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フランクフルトで彷徨う -偶然にひらけた風景-
見知らぬ土地を訪れたとき、あてもなく歩いてみたくなる
道に迷って、さまよってしまうことも
そちらのほうが多いかもしれない
今ではGoogleマップなど便利なものができて、迷うことも少なくなったが
むかしは自分のいる位置がわからず、途方に暮れたこともしばしば
だいぶ以前のこと
ヨーロッパの玄関口フランクフルト
そこで道に迷った
中央駅のそばに宿をとり、歩いて航空会社のオフィスに
予約を確認しての帰路、ホテルの方角と思い込んでふと違う道を選んだ
ゆっくり歩いても20分ほどの距離、迷うはずがないとたかをくくった
しばらく歩くと目の前に見知らぬ光景が広がる
高級住宅街・・・
商業地区にある中央駅には続きそうもない
よぎる不安に緊張を憶えながらひたすら歩いた
迷ったとわかっても、もとの岐点に戻ることもしなかった
結局2時間近くも彷徨っただろうか
どうやってホテルまで戻れたか覚えていない
タクシーを拾った記憶もない
でもなんとかホテルにたどり着き、何事もなかったかのように旅は続いた
いまこの街の地図を見ても、どこをどうさまよったか見当がつかない
二度と再現できない、小さな、自分だけの、一回かぎりの旅だったのだ
仕事絡みの旅行であっても、現地ではいろいろな場所場所を訪ねる
フランクフルトだったら、ゲーテの家、大聖堂、マイン側対岸のザクセンハウゼン・・・
その街に何度も行ったが、不思議にいちばん心に残っているのは、道に迷ったあのときの、目の前に不意に現れた見知らぬ住宅街のありさま
たぶん人生もこうなのだろう
計画通りにはいかない
後戻りもできない
想い出深い人と、出逢い、まじわり、そして別れる
たいていは予期しない偶然の連なりのなかで
そしてそのあとも、何もなかったかのように時は流れ、人生は続いていく
これからどのような偶然の出逢いがあり
どのような人とまじわり
どのような別れが待ちうけているのか
独り歩きを続けていくなかで その答えに邂逅するにちがいない