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🎬パリタクシー 感想

92歳のおばあさんを介護施設へと送り届けるため、パリを横断する仕事を請け負ったタクシー運転手。
おばあさんと運転手が最初はよそよそしかったにも関わらず、だんだんとお互いを理解し合う関係になっていく1日だけのタクシーの旅の物語。
そう言ってしまえば、ストーリーには全くあざとさはなく本当にそれだけの物語だし、最後の展開までほぼ予測可能なのに、不思議なくらい温かい気持ちに満たされてしまうのはなぜだろうか?

運転手のシャルルは免停寸前で借金もあり無愛想。そんなシャルルに人生最後のタクシーでの旅を委ねるおばあさんのマドレーヌが、自分の生きた人生の話をゆっくりとしていく。
当初は心が荒れていて、めんどくさがっていた様子のシャルルがマドレーヌの生きてきた波乱の人生を聞いていくうちに、それに思いを馳せ、ときに怒り、悲しみ、そしてマドレーヌのこれからのことも思いやっていくようになるのは、シャルルが本当にやさしく思いやり深い人だからだろう。

単なるハートフル・ストーリーだと思って見始めると完全に予想と違い、男性優位社会の理不尽という社会問題を捉えた映画なのには驚かされる。
ともすれば暗澹たる話になってしまう物語なのに、終始ゆっくりとした時間が流れ静かに観ることができるのは、マドレーヌとシャルルを演じた俳優(マドレーヌ役はシャンソン歌手の方らしい)の不思議な魅力とやり取りの妙、それをうまくつないだ演出にあると思った。
またバックに静かなジャズの音色が終始流れ、ともすれば暗くなってしまいそうな物語のテンポを見事にゆっくりと明るいものに変えている。

二人が意気投合していく過程は自然で、それが生きた時代は違っても二人がお互いの人生に共感し敬愛しているからだということがちゃんとうかがえる演出には説得力がある。
そして観ている側も二人の人生が限りなく愛おしくなっていくのは見事。

人生は短い。思っている以上に短い。
アメリカ兵と恋に落ちたマドレーヌ、そして介護施設に入るまでの人生の早さは本人にとっても驚くほどだったのではないかと思った。
実際、自分自身も最近思った以上に人生が短く感じられ、マドレーヌの気持ちに、なんとなくだが共感してしまった。

最後にすてきなタクシーに乗せてくれたのは、運命の女神のちょっとした微笑みとプレゼントだったのかもしれない。

温かい気持ちになれる秀作。
おすすめします。

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