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🎬渇水 感想
水道料金の滞納世帯を回り、給水停止を執行していく水道局職員の岩切。そんな彼が、育児放棄で取り残された幼い姉妹の住む家の停止をめぐって葛藤する。
水道を止められる家庭にはそれぞれいろいろな事情があるのだが、役所の人間として岩切は料金の支払いがなければ規則に基づいて給水を停止していく。
当初冷たい役人にしか見えない岩切だが、実はそんな業務と自分の感情との板挟みになって苦しんでいた。
相棒の後輩木田は「太陽や空気はタダなのになんで水は有料なんでしょうかね?」などと若手らしく疑問を口にするが、それについては途中で水道料金には水道管や施設の維持管理費も含まれていることが説明されていて、水をタダでは給水できない事情もわかりやすい。
しかしいかに必要な料金とはいえ、目の前の生活困窮している人々の重要なライフラインである給水を停止せざるを得ない水道局職員の苦しい心情はよく表現されていて、岩切の仕事ぶりが淡々と描かれているがゆえにその割り切りが逆に観ている側を苦しくさせる。
育児放棄され小さな姉妹だけが取り残された家の給水を停止するまでに、岩切はいろいろ自分ができる小さな好意は見せるのだが、そのあまりの無力さに岩切自身自責の念にとらわれてしまうところもよく理解できる。
役所の息苦しさの中でそれに少しずつ抗い始め、職務に縛られた職員から生身の人間へと変化していく岩切を生田斗真が泥臭く演じている。
また彼にいつも付き従って協力しようとする、サバサバしていながら実は熱い木田を磯村勇斗がいつもながら手堅く演じているのも印象に残る。
しかし演技の面では姉の恵子役・山﨑七海が出色で、妹の久美子を健気にかばいながら親や社会に絶望していく姿を見事に演じ心に突き刺さる。
岩切に「街中の大人はみんな嫌い」と言いながらも思いっきり助けを求めている眼差しは、この映画の見どころ。
岩切の妻子との別居など育児放棄と重なる親子関係が描かれ考えさせるが、このテーマの描き方は少しありきたりに思えて弱いのが惜しい。
「神様なんていない」という恵子のつぶやきがキーワードとなり辛い描写が続くのだが映画は急展開し、ささやかな善意と生きにくい社会への抵抗、そして小さな奇跡へとつながっていくのは大袈裟すぎずリアルでよい。
たやすい解決に振り切ることもできただろうが、わずかな希望と温かい思いやりだけを見せるやさしい鑑賞後感は個人的には好き。