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短編小説

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小説まとめました ほとんど超短編小説 思いついたときに書くので不定期です
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記事一覧

超短編小説 医者のバカ息子

大寒の寒い中、診療所の前で立ち止まっている。入るべきかどうかと。 中学の頃、医者のバカ息子がいた。口が悪く私はよくからかわれていた。バカ息子は医者になるよう親に勉強を強制させられててストレスが凄かったのだろう。 バレンタインのチョコをあげたこともあったが、二人の間に何もなくバカ息子は大学病院がある系列の高校に進学していった。 大人になってからバカ息子は系列の大学の医学部に入りお嬢様と付き合い医者になって結婚したと噂で聞いた。まあそんなもんだろう。 気がつくとバカ息子は

超短編小説 不動産登記簿

宅建の試験に合格しているので不動産登記簿を読むことができる。たいしたことではないが。 マンションに長いこと住んでいると近所の住人についてちょっと知りたくなるものだ。 オンラインで登記簿情報が見られるのは知っていたが、案外簡単に閲覧できることを知った。なんとなく近所の住人の不動産登記簿を閲覧してみた。 閲覧すること自体、違法ではない。 どうということはなかった。みんな住宅ローンを完済して綺麗なものだ。 ふーんと思って住宅ローン完済履歴を見る。どういうわけかみんな住宅ロ

超短編小説 縁と涼 その後

あの時見えた光景が今、目の前に。そして新たな生命が。 言葉が少ない涼だけど、今は幸せ。 二人でいろんな仕事をしてきたけど、助けられてきた日々は忘れない。 そしてこの子に不思議な力が宿るのだろう。 私はこの子に何ができるのだろうか。母と同じことが出来るだろうか。 父は私が生まれる前に仕事で命を失った。涼にそんな未来は見えないので大丈夫だろう。 「縁、できたよ」ぶっきらぼうに涼が呼ぶ。 食卓にちょっと雑な料理が並ぶ。「ありがと」と声をかけると、面倒くさそうな顔で涼が

超短編小説 強欲

勉強さえできれば何をしても怒られない。たとえそれが犯罪だとしても親族の力でどうとでもなる。そんな人間は意外と多いのかもしれない。 そんな人間たちの中で過ごし大人になって、何があっても昔の悪いことは出てこない。仲間たちの結束は固い。 その地位になれば欲しいものは手に入る。そのためには手段を択ばない。 あれも欲しい。これも欲しい。欲望は果てしなく続く。周りが諫めようとしても聞く耳を持たない。いざとなったらその人間を切り捨てればいい。それだけの話だ。 ふと気がつくと裏切者が

超短編小説 白い髭の老人

誰も信じないだろう。だから僕は誰にも言っていない。 まだ10代の頃だった。神社の手水で気配を感じた。ふりむくと凄い白い髭の老人が立っていた。 鋭い目つきでこっちを見ている。とりあえずそこからどくと、「望みは叶う」とつぶやき去っていった。 僕の望み、それはいったい何だろう。お金持ちになることか。幸せな生活か。有名になることか。一体、何が叶うというのだろう。 これからなのかな。 就職して結婚して仕事や家庭に追われその老人のことなど忘れていた。 子供も大きくなって就職し

超短編小説 涼と縁 初仕事

教授に卒論を出してほっとしていたら、突然呼び出された。スマホに地図が送られ至急、事務所に来るようにと。 電車を乗り継ぎ、指定の時間に事務所に着いた。「涼さんですね」と言うと事務員に相談室に案内された。事務員以外、誰もいないようだ。 「書類を届けに行くので、ここでごゆっくり」と言うと事務員は出て行った。 しばらくすると女性二人の声が聞こえた。年配の女性が突然入ってきた。「涼君よね。縁と一緒に仕事をしてね」と言うと縁が入ってきた。 しばらく見ない間に綺麗になっていた。やば

超短編小説 縁と涼 初仕事

大学生活も終わりに近づいた。無の時間をしなくても自分をコントロールできるようになっていた。 「縁、そろそろ仕事を覚えないとね」母はそう言って私を連れて小さな事務所に行った。戸を開けると誰もいなかった。 「ちょっと待っててね」と母は言うと相談室と書かれた部屋に入っていった。 「縁、入りなさい」母は戸から顔を出し私を手招きした。相談室に入ると、そこには涼君がいた。しばらく会っていなかったがかなり大人になっていた。 「涼君、久しぶり」小さく声をかけると涼君はちょっと頷いて「

超短編小説 隣人

今時、珍しい木造アパート。老朽化が凄く建て替えが半年後に決まっている。ほとんどの人は引っ越して、住んでるのは私と隣人だけ。 朝、起きて適当に食事を済ませ、出勤。錆びた鉄の階段を降りるとどこか軋んでいるような音がする。なんとなく視線を感じて上を見ると隣人が戸を開けて覗いていた。 挨拶をしても返すことにない隣人なので、そのまま自転車に乗って駅まで向かう。いつものことだ。 隣人はどうやら仕事をやめて家にいるようだ。たまに人が来ている。薄い壁なのでボソボソと聞こえるが何を言って

超短編小説 家族全員FIRE

家族4人仕事をしていない家があった。4人とも仕事はしていた。母親は事務員だった。父親は会社で母親と知り合い結婚。結婚と同時に母親は専業主婦になり子育ても終えFIRE。 息子は二人。一人は大学を卒業して公務員に。もう一人は大学を卒業して一般企業に。数年後、二人とも仕事が合わなくてFIRE。 父親は60歳定年を迎え再雇用もなしにFIRE。 4人ともごくごく普通に暮らしている。きっと投資が上手くいって暮らしているのだろう。羨ましい限りだ。 休日になると息子たちは昼間外に出て

超短編小説 涼 初恋

高校は寮生活だった。退屈な朝礼に退屈な授業。友達も出来ずただボーっとしている毎日。 教室の壁にもたれかかっていると「涼君、たまにはみんなと話そうよ」おせっかいな琴音が話しかけてきた。その隣で心配そう縁が見ている。なんだこいつら。 「うるせーな」そう言ってその場を去った。ただただ面倒くさい。なんであんなに心配そうに縁は俺を見たんだろう。 揉め事は嫌いだ。友達なんて揉め事運ぶだけだろ。中学時代に悪い連中に絡まれて大変だったことを思い出す。もうあんなのうんざりだ。 次は体育

散文 そんな朝

雨でも降っているかのように街は灰色に覆われた 少しだけ寒く湿った空気を吸いながら足を進める 風に木々が煽られ踊っている 髪が顔に張り付くのを手で払う 今日の仕事をあれこれ考え 無事に終わるように思いを巡らす やるしかないか 少しだけため息をつくと どこからか空き缶が転がりどこかへ行った

小説 縁 封印

母に栞ちゃんが事件に巻き込まれるかもしれないと慌てて相談した。泣きそうになってると母は「無の時間を」と言い私の頭をなでた。 しばらく無になった。母は「私は未来は見えないけど、止めることはできる」と言い、どこかに出かけて行った。 その後、事件の話は聞かなかった。栞ちゃんに何も起きなかったのだろう。母は「まだ力を使うのは大変かもね。大学出るまで封印しましょう」と私の頭をなでた。 朝、無の時間を過ごすこととなった。それで封印されるという。高校のあの朝礼はそういうことだったのか

小説 縁 開眼

大学は無返済の奨学金が貰えることになった。高校の成績がよく入試の成績がかなりよかったからだ。寄宿舎生活の個室で勉強に集中できたからだろう。 母も喜んでいた。SNSで知り合ってオリエンテーションで友達も出来た。ただ一つ問題なのは、近くの人の未来がなんとなく見えてしまうことだ。 母にそのことを言うと、気軽に人に話してはダメよと注意された。 寄宿舎生活していた時に、なんとなくこの子、ケガするよねって思ったら体育の授業で転んで骨折して驚いたことがある。黙っていたがそれ一回の事な

小説 縁 高校生活

高校は寄宿舎生活だった。山の中にあって個室が与えられ自由に過ごせる。 私は最高点で入った特待生。授業料も生活費も無料だ。必死に勉強してよかった。母の負担もほとんどない。 朝、精神統一の時間があって、みんな校庭に並んで無の時間を過ごすように言われる。 いろんなことを考えてしまう私を見抜き、指導の先生が「無の時間を」と注意する。どうもうまくいかない。 新入生はみんなそんな感じで指導の先生の「無の時間を」という声が何度も聞こえる。 そんな朝を過ごしてから、普通に高校生活が