🎬TAR/ター ネタバレ感想
世界の最高峰にいる音楽家で指揮者のリディア・ター。
栄光に満ちた彼女は自分自身の傲慢さから少しずつ転落していく。
カメラは始まりから最後までター、つまりケイト・ブランシェットだけを追い続ける。
さながらケイト・ブランシェットの一人芝居を見ているような不思議な感覚にとらわれる。
音楽も演奏される劇中曲だけで静かすぎる。
何の前知識もなく観てしまったので、延々とターという女性の姿を見続けているだけの映画?かと思ってしまった。
ターの周りで少しずつ不可解な出来事が起こるのだが、これも表現はいたって控えめ。
不愉快な音や思わせぶりな描写に終始していて、決してどぎつい表現で観ている側を驚かせるようなことはしない。
ケイト・ブランシェットが少しずつ軌道を外れて微妙に壊れていくターを、本当に薄皮をはがしていくような肌感覚で演じているのはおもしろくて見事。
クラシック音楽の知識がほぼなく、前半繰り広げられるクラシックのうんちく合戦にはうんざりしてしまったのだが、だんだんと高尚なはずのクラシック音楽の世界観が、ターの身勝手なえげつない真逆な世界観に変わっていく展開はおもしろかった。
途中ジェリー・ゴールドスミスやルキノ・ビスコンティ、コッポラの映画ネタが出てきたところではホッとしました。
ラストが驚きなのだが初見ではくわしい解釈がわからなくて、ネタバレ解説を探してしまった自分も"オジサン世代"なんだなーとつくづく思い知らされた。
これがハッピーエンドなのか?バッドエンドなのか?の解釈も世代や感性、生活様式でパックリ分かれてしまうだろうし、好きか嫌いかもここで分かれてしまうだろうと思った。
ジェンダー、マイノリティなどいろいろな社会問題も内包されているが、基本的にはラストで観る側の鑑賞後感が大きく分かれて、場合によってはちんぷんかんぷんになるであろう映画を正面からしっかり作り上げた製作サイドの思い切りのよさには感心しました。
追記
受け売りだが、前半のターがまくしたてるバッハのくだりが、芸術家の生み出す芸術と芸術家の人間性の関係を逆説的に説明していたのには気づかなかった。
ターとバッハの共通項、芸術家の人間性と芸術の関係性がわかりやすい。
目からウロコでした。
また前半のイヤになるほどのクラシック音楽のウンチクのやり取りが、しっかりラストの伏線になっていたことにも後になって気がつきました。