにその大切さに気づいていた方はたくさんいらっしゃったと思うのですが、自分はまだ若かった(それでももうおっさんでしたが…)ゆえにわからず、歳を重ねて初めてわかった、そんな気持ちになりました。


ここから私の勝手な解釈を書きます。

映画のクライマックスで、マット・デイモン演じるジェームズ・ライアンは仲間たちのために自分は帰らずナチスと戦うことを選びます。
ミラー大尉やマイクはそんなライアンの思いに惹かれ、ナチスと戦った上でライアンを連れ帰る…という無謀な道を選びます。
それは、ミラーたちがたくさんの仲間をなくしてきたこと、たくさんの敵も殺してきたことへの悔恨がやはりベースにあり、たった一人の若者を助け故郷に胸を張って帰るという悲しくもそこに血の通った人間として希望と誇りを持ったからだと思います。

ここに至るまでにミラーと部下たちは自分が犠牲になるかもしれない状況で探している「ジェームズ・ライアン」という人物をいろいろ想像します。
ボンクラだったらどうする？とか(途中の人違いはわかりやすかったです)ミラーは人類のために何か発明でもしてくれる人物ならいいが、と言ったりしています。
しかし、出会ったライアンは仲間を大切に思う熱い、しかし普通の若者でした。(マット・デイモンなので一見してそんな人物像が想像できるわかりやすさはありますが…)

しかし、ノルマンディー上陸を許したとはいえ、まだまだ巻き返しを試みているナチスの圧倒的な戦力に結果ミラーたちはライベンとアパムを残しみんな戦死してしまいます。
そして、それを見届けてライアンは故郷の母のもとに戻っていきます。

そして場面は変わり現在の年老いたライアンがノルマンディーのミラーの墓に問いかけるシーンに変わります。

ライアンの表情に明るさはなく、むしろ何かを失った人間にしか見えませんでした。
背後に生き残ったからいる子どもや孫もいるのに、ライアンとは距離を置いている。(この描写は冒頭にもありますが、そんなに顕著に何かを想像させるものではありませんでした)
ライアンはミラーのこと、ミラーが最後に残した言葉「無駄にするな」の一言を一度も忘れたことはないことを告げます。そしてひたすら必死に生きてきたことも。
そして、ライアンが寄り添う妻に問いかけるシーンへと繋がります。
そこでライアンは「自分はいい人間か？」と問いかけます。
その一言は、映画で語られた物語の後のライアンの人生を想像させました。

これは勝手な想像です。
ミラーたちが命を賭けて助けた若者は、本当に平凡などこにでもいる若者だった。
彼はたくさんの犠牲によって得た人生を必死に生きたことがわかります。
しかし、人が必死に生きることとはきれいごとだけですむのでしょうか？
結婚し子どもができ守るものが増えていく…。そんなふうに守るものが増えていけばいくほど、必死にそれを守って社会で生きていくためには、やむを得ず人を蹴落とし犠牲にしたり、あるいは意図的に排除したりひどい行いをしなくてはいけないこともないとはいえない。
人が生きるということは、そんなきれいごとだけで生きられるほど社会はやさしくはありません。
ミラーたちが命を賭けて助けたライアンが社会的にどんな地位にいるのかはわかりませんし、今どんな状況なのかもわかりません。
家族連れでフランスまで来ていることを考えると貧困家庭ではなく、むしろ裕福な家庭なのでは？とは思えます。
ただ想像できるのは、ミラーたちの命と引き換えに必死に生きてきたライアンは、社会の中で何人かの人たちを不幸にしてきたのではないか？ということでした。
「無駄にするな」と思いに駆られ、必死になればなるほど人はやさしいだけでは生きてはいけません。
ライアンは確かに必死に生きた。しかし、そのためにたくさんの人を排除したりひどい行いをしてしまってきたのではないでしょうか？
しかし、そんなライアンが自分が何かを失うことになり初めてミラーたちの真意に思いをはせたのではないか？
「自分はいい人間か？」の問いには、「自分はいい人間ではなかったかもしれない。もしかしたら、ミラーたちに助けられる価値などなかった人間ではなかったのか？」という迷いや後悔が感じられました。

ライアンにはそんなライアンを認めて理解してくれる妻がいます。
これは劇中語られるミラーとミラーの妻のエピソードと地続きになっている気がしました。

ライアン自身の自分は助けられる価値のある人間だったのか？助けられる意味のある人生を送ってきたのか？の問いかけ…。

しかし、そこからさらに掘り下げてみると、ライアンとは現代を生きるすべての人と世界のあり方を置き換えた存在なのではないか？という想像です。
「今の世界は命を賭けて救うべきものだったのか？そんな姿になっているのか？」がナチスと戦って死んでいったすべての人々から痛々しく問いかけられている、そんな気持ちがしました。(個人的には、日本で先の戦争で亡くなった人々からも同じ問いかけを感じています)
あの戦争で犠牲になったすべての人々が、今の世界や人々を見てどう思うのか？
いまだに鳴り止むことのない銃声に満ちた世界、自分のことだけ考えているたくさんの人々。
現代のこの世界は犠牲になった人々が「無駄にするな」と言ったものになっているでしょうか？

どこかで自分は助けられる価値などない人間ではなかったのか？と自問するライアンの姿は、世界の人々に同じ問いと思いを投げかけているように思いました。
残酷な戦争描写も、そんな思いにつながるとその意味の大きさがわかります。
あの人たちが残してくれた世界…。
自分にも置き換えて深く考えさせられました。

そこにある「無駄にするな」の言葉の重さ。
たくさんの犠牲の上に成り立っている今、そこに生きることは「自分たちの死を無駄にするな」という思いと「これからの時を無駄にするな」という痛々しくも熱いメッセージが込められているように思いました。

この映画を歳を重ねてその後のライアンの人生に思いをはせることのできる年齢になって鑑賞できたことは、勝手な解釈ですが思いのほか大きな収穫でした。

単なる戦争美談映画にしてしまっている日本語吹替版ではなく、字幕版での鑑賞を強くおすすめします。

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